ブライアンのウェルター級世界タイトルマッチの日がやってきた。
彼からチケットを貰った僕とマイク、そして僕のフィアンセとなったガールフレンドは最前列の席に座る。
「流石はスモーキーホークの試合だな。まだ前座だというのに満席じゃないか。」
マイクの言う通りに会場は既に満員となっている。
この光景はアメリカのボクシング界におけるブライアンの人気を表していると言えるだろう。
ライバルであり親友でもあるブライアンの人気の高さを嬉しく思う。
フィアンセも交えてマイクと観戦していくと、いよいよメインイベントであるブライアンの試合の順番がやってきた。
「ねぇ、デビッド。今日のブライアンの相手はどんなボクサーなの?」
フィアンセの質問に僕は笑顔で答えていく。
「足の速さとディフェンス技術、そしてカウンターに定評のあるアウトボクサーだね。」
「デビッドならどう攻略するのかしら?」
僕のフィアンセはボクシングにかなり明るい女性だ。
だからこそ、こういった質問には真摯に答えなければならない。
「そうだね、僕なら圧力を掛けてコーナーに追い込むかな。マイクはどうだい?」
「ボディにパンチを集めて足を奪うってところさ。」
「二人共セオリー通りね。でも、それが正しいと思うわ。」
フィアンセの言葉に僕とマイクは顔を見合わせて肩を竦める。
「さて、そのセオリーに当てはまらないブライアンはどうするのかな?」
「じっくりと、勉強させてもらうとしよう。」
そう言ってリングに目を向けた僕とマイクを見て、フィアンセは楽しそうにクスクスと笑ったのだった。
◆
ゴングが鳴り響いて試合が始まった。
リング中央でグローブを合わせると、挑戦者はステップを刻んで左ジャブを打っていく。
そして左ジャブを打ちながら時計回りに移動するその動きは非常に滑らかで、挑戦者が生粋のアウトボクサーである事を現している。
そして時折長い距離からボディーストレートを打ち、対戦相手の距離感を混乱させようとしている。
中々厄介な挑戦者の様だ。
だがブライアンはそんな挑戦者の攻撃を、リング中央からほとんど動かずに避けていく。
「ジャブの一つも打たずに、あそこまで距離感を把握出来るものなのか?」
ブライアンの試合を初めて直に見るマイクが疑問の声を上げる。
当然の疑問だが、それが出来るのがブライアンなんだ。
ブライアンは挑戦者の長い距離からのボディーストレートに合わせて踏み込むと、挑戦者をどんどん攻め立ててロープへと追い込んでいく。
すると…。
「あっ!?」
僕のフィアンセが驚きの声を上げた。
ロープ際に追い込まれた挑戦者がブライアンの右に合わせてカウンターの左フックを放ったんだ。
だが…。
「なんだ今のは?!」
驚きのあまりマイクは立ち上がった。
しっかりと踏み込んで右を放ったブライアンだったが相手のパンチを察すると、天井を見る様にして上体を斜めに捻り、相手のカウンターを避けながら下から殴り上げたんだ。
常識外れの動きに試合会場は一瞬で静寂に包まれる。
「ダ、ダウン!」
だがレフェリーの声が響くと、試合会場は一気に沸き上がった。
僕は身体の震えを止める為に右手で左肩を抱き締める。
流石だね、ブライアン。
君はいつでも僕の挑みの血を沸き立たせてくれる。
あぁ…今一度誓おう。
僕は必ず、君との約束の場所に辿り着いてみせる!
その後なんとか立ち上がった挑戦者だが、意識がある様には見えない。
続行するのは危険だ。
それを認識したのか挑戦者側のセコンドがタオルをリングに投げ込んだ事で、ブライアンは初めての防衛戦に勝利したのだった。
次の投稿は13:00の予定です。