目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第20話『ウェルター級世界タイトルマッチ』

今日はウェルター級世界タイトルマッチの日だ。

 

前座が終わり、いよいよ俺の出番がやって来る。

 

俺の名前がコールされると、会場に入場曲が流れだした。

 

俺が入場曲に選んだのは、前世ではキングオブポップスと呼ばれていたエンターティナーの曲だ。

 

去年発売されたこの曲を選んだのは、この曲のミュージックビデオを見たのがキッカケだ。

 

キングオブポップスのミュージックビデオは、曲の前に短い映画の様なものが導入されているのが特徴的で、その映画部分でキングオブポップスが老人に言ったある一言が俺の琴線に触れた。

 

『小銭を寄越せ。』

 

この一言で俺はスラムにいた頃を鮮明に思い出したぜ。

 

あそこが俺の原点。

 

あの頃の俺があるからこそ、今の俺がある。

 

『10ドルホーク』として喧嘩に明け暮れ、ミゲルと出会い、プロボクサーとなってここにいる。

 

俺はスポットライトが照らし出す花道に足を進めた。

 

会場の熱気が俺を熱くさせる。

 

そうだ、俺が待ち望んでいたのはこの熱気だ。

 

リングに入ると、会場の熱気が脹れ上がるのが肌でわかる。

 

いいぞ…もっと熱くなりやがれ!

 

会場の熱気に自然に笑みになっていると、熱気が収まっていく。

 

そして再び熱気が脹れ上がると、チャンピオンが入場してきた。

 

リングに入ったチャンピオンは観客にアピールすると、俺を睨んできやがった。

 

オーケー、チャンピオン。

 

そういうノリは大歓迎だ。

 

昨日の遅刻してきた分も含めて、思いっきりぶっ倒してやるよ。

 

 

 

 

私が見守る中でゴングが鳴り響き、ウェルター級の世界タイトルマッチが始まった。

 

ホークはいつも通りにガード下げた構え…最近では『ホークスタイル』と呼ばれる様になった構えをしたのに対して、チャンピオンはサウスポーに構えた。

 

流石はチャンピオン。

 

構えからでもその強さが滲み出ているのがわかる。

 

チャンピオンは試合開始の挨拶代わりであるグローブを合わせる行為をしようと、リング中央で右手をホークに向けて伸ばしてきた。

 

ホークは左手を伸ばしてチャンピオンの右手と合わせようとしたが、チャンピオンはそのホークの左手を払って、左のロングフックを打ってきた。

 

だが…。

 

「これ程に安心して世界タイトルマッチを見れるのは初めてだよ。」

 

ホークがチャンピオンの左ロングフックをスウェーで避けると、チャンピオンが開幕からラッシュを始める。

 

しかしそのチャンピオンのラッシュを、ホークはリング中央からほとんど動かずに避けていった。

 

このホークのディフェンス技術に、目の肥えたボクシングファン達から大歓声が上がる。

 

「初の世界タイトルマッチとあってホークが緊張している内に…とでも思ったのだろうが、生憎とホークはそんな可愛い気のあるボクサーではないのだよ。」

 

試合開始からたっぷり30秒はチャンピオンのラッシュが続いたが、チャンピオンは牽制の右ショートフックを打つとホークから離れた。

 

一息入れて仕切り直すつもりだろう。

 

だがそんな暇を与える程、ホークは甘くない。

 

チャンピオンのバックステップより早く踏み込んだホークが、チャンピオンの左手のガードなどお構い無しとばかりに右のパンチを打つ。

 

不意をつかれたのかチャンピオンが僅かに慌てるが、彼はしっかりと踏ん張ってガードを固めた。

 

流石だね、チャンピオン。

 

しかしその選択は誤りだ。

 

一つ、二つとホークがパンチを打つたびに、チャンピオンはその圧力に負けて後退していく。

 

やがてロープを背負うと、チャンピオンは驚いた表情を浮かべた。

 

ホークが一歩踏み込むと、チャンピオンは右のショートフックを打つ。

 

サウスポーの右は慣れていない選手にとって比較的対処が難しいパンチだ。

 

だが、その程度の事で苦戦する様な私のホークではない。

 

何故ならプロになる前から多くのサウスポーとスパーリングをさせてきたからだ。

 

ダッキングでチャンピオンの右ショートフックを避けたホークは、がら空きになったチャンピオンのボディーにパンチを打つ。

 

くの字に折れ曲がったチャンピオンの身体を、ホークは下から顔を殴り上げる事で起こす。

 

この二発でチャンピオンの足が止まったのがわかる。

 

後はどこまでチャンピオンがホークのパンチに耐えられるかだ。

 

必死にガードを固めるチャンピオンにホークが次々とパンチを打っていく。

 

ガードの上から打って相手の反撃を封じ、時折ガードの無い所を打って確実にダメージを与え、相手の隙を見透かすとガードの隙間を抜いてパンチを打ち込んでいく。

 

この辺りの呼吸はスラムの喧嘩で磨かれた天性のものだ。

 

やがて圧力に耐えかねたチャンピオンが苦し紛れの左ロングフックを打つが、ホークは大きなスウェーで避けるとそのまま下から殴り上げた。

 

意識が飛んだチャンピオンの身体が、ロープで弾んで跳ね返ってくる。

 

レフェリーが止めに入ろうとするが…遅かったね。

 

ホークは力強く踏み込むと、ロープで跳ね返ってきたチャンピオンの顔を殴り抜いてリングの外に叩き出してしまった。

 

僅かな悲鳴と大歓声が響き渡る中でレフェリーが試合を止める。

 

おめでとう、ホーク。

 

これで君が、ウェルター級の世界チャンピオンだ。

 

チャンピオン…いや、元チャンピオン。

 

君が再起可能なダメージである事を祈っておくよ。




本日は5話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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