イーグルとのスパーリングの翌日から、俺はミゲルの指導でトレーニングを始めた。
ダッシュや縄跳び、そしてブリッジやら腹筋やらと基礎トレーニングをしていったんだが、何故かミット打ちは一切やらなかった。
疑問に思ってミゲルにやらなくていいのか聞いてみたんだが…。
「ホーク、君のパンチは実戦で身に付け磨き上げられたものだろう?ならばこれからも可能な限り、君の流儀を変えずに行きたい。君に課している基礎トレーニングは、実戦の中で君が新たな力を欲した時に、それを体現出来る様にするためのものだ。だから君がパンチを磨きたいのならば、実戦形式の練習であるスパーリングをするのがベストだね。」
そういうわけで、パンチを磨くならミット打ちの代わりにスパーリングをという事になった。
まぁ、ミゲルは名伯楽だからな。
そこら辺は信じよう。
そんな感じでトレーニングを始めてから3ヶ月が経ったんだが、何故かまたイーグルがジムに姿を見せた。
「イーグルは倍のスパーリング代を払ってくれるそうだ。受けなくてもいいのかな?」
そのニヤニヤとした笑顔はなんだ?このタヌキジジイめ!
まぁ、金を払うってんなら文句は無い。
しっかりと稼がせて貰うさ。
そう思った二度目のイーグルとのスパーリングなんだが…。
「コーナーに追い込まれた状況を想定して始めようか。追い込まれた役はホークでいってみよう。イーグルはホークをコーナーから逃がさぬ様に考えて攻めなさい。ホークはパンチを打たずにコーナーからの脱出を試みてくれ。」
こんな感じでミゲルはスパーリングに注文をつけてきやがった。
スパーリングが始まると、イーグルは生真面目に小さなパンチで俺を逃がさない様に攻めてくる。
何度も反撃のチャンスはあるんだが、ミゲルの指示もあって俺は避ける事に徹する。
そして適当に隙を見付けてコーナーから脱出した。
イーグルは一瞬だけ悔しそうに天を仰いだんだが、その後には直ぐに嬉しそうに笑いやがった。
「ホーク、やっぱり君は素晴らしいボクサーだ!君と競い合っていけば、僕はもっともっと強くなれる!」
イーグルらしい優等生発言だな。
だが…。
「俺は負けるつもりはねぇぞ。」
「…今は無理だが、いつか君に勝ってみせる。君にとって僕は力不足かもしれないが、僕は君をライバルだと思っているんだ。」
よくそんなこっぱずかしい台詞を真面目に言えるもんだ。
だが、悪くねぇ。
イーグル、お前は俺が初めて負けたくねぇって思った奴なんだからな。
◆
初めてのホークとのスパーリングを終えてから2ヶ月、漸くダメージが抜けてきた僕は練習を再開しようとしていたんだが、そんな時にゼール氏から電話が掛かってきた。
電話の内容はホークとのスパーリングだった。
聞いた直後は少し躊躇したが、あの時の右手の感触と達成感を思い出した僕は、ゼール氏にホークとのスパーリングを受けると答えていた。
スタッフに叱られてしまったが、僕の心は既にホークとのスパーリングで一杯になっていた。
そして練習を再開してから1ヵ月後、スパーリングの約束の日に合わせてしっかりとコンディションを整えた僕は、ゼール氏に指定されたジムにやってきた。
そこで3ヵ月振りに会ったホークの身体は、以前に比べて引き締まっている様に見えた。
ゼール氏に聞いたのだが、以前のホークは他のトレーニングは一切せず、スパーリングしかした事がなかったみたいだ。
だが僕とのスパーリングがキッカケで、ホークはトレーニングを始めたそうだ。
それを聞いた僕は誇らしくなった。
ホークとのスパーリングを行ったが、そこで見たホークの動きは前回に比べてキレが増している様に見えた。
コーナーに追い込んだ状況で、しかもホークの反撃が無いにも関わらず、僕は一発もホークにパンチを当てる事が出来ずに脱出を許してしまった。
悔しかった。
でも、それ以上に嬉しかった。
僕は競い合える相手を…ライバルを求めていたのだから。
今日この場で宣言しよう。
ホーク、君は僕のライバルだ!
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