イーグルと初めてスパーリングをしてから1年程が過ぎ、俺は16歳になった。
身長は180cmを超えたが、今の俺のナチュラルウェイトは原作のジュニアミドル級よりも下のウェルター級だ。
ミゲルはこのままトレーニングを続けていけば、1年後のプロテストを受ける頃には、俺のナチュラルウェイトはジュニアミドル級になっているだろうと言っている。
だから俺はジュニアミドル級でプロデビューするのだろうと思っていたのだが、ここで1つ問題が起こった。
それは…イーグルが俺をライバルだと公言した事だ。
オリンピックのメダリストになってから華麗にプロデビューという青写真が既に出来上がっているイーグルなのだが、そのイーグルがプロデビューで予定しているのがジュニアミドル級で、俺が予定していた階級と同じなのだ。
それの何が問題なんだと思うだろうが、ここで登場するのがイーグルのドキュメントを撮影している連中だ。
連中は話題性抜群のイーグルとそのライバルである俺の試合は、世界チャンピオン同士のタイトルマッチにしたいと考えたのだ。
同じ階級で別の世界王座認定団体のチャンピオンとしてやればいいじゃねぇかと思うだろ?
ところがどっこい。
世の中はそんな甘くなかった。
アメリカで認められている世界王座認定団体は多いのだが、それぞれの団体が持つ権威には差がある。
要するに同じ世界チャンピオンでも、そのベルトの価値に差が出てしまうんだ。
そういった事情があって俺にはイーグルが所属予定している世界王座認定団体で、ジュニアミドル級からウェルター級に下げてプロデビューして欲しい…という要請があったとミゲルから聞かされていた。
「別に構わねぇが、俺にメリットはあんのか?」
「ビッグマッチの多くはラスベガスで行われるのだが、イーグルとの関係で名が売れればそこでメインを張れる様になる。そしてベガスでの試合は一夜でミリオンダラー(百万ドル)を稼げる事もある。正にアメリカンドリームだね。もちろんホークが望むなら別の線でマネジメントするが…どうするかね?」
オーケー、その線でマネジメントを頼む。
まぁ、そんな感じで俺のプロデビューの話が裏で進んでいるんだが、それとは別に変わった事があった。
「やぁ、ブライアン。今日もよろしく頼むよ。」
イーグル…デビッドと俺は、お互いをファーストネームで呼び合う様になった。
2回目のスパーリング以降、デビッドは月に2回のペースで俺とスパーリングしにやって来る様になったんだが、そんなペースでスパーリングをしていれば完全に顔馴染みにもなるわなぁ。
しかもデビッドが絵に描いた様な真面目な好青年の上にコミュニケーション能力も高いとくれば、必然的にライバルでありながらも親しい友人となるわけだ。
デビッドとのスパーリングの内容なんだが、これは俺が稼ぐ為に相手をぶっ倒すものから、ミゲルの指導で俺とデビッドがお互いに技術と経験を高めるものに変化していた。
ミゲルが言うにはこれが本来のスパーリングなんだそうだ。
まぁ、金さえ貰えればどっちでも構わねぇけどな。
そんな感じで1年近くデビッドとスパーリングをしてきたんだが…デビッドの奴、最初の時と比べて明らかに強くなってんだよな。
ちょっと前にスパーリングをした世界ランカーと比べても遜色がねぇぐらいに強い。
このまま行けば、デビッドは原作よりも強くなるんじゃねぇか?
まぁ、それもいいか。
デビッドは俺のダチだし、強くなったデビッドならミリオンダラーを稼ぐ為の相手として不足はねぇ。
そんな事を思いながら、今日もいつも通りにデビッドとスパーリングをしていく。
そして日々はあっという間に過ぎていって、俺がプロテストを受ける日がやって来たのだった。
◆
「ホーク、準備はいいかな?」
プロテストも残すところはリングに上がって相手と戦うだけとなっていた。
俺もミゲルも、不安は欠片も無い。
あるとすれば…相手を壊しちまうかもしれないってところか。
まぁそんな事を気にする程、俺は殊勝な性格をしちゃいねぇがな。
スラムでそんな事を考えていたら、逆に食われるだけだ。
オールオアナッシング。
俺はブライアン・ホークになってから、いつだってそうしてきた。
そして、これからもそうしていくだけだ。
わかりやすくていい。
「ブライアン、幸運をとは言わない。君には必要ないからね。」
既に来年のオリンピック代表の内定を受けているデビッドが、俺の応援にやって来ていた。
「当然だろ。さっさとKOしてくるぜ。」
「オーライ。今日はレストランの予約をしてあるんだ。君とのランチを楽しみにしてるよ。」
デビッドはいい奴だ。
だから隣にガールフレンドがいようが目くじらは立てねぇよ、くそったれが。
…まぁ、いい。
この鬱憤はリングで晴らすとするさ。
恨むならデビッドを恨めよ。
リングに上がった俺は30秒で相手をKOする。
こうしてプロテストに合格した俺は、デビッドと奴のガールフレンド、そしてミゲルと一緒にランチを楽しむのだった。
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