半年で11戦をこなした俺は、ミゲルの指示で減量による疲労を抜くために1ヵ月の休養に入った。
休養中にデビッドとスパーリングをしたが、まぁこれは試合勘を失わない為のものとしてミゲルが指示してきたものだ。
だがデビッドの様子がどうも変だったので飯に誘ってみたら、あの真面目君はクソ真面目に悩んでやがった。
まぁ、解決したからよかったものの…知ってたなら最初に言いやがれクソジジイ!
さて、1ヵ月の休養を終えた俺はまた減量を始めた。
ミゲルはまた1ヵ月に2試合ペースの最短スケジュールを組む予定らしい。
そして世界ランキングを駆け上がってタイトルマッチをするんだとよ。
ちゃんとマッチメイク出来るんだろうな?
まぁ、そこは年の功という事でミゲルを信じるしかねぇか。
そんな感じで減量をしていくと、ミゲルは予定通りにマッチメイクをしてきた。
…ほんとにどうやってマッチメイクしてやがんだ?
まぁ、試合が出来るなら構わねぇか。
原作の鷹村みてぇに試合が出来ねぇよりはずっとマシだからな。
そして始まった世界ランカーとの試合、俺は1戦、2戦、3戦と勝利を重ねていく。
こいつらにも1発もクリーンヒットをくらわずに1ラウンドKOで勝っていったんだが、4戦目の世界ランク3位の奴だけミゲルの指示で2ラウンドにKOした。
ミゲルが言うにはタイトルマッチの前にラウンドをまたいだ試合を経験させておきたかったそうだ。
細かいというか良く気が付くもんだな。
まぁ、そうじゃなきゃ世界チャンピオンを5人も育てられねぇか。
さて、こうして俺はデビューから9ヵ月で世界ランク3位になったんだが…。
「ホーク、決まったよ。2ヵ月後に世界タイトルマッチだ。」
ミゲルは俺が世界ランク3位になってから3日後に、この言葉を満面の笑みで言ってきやがった。
ジジイ…ほんとにどんな魔法を使ったんだよ…。
◆
今日は世界タイトルマッチ前の公開スパーリングの日だ。
スパーリングパートナーはデビッド。
デビッドはオリンピック前の追い込み期間中の筈なんだが…まぁ、ドキュメント的に俺との友情を優先したとかそういう演出のようだ。
もっとも、デビッド本人は100%善意の行動だろうけどな。
「やあ、ブライアン。取材される側になった気分はどうだい?」
「減量中で気が立ってんのに、営業スマイルなんてやってらんねぇよ。」
「ハハハ、ブライアンらしいね。」
少し前からカメラを持った連中がチラホラとジムに姿を見せ始めていやがる。
正直に言えばめんどくせぇが…これも飯のタネだからな。
「しかし『スモーク』とは、ブライアンに相応しいニックネームだね。」
先日発売されたアメリカの有名ボクシング雑誌に俺の事が掲載されたんだが、その俺の記事には『彼のディフェンスはスモーク(煙)の如く捉える事が出来ない』なんて書かれていた。
それの影響なのか俺はボクシング関係者から『スモーク』とか『スモーキーホーク』って呼ばれる様になった。
『10ドルホーク』やら『スモーキーホーク』やら、アメリカはこういうノリが好きだよな。
まぁ、俺も元はオタクだからこういうノリは大歓迎だ。
「ホーク、そろそろスパーリングを始めようか。」
デビッドと話していると、記者連中と話をしていたミゲルがそう言ってきた。
「オーライ。それで、どういう演出で行くんだ?」
「『スモーク』のお披露目といこうか。お互いに7割程の力でイーグルは自由に、ホークは反撃は控えめにして回避を重視してくれ。」
ミゲルの指示を聞いた俺とデビッドは、いつもの様にヘッドギアと12オンスのグローブをつけてリングに上がる。
すると、記者連中のカメラからフラッシュが焚かれ始めた。
「おいおい、今日は俺が主役じゃねぇのか?カメラのほとんどがデビッドに向けられてるぜ。」
「すまないね、ブライアン。だけどスパーリングが終わった時には、彼等のカメラは君に向けられているさ。ただし、僕のパンチが当たったらわからないけどね。」
そう言いながら爽やかな笑みを浮かべるデビッドに、俺は肩を竦めて返事をしたのだった。
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