目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第21話『元ウェルター級世界チャンピオンへのインタビュー』

これは月刊ワールドボクシングファンの記者がした、元WBCウェルター級世界チャンピオンへのインタビューの一幕である。

 

「チャンピオン、世界タイトルマッチは残念な結果でしたね。」

「元チャンピオンだ。そこを間違えるのは新チャンピオンに失礼だよ。」

 

元チャンピオンの言葉に記者が苦笑いをする。

 

「失礼しました。もう何度も聞かれたと思いますが、スモーキーホークをどう思いましたか?」

「彼との共同記者会見の時は生意気な若者だと思ったね。だからその鼻っ柱をへし折ってやろうと試合では開幕から仕掛けたんだが、あっさりと対処されてしまったよ。」

 

「おっしゃる通りにスモーキーホークは素晴らしいディフェンス技術を我々に見せてくれました。」

「ジャブ、ストレート、フック、アッパー、私が持つ全てのパンチを駆使しても、彼には一発もクリーンヒットしなかった。あれ程のディフェンス技術を持つボクサーと戦ったのは初めてだ。」

 

元チャンピオンの言葉に記者は何度も頷く。

 

ボクシングに明るい記者でも、目の肥えたボクシングファンを沸かせる程のディフェンス技術を持ったボクサーは、片手で数えられる程度しか記憶にないからだ。

 

「スモーキーホークのディフェンスには、あのホークスタイルと呼ばれている構えが関係しているのでしょうか?」

「彼のあの構えは、彼にとってパンチを打ちやすいところに手を置いているだけだ。そうでなければ、あれ程に威力のあるパンチは打てないからね。」

 

元チャンピオンの言葉に、記者は驚いた表情を浮かべる。

 

「彼のパンチはどれ程の威力だったのですか?」

「今の私を見てくれればわかる。鼻は折れ、首はムチウチの全治3ヶ月の怪我だ。これだけの怪我を、彼はたった1ラウンドで私に与えたのだ。」

 

鼻にガーゼ、首にコルセットを巻いた元チャンピオンの痛々しい姿に、記者は苦笑いをするしかない。

 

「貴方はスモーキーホークのパンチでリングの外へと叩き出されたのですが、その事は覚えていますか?」

「答えはノーだ。私の意識はその前のパンチで途切れていた。病院で意識を取り戻した後にスタッフから聞いたのだが、我ながらよく生きていたものだと思うよ。丈夫な身体に産んでくれた母と、私を鍛え上げてくれたトレーナーに感謝しなければいけないね。」

 

肩を竦めようとして首を押さえて痛がる元チャンピオンの姿に、記者は笑いを堪える。

 

「神への感謝はしないのですか?」

「もちろん感謝するさ。でも、彼とマッチメイクをしないでいてくれたのなら、もっと感謝出来たのだけどね。」

 

元チャンピオンの答えを聞きながら、記者は神へ感謝を捧げている。

 

何故ならウェルター級世界タイトルマッチでホークに賭けた結果、彼の財布はこれまでの人生で一番大きく膨らんでいるからだ。

 

「カムバックは考えていますか?」

「もちろん考えているよ。ただし、彼との再戦はノーサンキューだけどね。」

 

この元チャンピオンの答えに記者は嬉しそうに微笑んだ。

 

ホークとの試合を機に、幾人もの選手が現役を引退してしまっているからだ。

 

「最後に何か一言あればお願いします。」

「これからボクシング界は新たな時代を迎えるだろう。それは打たれずに打つという、ボクサーの理想像の一つを体現するブライアン・ホークが造り出す時代だ。」

 

「私を含む多くのボクサーが彼のボクシングをリスペクトし、研究をしていかねばならない。ボクシングの理想の一つを攻略する為にだ。これは並大抵の努力では成せない。」

 

「もしかしたら不可能かもしれない。だがその可能性の光が見えた時、我々ボクサーは新たなフロンティアへと歩み始めるだろう。」

 

こうして元ウェルター級世界チャンピオンへのインタビューは終わった。

 

後日、今回のインタビューをまとめて編集長に提出した記者はこの年のボーナスが増え、ガールフレンドと豪華なディナーを楽しんだのであった。




次の投稿は11:00の予定です。

掲示板回代わりにこういったものを書いてみました。

好評な様ならまた書く…かも?

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