目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第15話『黒金の鷹伝説の幕開け』

デビュー戦当日、入場アナウンスが掛かるまで通路で待機していた俺は、そこからでもわかる会場の熱気に首を傾げていた。

 

「どうしたのかね、ホーク?」

「まだ4回戦の試合だってのに、随分と盛り上がってると思ってな。」

 

俺がそう言うと、ミゲルはニヤリと笑う。

 

「それだけボクシングが、アメリカで人気のスポーツだという事だよ。」

「なるほど、つまりは儲かるわけだ。」

「身も蓋も無いがその通りだね。」

 

俺が肩を竦めると、ミゲルは小さく息を吐いた。

 

「あん?どうした?」

「なに、ホークが緊張をしていないとわかって安心してね。」

「俺がそんな柄じゃねぇのは知ってんだろうが。」

「その通りだが、トレーナーはそういった悩みが尽きないものさ。これは職業病と言えるかな?」

 

ミゲルとそんな他愛ない会話をしていると、運営スタッフが入場を促してきた。

 

「それじゃ、行くとしようか。」

「おう!」

 

ミゲルに返事をしながら、俺は俺の『はじめの一歩』を踏み出す。

 

すると、会場の熱気が俺を包み込んできた。

 

スラムの連中の熱気も、この会場の連中の熱気も同じだ。

 

そう思った俺は、自然に笑っていた。

 

リングに向かって歩きながら拳を握り込む。

 

スラムから始まった俺の『ブライアン・ホーク』としての人生。

 

最初はスラムから成り上がる為の手段でしかなかった。

 

だが、今ではこいつで誰にも負けたくねぇと思っている俺がいる。

 

こんな風に熱くなる奴を、斜に構えて馬鹿にしていたのが前世の俺だったが…。

 

「はっ、悪くねぇ。」

 

今の俺はこうして熱くなるのを楽しんでいる。

 

この熱を知ってしまったら、もうあの退屈な日常には戻れない。

 

そんな事を思う俺を、俺は心から悪くないと思える。

 

さぁ、行こうか。

 

もっと熱くなれる…あのリングの上に!

 

 

 

 

リングに上がって名前がコールされると、会場の観客から歓声が上がる。

 

リング中央に歩み寄ると、対戦相手が俺を睨んできた。

 

ここら辺はスラムの喧嘩と同じノリだな。

 

「バッティングには注意して…。」

 

レフェリーが注意事項を話しているが、適当に聞き流す。

 

そんなもんに耳を傾けていたら、この熱が逃げちまうからな。

 

試合を始める為に俺と対戦相手がそれぞれのコーナーに別れると、ミゲルが声を掛けてきた。

 

「ホーク、帰る準備をしておくが構わないかね?」

 

流石だな、ミゲル。

 

俺の乗せ方をわかってやがる。

 

「おう!さっさとぶっ倒してやるよ!」

 

カーンッ!

 

ゴングが鳴ると、ガードを固めた相手が突っ込んできた。

 

俺は自コーナーで相手を待ち受ける。

 

もちろん、いつも通りにガードを下げたままだ。

 

相手は突っ込んできた勢いを乗せてスイング気味のフックを打ってくる。

 

隙だらけ過ぎねぇか?

 

何かを狙ってるんじゃねぇかと思った俺は、カウンターで殴り返さずに相手のパンチを避ける。

 

パンチを避けられた相手は返しの左フックから右ストレート、そして左のショートアッパーと開幕からラッシュを仕掛けてくる。

 

そのラッシュを全部避けていると、観客から大きな歓声が上がり始めた。

 

舌打ちを一つした相手は、左フックをすると見せ掛けて思いっきり前に踏み込んでくる。

 

タックルで俺をコーナーに押し付けるつもりか?

 

でもなぁ…。

 

「遅すぎだ。」

 

俺は左手を横に広げてがら空きになった相手の顎を下から殴り上げる。

 

こいつのタックルは、スラムで喧嘩をしたレスリング経験者と比べたら…呆れる程に遅い。

 

顔を跳ね上げられた対戦相手は、前につんのめる様にして倒れ込んでくる。

 

俺は横に一歩動くと、倒れていく相手の横っ面を殴り抜く。

 

すると、俺に殴られた相手はロープに弾かれ、リングに勢いよく転がった。

 

「ダ、ダウン!」

 

レフェリーが駆け寄ってきて、俺をニュートラルコーナーに押しやる。

 

カウント必要あんのか?

 

ニュートラルコーナーに行くとカウントが始まるが、レフェリーは途中でカウントを止めた。

 

こうして俺はデビュー戦を1ラウンドKOの圧倒的な勝利で飾る。

 

そして半年後、11戦11勝11KOの戦績で、世界ランカー入りを果たしたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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