「おい、デビッド。やる気がねぇなら止めるぜ。」
「あぁ、すまない。続けようか、ブライアン。」
ここ最近の僕はある事に迷っている。
そのある事とは…このままオリンピックに出場するべきかどうかだ。
こう思い悩む様になったのは、ブライアンがプロボクシングにデビューしてから僅か半年で11戦11勝11KOの素晴らしい戦績を上げたからだ。
もちろんライバルであり親友でもあるブライアンが活躍するのは喜ばしい事だ。
だがそのブライアンの活躍が、まだアマチュアボクサーである僕に焦りをもたらしている。
このままでいいのだろうか?
オリンピック出場を辞退して、今すぐにプロボクシングに転向すべきじゃないのか?
ゼール氏にブライアンの試合スケジュールを聞いたのだが、僕がオリンピックで戦う頃には、ブライアンはゼール氏が課す試合スケジュールをこなして、ウェルター級の世界チャンピオンになっているだろう。
オリンピックに出場し、アメリカ国民の期待に応え、メダルを手にするのはとても誇らしい事だ。
だがその時の僕は…世界チャンピオンとなったブライアンに相応しいライバルと言えるのだろうか?
そんな風に迷いを抱えて集中しきれていない僕と、ブライアンはスパーリングをしてくれている。
疲労を抜くための1ヶ月程の休養期間中なのにだ。
貴重な休養時間を割いてくれているブライアンに申し訳ないのはわかっているが、それでも僕はスパーリングに集中しきれない。
すまない、ブライアン。
◆
「おい、デビッド。何を悩んでんだ?」
スパーリングを終えた僕はブライアンに誘われ、彼の行き付けのステーキハウスにやって来ていた。
「…いや、大した事ではないよ。」
「大した事じゃなきゃ、真面目なお前が練習に集中出来ないわけねぇだろうが。」
ブライアンは呆れた様にため息を吐いている。
情けない事だが、彼に迷いを打ち明けてみよう。
「ブライアン、僕はオリンピックに出場するべきなんだろうか?」
「あん?金メダルを目指して練習してきたんだろ?なのにオリンピックに出場しねぇでどうすんだよ。」
「…正直にいうと、今すぐにプロに転向すべきじゃないかと悩んでいるんだ。」
「はぁ?」
一度話し出すと、僕は迷いの全てをブライアンに話し始めていた。
「僕は君をライバルだと公言した。そのライバルの君は、半年後には世界チャンピオンになっているだろう。だが僕はどうだ?君がプロボクシングで世界チャンピオンになった頃、僕はまだアマチュアボクサーだ。それでも僕は、君に相応しいライバルだと言えるのだろうか?」
ここまで一気に話すと、ブライアンは大きなため息を吐いた。
「ほんとに真面目な奴だぜ…。」
ブライアンはコップの水を一息で飲み干すと僕の目を見てきた。
「デビッド、3年待ってやる。」
「3年?」
「おう、お前がオリンピックでメダルを取って、プロデビューしてから3年だ。」
意味がわからず僕は首を傾げてしまう。
「たしかオリンピックに出ればA級ライセンスを取れるんだよな?」
「あ、あぁ…。」
「そうなりゃデビッドは8回戦からプロデビューだ。2年もありゃ、お前なら無理の無いペースで試合をしても世界チャンピオンになれんだろ。」
たしかに8回戦からならば、3ヶ月に一度のペースで試合をしても、2年あれば世界チャンピオンになれるだろう。
もちろんこれは負けない事が前提だ。
そしてマッチメイク次第では、もっと早く世界チャンピオンになる事だって出来る。
「そんで世界チャンピオンになった後は、残った1年で防衛戦を重ねりゃいい。誰からも文句が出ない世界チャンピオンになる為にな。」
ただ世界チャンピオンになっただけではボクシングファンにフロックと言われる事もある。
だが、何度も防衛を重ねればそういった言葉は少なくなるだろう。
「そんで名実共に世界チャンピオンになったら世界最高峰の舞台で…ラスベガスで俺と試合だ。」
世界最高峰の舞台…。
この言葉で僕の身体に震えが走った。
心に火が灯った。
気が付けば、僕の心から迷いは消えていた。
「ありがとう、ブライアン。おかげで目が覚めたよ。」
僕がお礼を言うと、ブライアンはニッと笑顔になった。
「気にすんな。俺達はダチだろ?」
「あぁ、そうだね。」
言葉遣いは少々粗いところがあるが、やはりブライアンは心根の優しい人物だ。
「あぁ、そうだ。デビッド、俺はウェルター級の世界チャンピオンになったら階級を上げるぜ。減量がきつくなってきてるからな。」
「ブライアン、僕に遠慮せずに階級を上げてくれ。君を待たせる代わりに、僕は君に合わせて一つ上の階級でデビューをしよう。もちろん、スタッフやテレビクルーの説得も僕がする。」
そう言って僕は手を差し出してブライアンと握手をする。
待っていてくれ、ブライアン。
僕は必ず…君が待つ場所に辿り着く!
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イーグルの主人公化が止まらない…!