勝った!初めての喧嘩で勝った!
身体の奥底から何か衝動の様なものが沸き上がってくる。
俺は衝動に身を任せて雄叫びを上げた。
「ヤーハー!」
う~ん…アメリカンな雄叫び。
予想外の雄叫びに毒気を抜かれたのか冷静になってしまった。
あの高揚感にもう少し浸っていたかったんだけどなぁ…。
「うぅ…。」
呻き声が聞こえたので目を向けると、俺が殴り飛ばした少年達がヨロヨロと身体を起こし始めていた。
それを見た俺に悪戯心が芽生える。
一度やってみたかったんだよねぇ。
なんせ俺は草食系オタク男子だったからな。
こういった事とは無縁だったのだ。
俺は殴られた所を押さえながら上体を起こした少年達の近くに歩み寄る。
「さて、喧嘩は俺の勝ちだ。こういう時スラムではどうするんだい、先輩?」
俺がニヤニヤと笑いながら問い掛けると、少年達は舌打ちをしながら財布を投げ渡してきた。
「なんだ、大して入ってねぇなぁ。」
「うっせぇ!ほっとけよ、チビ!」
確かに少年達の方が頭一つ以上はデカイけど、そんな事を言っていいのかねぇ?
「スラムの流儀を教えて貰ったから加減してやろうと思ったのになぁ~?」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながらそう言うと、少年達は腰を低くして謝り始めた。
うむ、素直でよろしい!
そんな少年達に免じて、俺は少年達の財布から10ドルずつ抜き取って返す。
「あん?ボーイ、それぽっちでいいのか?」
「言っただろ?ここの流儀を教えて貰ったって。」
少年達の財布には30~40ドルぐらいしか入ってなかったからな。
20~30ドル残ってれば、今日明日で飢えるって事は無いだろ。
「まぁ、そういう事だ。また俺と喧嘩したくなったら、ちゃんと財布に10ドル入れてこいよ。」
「うっせぇ!次は俺が10ドル貰うからな!」
俺が10ドル札をヒラヒラとしながらそう言うと、少年達は中指を立てて去っていった。
うん、ワルガキなのは間違いないけど悪人ってわけじゃなさそうだ。
機会があれば一緒に飯を食いたいな。
「あっ、しまった。」
俺は失敗した事を悟る。
何を失敗したのか?
それは…。
「ここがどこなのか、全然わかんねぇぞ。」
困って頭を掻くと、腹の虫が盛大に鳴き声を上げたのだった。
◆
適当にそこら辺をウロウロとしていると、ホットドッグを売っている屋台を見つけた。
これ幸いと歯並びの綺麗なナイスガイに10ドル札を渡してホットドッグを買う。
そして適当にそこら辺にあったベンチに腰を落ち着けて腹拵えを始めたのだが…。
「こんな紙、財布の中にあったか?」
ホットドッグ売りのナイスガイに10ドル札を渡そうとして財布を開くと、今手にしている紙がヒラヒラと財布から落ちたんだよね。
「あの少年達の物だったら悪い事をしたなぁ。」
まぁ、10ドルを奪っておいて悪い事をしたもないけどな!
俺はホットドッグをくわえながら折り畳まれている紙を開いて中を見る。
すると…。
『この手紙を見ているという事は幾らか落ち着いたのだろう。そこで改めてお主の状況を説明する。お主は一度死んだ。私の部下のミスでだ。そこで詫びとしてお主を転生させた。』
モグモグとホットドッグを咀嚼すると、コーラもといコークで胃に流し込む。
「まぁ、転生したんだろうなとは思ってたけど…なんで英文が普通に読めてんだ?」
二個目のホットドッグに手を伸ばしながら手紙の続きを読む。
『そこでお主を転生させた世界なのだが…そこは、はじめの一歩の世界だ。そして望みの転生特典を聞く余裕が無かったので、お主を転生先の世界でもとびっきりの才能を持つ男であるブライアン・ホークとして転生させたのだ。』
危うくホットドッグを落としそうになった。
はじめの一歩?!
ブライアン・ホーク?!
あまり詳しくは覚えていないが、俺もオタク男子の端くれであるので少しは読んだ事がある。
はじめの一歩はボクシング漫画で、主人公のいじめられッ子である『幕ノ内 一歩』がボクシングを通じて成長していく物語だ。
その主人公がボクシングの世界に入るキッカケになったのが作中最強クラスの『鷹村 守』だ。
そしてその『鷹村 守』と世界タイトルマッチで死闘を繰り広げたのが『ブライアン・ホーク』だ。
たしか『ブライアン・ホーク』はほとんど練習をしないで世界チャンピオンになった超天才だったよな?
でも、作中でもトップクラスの悪役である…と。
ため息を吐いてから二個目のホットドッグにかぶりつく。
そして手紙の続きを読む。
ブライアン・ホークの…俺の両親の事が書かれているのだが、どうやら二人共にそれぞれ新しいパートナーと一緒に蒸発してしまっているらしい。
俺をスラムに置き去りにしてな!
『今のお主は10歳。ボクシングで身を立てるも、他で身を立てるも自由だ。どうか第二の人生を楽しんでほしい。』
これで手紙は読み終わった。
俺は二個目のホットドッグをコークで胃に流し込むとため息を吐いた。
「素寒貧の状態で、どうやってスラムから成り上がれってんだよ…。」
もう一度ため息を吐いてから三個目のホットドッグに手を伸ばす。
そして、手に取ったホットドッグを見詰めた。
「オーケー、やってやるよ。いつかこのホットドッグを、肉汁滴るステーキに変えてやるさ!」
俺はその決意と共に、ホットドッグに噛み付いたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。