「鷹村さん、頑張ってくださいよ!」
「鷹村さんならいけますよ!」
先日にプロデビュー戦を終えた青木と木村が鷹村を激励しに控え室にやってきおった。
まったく…デビュー戦でそれなりに打たれたから休んどれと言うたのに…仕方ない奴等じゃ。
ジムに来たばかりの頃はとんだ跳ねっ返りじゃったが、今ではボクサーとしての自覚も芽生えておる。
篠田君も二人のこれからが楽しみじゃろうて。
それに鷹村の奴も満更でもなさそうじゃわい。
これまでの経緯はどうであれ、同じジムの仲間として認めたといったところじゃろう。
「おい宮田、お前もなんか言えよ。」
「そうだぜ、鷹村さんの晴れ舞台なんだからな。」
青木と木村に煽られて宮田の息子が小さくため息を吐いておる。
素直に応援するのは柄じゃないとでも思っとるんじゃろう。
「鷹村さんなら問題ないでしょ。」
「ふんっ!当たり前だ!俺様が負けるわけねぇだろうが!」
やれやれ、日本タイトルマッチの前だというに…騒々しい奴等じゃわい。
◆
試合開始のゴングが鳴りリングの中央でグローブを合わせると、鷹村は試合開始早々からチャンピオンに仕掛けていきおった。
やれやれ、攻撃的なのはいつも通り…いや、違う。強引に行き過ぎじゃ!
「鷹村ぁ!」
鷹村を落ち着かせる為に、儂は声を張り上げた。
いかん!儂の声が届いておらん!
リングを叩いて鷹村の注意を引こうとするが、あやつは一本調子でチャンピオンを攻め立て続けている。
チャンピオンのあの目…狙っとる!
儂はもう一度声を張り上げる。
じゃが…。
「ダウン!」
狙いすまされたチャンピオンのカウンターで、鷹村はリングに膝をついてしまった。
「鷹村さぁん!」
「立ってくれぇ!」
青木と木村の声が聞こえたのか鷹村が反応するが、足に力が入っておらん。
…駄目か。
「立てよ、鷹村さん!」
儂が悔しさに拳を握り締めたその時、宮田の息子の声が響き渡った。
すると、足を震えさせながらも鷹村は立ち上がりおった。
儂は鷹村の目を見る。
うむ、落ち着いておる。
いつもの鷹村じゃわい。
まったく、柄にもなく緊張しおって…心配させるんじゃないわい!
いや、緊張しておったのは儂もか…。
浮き足立って選手の状態を把握出来なかったのは、トレーナーである儂の失態じゃ。
やれやれ、試合の後には鷹村を説教せねばならんが、儂も反省をせねばのう。
◆
「立てよ、鷹村さん!」
宮田の声が聞こえた俺様は、歯を食い縛って立ち上がった。
ちっ、足が震えやがる。
ファイティングポーズを取った俺様の目を、レフェリーが覗き込んでくる。
止めんじゃねぇぞ、レフェリー。
俺様に恥をかかせやがったチャンピオンに、礼をしなきゃならねぇんだからな!
「ファイトッ!」
レフェリーの声と同時にチャンピオンが踏み込んできやがる。
ちっ、まだ足の踏ん張りが利かねぇ。
チャンピオンのパンチを避けながら足の状態を確かめていく。
まだか?
まだ…後少し…今っ!
足の踏ん張りが戻った俺様は、チャンピオンのパンチに合わせてカウンターを打ち込む。
たたらを踏んだチャンピオンに追撃する。
よくも恥をかかせてくれやがったな!
こんなもんで終わりじゃねぇぞ!
止めんじゃねぇ、レフェリー!
…ちっ!ゴングが鳴っちゃあ仕方ねぇ。
ここで止めにしといてやらぁ。
「鷹村ぁ!」
あっ?ジジイ?
ジジイと八木ちゃんがリングに上がって来やがった。
「おめでとう、鷹村君。君が日本ミドル級チャンピオンだ。」
八木ちゃんの言葉で俺様はリングに倒れている元チャンピオンに目を向ける。
チャンピオンか…。
ベルトを持ってきたジジイが、俺様の腰にベルトを巻く。
すると、後楽園ホールの客席から拍手の雨が降ってきやがった。
「へっ!」
やっぱ、この瞬間はいいぜ。
「バカもんが、控え室に戻ったら説教じゃ。」
水を差すんじゃねぇよ、ジジイ!
次の投稿は11:00の予定です。
原作と違って一歩はまだ鷹村と出会っていません。
拙作内ではまだ15歳ですからね。仕方ないね。