目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第29話『黄金の鷲の手応えと旧友と再会する名伯楽』

デビッドのデビュー戦まで残すところ後10日、俺はデビッドの追い込みに付き合っていた。

 

「休養中なのに依頼を受けてくれてありがとう、ブライアン。」

「気にすんな。貰えるもんを貰えるなら問題ねぇよ。」

 

防衛戦を終えてから1週間後にベルトを返上してジュニアミドル級に階級を上げた俺だが、今のナチュラルウェイトはミドル級のリミットに近い。

 

ミゲルはトレーニングや加齢によるウェイトの変化を考えると、俺がジュニアミドル級で問題無く試合が出来るのは後2、3年ぐらいだと考えろだとさ。

 

さて、リングに上がってデビッドと軽いスパーリングを始めたんだが、ここ最近のデビッドのワンツーは、俺達が初めてスパーリングをした時に放ったあのワンツーに近いものになってきている。

 

本当に避けにくいんだ。

 

なんていうかデビッドのワンツーは、俺の感覚で言うと『考える前に打っている』って感じになってきてるんだよな。

 

大抵の奴はパンチを打ってくる前のモーションの起こりがわかったり、今から打つぞっていう気配みてぇなもんが勘でわかんだけどよ、デビッドのワンツーはそれがすっげぇわかりにくいんだ。

 

少しでも気を抜いたら当たっちまいそうだぜ。

 

デビッドも手応えを感じてんだろうな。

 

スパーリングが終わると嬉しそうに鏡の前でフォームチェックをしてやがる。

 

作業とも言えるこのフォームチェックを、デビッドは生真面目にずっと続けてきたんだろうな。

 

へっ、面白くなってきやがった。

 

次の試合が待ち遠しいぜ!

 

 

 

 

最後の追い込みとしてブライアンにスパーリングを依頼した。

 

防衛戦を終えて休養中だったブライアンには申し訳ないが、今はスパーリングを依頼してよかったと心から思っている。

 

何故なら、僕は今までにない程に手応えを感じているからだ。

 

僕がブライアンと初めてスパーリングをしたあの日以来、僕はあの日にブライアンに当たったワンツーを理想として追い求め続けてきた。

 

毎日の様にビデオを見てイメージを目に焼き付け、トレーニングでは必ずワンツーのフォームチェックをしてきた。

 

しかし、ただ触れただけのあのワンツーを、相手を打倒するためのものに昇華するのは至難の業だった。

 

何度もトレーナーと確認し合ってきた。

 

理想のワンツーの影すら掴めない日々に、頭を抱えた事だってある。

 

だけど今日、僕は確かに手応えを感じた。

 

後はこの手応えをものにするだけだ。

 

ありがとう、ブライアン。

 

僕はまた一つ成長する事が出来た。

 

このお礼はデビュー戦での勝利で返そう。

 

そして必ず、君との約束を果たす。

 

 

 

 

行きつけのステーキハウスでお気に入りのサラダを食べていると、私の隣に一人の男が座る。

 

「ビアーを頼む。」

「あいよ。」

 

ビアーを注文した男の声で、私は隣に座った者が誰なのかを察した。

 

私は隣に座った男がビアーで喉を潤すまでゆっくりと待つ。

 

うん、やはりマスターのオリジナルドレッシングは最高だ。

 

ゴクッ!ゴクッ!とビアーを飲む音が耳に響く。

 

実に美味そうに飲むものだ。

 

「マスター、私にもビアーを。」

「あいよ。」

 

やれやれ、彼につられてしまったか。

 

「ダン、思わず私もビアーを頼んでしまったよ。」

「ふっ、どうやら酒を忘れる程に仕事が充実しておる様だな、ミゲル。」

 

見事にたくわえられた髭の中で、ダンの口がニヤリとしたのがわかる。

 

私の隣に座った男の名は浜 団吉。

 

青年時代に日本で顔見知りになった旧友だ。

 

彼と鴨川は私が帰国してからしばらくすると、ボクシングのトレーナーとして学ぶ為にアメリカにやってきた。

 

そして当時の理論や技術を学び終えた鴨川は日本に帰国してジムを開き、ダンはアメリカに残ってトレーナーとして幾人も世界ランカーを育て上げたのだ。

 

「用件は何かな?」

「ホークを見せてほしい。」

 

そう言ったダンはビアーを飲み干す。

 

私も目の前に置かれたジョッキに手をつける。

 

うむ、美味い。

 

久し振りに感じるビアーの苦味とアルコールが、私の胃と心を癒してくれる。

 

日本では『百薬の長』と言うのだったな。

 

正にその通りだ。

 

「それは構わないが、トレーナー業の方はいいのかな?」

「ふんっ!儂のボクサーは半年前にホークに敗れて引退したわ。」

「それはすまない事をしたね。」

 

もちろんその事は知っていた。

 

だが、文句ならばマッチメイクを受けた選手のマネージャーに言ってくれ。

 

「まったく…久しく見なかった儂好みのボクサーだったというに。」

「選り好みし過ぎではないかな?」

「それはお互い様だろう。」

 

確かにダンの言う通りだ。

 

ダンは若き日の自身に似たテクニックに長けたボクサーを好み、私は野性的な一面を持つボクサーを好む。

 

鴨川はどんなボクサーを好むのだろうか?

 

「ダン、後で君にホークのスケジュールの一部を伝えよう。」

「すまんな。」

「構わないよ。ところで、鴨川はどうしているかわかるかな?」

 

私がそう問い掛けると、ダンはマスターに2杯目のビアーを頼んだ。

 

「少し前に話したが、どうやら教え子が日本タイトルを取ったそうだ。」

「ほう?久しく聞かなかった旧友の朗報だね。」

「まだまだと謙遜しておったが、随分と声が弾んでおったわ。」

 

そう言って笑ったダンはビアーを口にする。

 

私も付き合ってビアーを口に。

 

ふむ…私も2杯目を頼むとしよう。

 

「鴨川が言っておったわ。奴の教え子、鷹村は世界を狙えるとな。」

「ふむ、それは興味深いね。」

 

鷹村か…覚えておこう。

 

その後、ダンと語り合いながら飲んだ酒はとても美味しく、年甲斐もなく深酒をしてしまった。

 

そして翌日、二日酔いの頭を抱えてジムを訪れると、そんな私を見たホークが笑い声を上げたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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