目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第24話『とある親子のオリンピック観戦』

時間は遡りオリンピックのアマチュアボクシングウェルター級決勝戦が始まろうとしていた頃、日本の鴨川ジムにはオリンピック中継に目を向けるとある親子の姿があった。

 

 

 

 

「うむ、勉強になる。」

 

休憩中に鴨川ジムにあるテレビを見せてもらうと、ちょうどオリンピックのアマチュアボクシングの中継が始まったとこだったんだが、その試合を見た父さんが笑みを浮かべていた。

 

「父さん、一方的な試合展開だけど、どこが勉強になるのさ?」

「一郎、今のボディーへの一発を見ていなかったのか?」

「ダウンじゃなくスリップって判定されたのは見たけどね。」

 

俺と父さんが見ている試合は、試合開始のゴングから亀の様に丸まった開催国の代表選手を、アメリカ代表の選手が一方的に攻め立てるといったものだ。

 

アメリカ代表選手のパンチには正直見惚れるけど、それ以外では特に見所が無い試合だ。

 

「やれやれ、その様子だとデビッド・イーグルのパンチだけを見て、試合は見ていなかったな?」

 

父さんに図星をつかれて動揺する。

 

「まぁいい、この試合は録画してあるからな。練習が終わった後に見返せばいい。」

 

父さんはそう言いながら立ち上がった。

 

どうやら休憩は終わりみたいだな。

 

 

 

 

練習が終わると録画していたあのオリンピックのビデオをダビングさせてもらい、そのビデオテープを貰って家に帰ってきた。

 

正直に言うと、父さんが言ったあのボディーブローの事が気になって練習に集中しきれなかった。

 

そのせいで鷹村さんに色ボケかとからかわれちまった。

 

青木さんと木村さんまで悪ノリしやがって…。

 

あの二人には後で、スパーリングでキッチリお礼をしないとな。

 

「よし、適当につまみながら見るとするか。」

 

母さんがいない我が家の食卓はいつも簡素なものだ。

 

たまに俺が自分でパスタを作ったりするが、父さんが『ボクシングの本場であるアメリカでは、食事による身体作りも研究されている。』と言っていたので、日頃からそういった情報を集める様にしている。

 

まぁ、俺に出来るのは学校の運動部の連中に、どういった食事がいいのかを聞いている程度だけどな。

 

今日の夕飯である鶏のササミをつまみながらビデオを再生する。

 

テレビに試合が映し出されると、やはり俺が注目してしまうのはデビッド・イーグルのパンチだ。

 

基本に忠実で綺麗なフォームから繰り出されるパンチには、どうしても見惚れてしまう。

 

ジャブもストレートも俺には初動がほとんどわからず、極めてカウンターが取りにくい。

 

だからこそ見極めてやろうと注目してしまう。

 

気が付けばデビッド・イーグルのタイミングを取ろうと、指でリズムを取っていた。

 

「ここからだ。」

 

父さんの言葉が耳に入った俺は、デビッド・イーグルに注目していた意識を切り替えて試合全体を見る。

 

デビッド・イーグルのボディーを嫌がった相手がガードを下げると、まるでそれを見越していたかの様にワンツーが放たれた。

 

その光景を見てゾクリと震えが走った。

 

ワンツーを放つまでの一連の流れが、あまりにも完璧だったからだ。

 

その後、デビッド・イーグルはワンツーを機にパンチをまとめていく。

 

そして相手が腕に隠れる様にしてガードを上げると、デビッド・イーグルのパンチがボディーに刺さり相手がダウンをした。

 

そこで父さんがビデオを一時停止すると、俺は息を吐き出した。

 

「一郎、デビッド・イーグルが何をしたのかわかるか?」

「上に相手の意識を集めさせて下を打つ。もしくはその逆…そうだろ、父さん?」

「そうだ。だが注目すべきなのは、それをプロでも中々お目に掛かれないレベルで行っている事だ。」

 

父さんはビデオを巻き戻すと、一連の流れが始まるところから再生する。

 

「ここで相手がガードを下げたところでワンツーが打たれているが、これは間違いなく狙っていたものだ。こういった事を意図して駆け引きをするのがボクシングの基本だが、それをここまで冷静に実行出来るボクサーはそう多くはいない。」

 

再びビデオが再生されて試合進んで行く。

 

パンチが上にまとめられると、今度はそれを嫌がって相手のガードが上がる。

 

すると、デビッド・イーグルのボディーで相手の身体がくの字に折れ曲がってダウンした。

 

何度見てもゾクリと身体が震える程に完璧な試合運びだ。

 

「うむ、見事なカウンターだ。」

 

カウンター?

 

「父さん、相手は手を出していないのに、なんでカウンターなんだ?」

 

父さんはビデオを一時停止してから話し始めた。

 

「私はカウンターは三種類あると思っている。1つは、私が現役時代に好んで使っていた『相手のパンチに合わせる』カウンターだ。これは相手のパンチを利用する為、より強いパンチを相手に打ち込めるが、逆に相手のパンチをカウンターでくらってしまう危険があるリスクの高いカウンターだ。」

 

そのカウンターはよく知っている。

 

俺は父さんのそのカウンターに憧れて、父さんのボクシングが最強なんだと証明する為にボクシングを始めたのだから…。

 

「2つ目は『相手のパンチの打ち終わりに合わせる』カウンターだ。1つ目のカウンターと比べてリスクが低いが、その反面として己のパンチの威力のみで相手を倒さなくてはならない。現役時代の私の様にパンチの威力が低いボクサーには不向きなカウンターだな。」

 

そう言って苦笑いをした父さんは、水を一口飲んだ。

 

「そして3つ目のカウンターだが、これは説明するのが難しいな…。」

 

顎に手を当てた父さんは、少しの間考え込む。

 

「ふむ、そうだな…強いて言うなら『相手の意識の外から打つ』カウンターと言ったところか。」

 

俺は父さんの言葉に首を傾げた。

 

「父さん、それはどういうカウンターなんだ?」

「カウンターと表現したがカウンターとは限らないんだ。ただ、相手の意識の外からのパンチを打てる状況を作りやすいのがカウンターなんだ。」

 

俺がまた首を傾げると、父さんは苦笑いをした。

 

「この3つ目のカウンターは、現役時代の私が追い求めて届かなかったカウンターだ。お前のトレーナーとしてはすまんが、言葉にするのは少々難しい。」

 

俺が知る限り一番のカウンター使いだった父さんが、追い求めても届かなかったカウンター…。

 

「気になるのなら後で私がわかる限りで詳しく話そう。だが、先ずは飯を済ませてしまおうか。」

 

飯の後で父さんから、父さんが追い求めたカウンターについて詳しく聞いていく。

 

その後、夢中になって話を聞いていたせいで寝るのが遅くなり、翌日は寝不足の状態で朝の走り込みに行くはめになったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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