プロテストに合格してプロデビュー戦の日が決まった俺は、ウインドブレーカーを着てトレーニングをしている。
まぁ、減量をするためだ。
今の俺のナチュラルウェイトはジュニアミドル級なんだが、そこからウェルター級のリミットまで減量をしなければならない。
減量を始める前は1、2kgぐらい楽勝だろうと思ってたんだが…まぁ、甘い考えだったな。
好きな時にステーキを食えないのがかなりきつい。
まぁ、文句を言ってもやるべき事は変わらねぇんだがな。
さて、減量を続けるかね。
減量で溜まった鬱憤はリングで晴らすとするさ。
◆
ウインドブレーカーを着て汗を流すホークを見てため息を吐く。
ホークの知名度を上げる為にイーグルのプロジェクトに乗っかったのだが…失敗だったかもしれない。
先日、知人に頼んでホークのメディカルチェックをしてもらったのだが、まさか184cmまで成長していたホークの身長が、まだ伸びる余地があるとは思わなかったのだ。
知人は信頼出来る医者だ。
その彼が言うのならば、ホークの身長は確実に伸びるだろう。
もはやウェルター級はホークの適正階級では無くなりつつある。
早々にホークの階級を上げねばならない。
現在のイーグルのプロボクシングでのナチュラルウェイトはジュニアミドル級だが、トレーニングを積み続ければ1年後にはミドル級になっているだろう。
オリンピックにはアマチュアボクシングのウェルター級に出場する事が決まっているが、プロデビューする際の階級はまだ決定していない。
なのでイーグルをミドル級でプロデビューさせる事は可能だ。
だがイーグルを確実にミドル級でプロデビューさせるには…向こうをこちらの事情に合わせさせるにはホークに実績が必要だ。
だがその程度、ホークならば何も問題は無い。
後は…私のマネジメント能力次第。
一息入れているホークを見て私は微笑む。
どうやらこの老骨に鞭を打つ時がきたようだ。
「ホーク…君には伝説を作ってもらうよ。」
そう呟くと、私は込み上げてくる笑いを堪えるのだった。
◆
デビュー戦の前日計量が終わると、俺はミゲルと一緒に馴染みのステーキハウスに入った。
「よう、マスター。」
「あのスラムのワルガキだった10ドルホークがプロボクサーとはな。俺も老けるわけだ。」
「ステーキを焼く腕まで老け込んだんじゃねぇだろうな?」
「はっ!そいつは食って確かめてみろってんだ!」
いつものカウンター席に座ると、マスターがステーキを焼き始めた。
減量を始めてからずっと焦がれていたステーキが焼ける匂いが、俺の嗅覚を蹂躙しやがる。
「ホーク、少しいいかな?」
「あん?なんだ、ミゲル。」
ミゲルが真面目な顔をしている。
どんな話でもいいが、ステーキが焼ける前に終わらせろよ。
「君のこれからの試合スケジュールについてだ。」
「おいおい、まだデビュー戦も終わっちゃいねぇぞ。」
「勝利以外はありえない…そうだろう?」
慢心しているつもりはねぇが、負ける気はしねぇな。
「プロボクシングの規定では、ダウンをしなければ2週間後から次の試合が出来るのだが…知っているかね?」
「知ってるけどよ…おいおい、まさかだろ?」
「ホーク、そのまさかだよ。」
ニコニコと笑っているミゲルに、俺はため息を吐いてしまう。
「ボクサー使いの荒いジジイだ。」
「君なら出来ると確信しているからだよ。」
「はっ、よく言うぜ。」
そう言って肩を竦めると、俺の前に待ち望んでいたステーキが置かれた。
俺はミゲルの話を聞きながら、ナイフとフォークを手にしてステーキに挑み掛かっていく。
「ホーク、君には1年以内にウェルター級の世界チャンピオンになってもらう。我々がイーグルの予定に合わせるのではなく、イーグルを我々に合わせさせるためにね。」
切り分けたステーキをフォークで刺すと、顔の前に持ってくる。
「オーケー。全員ぶっ倒して、王様になってやるよ。」
不敵に笑いながらそう宣言した俺は、肉汁滴るステーキに食らいついたのだった。
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