目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第30話『黄金の鷲のプロデビュー戦』

side:ホーク

 

 

デビッドのデビュー戦の日がやってきた。

 

俺とミゲル、そしてデビッドの婚約者は一緒に見物をする。

 

マイクはデビュー戦が1週間後に控えているから、今回は見にこれねぇそうだ。

 

「ゼールさん、今日のデビッドの相手はどんなボクサーなのかしら?」

 

ブロンド美人なデビッドの婚約者が微笑みながらミゲルに問い掛ける。

 

ジジイも美人に話し掛けられてどこか御満悦だ。

 

「アウトボクサー寄りのボクサータイプだね。駆け引きが上手く、ポイントアウトよりも打ち合いを好む傾向がある。」

「あら、デビッドはデビュー戦から大変な相手と戦うのね。」

「イーグルがいつも通りのボクシングをすれば問題無い相手だよ。」

 

ミゲルとデビッドの婚約者が話し合っていると、デビッド達の入場が始まる。

 

デビッドが姿を現すと、会場から大歓声が上がる。

 

「流石は金メダリストになった英雄ってところか。」

「それもあるだろうが、これはイーグルに対する期待の表れでもあるだろうね。」

 

ミゲルとそんな会話をしていると、デビッドの婚約者はデビッドに声援を送っている。

 

それに気付いたデビッドが振り向いて手を振りやがった。

 

「デビッドは婚約者に手を振ったのに、周囲の女も騒いでやがる。いい顔をしてると得だな。」

「おや、気付いてなかったのかね?ホークの試合でも女性達から大きな声援が上がっているんだよ。」

「あん?そうなのか?」

 

あぁ~…そう言えばそんな気もするな。

 

「まぁ、ホークは声援を聞いてモチベーションを上げているからね。気付かなくても仕方ないよ。」

 

ミゲルはそう言うが、実感がねぇな。

 

デビッドは人気俳優も形無しな程に顔がいい。

 

それにボクシングで鍛え上げられた肉体も合わされば、デビッドはアメリカ人女性が理想とする男性像の一人となる。

 

対して俺はスラム上がりのワルガキだ。

 

正直に言って、俺を見て女が騒ぐ理由がわからねぇ。

 

世界チャンピオンになったからか?

 

 

 

 

side:ミゲル

 

 

ホークが首を傾げているのを見て私は笑いを堪える。

 

やれやれ、どうやらホークは女性の機微に疎いようだね。

 

確かにイーグルはその爽やかな青年像から世の女性が騒ぐ程の色男なのだが、ホークも野性的な男性として世の女性が騒ぐには十分な魅力を備えていると言える。

 

ホーク、人の魅力とは顔の造形だけではないのだよ。

 

まぁ身内贔屓かもしれないが、ホークは顔の造形も悪くないがね。

 

その証拠と言ってはなんだが、私の元にはホークに対してテレビ出演やコマーシャル撮影の依頼がくるようになっている。

 

あくまでホークのトレーニングを邪魔しない範囲でだが、そういった話をそろそろホークに聞かせてもいい時期だろう。

 

ホークとイーグルに最高の舞台を用意する為にもね。

 

おっと、どうやらイーグルのデビュー戦が始まるようだ。

 

じっくりと観察させてもらおう。

 

 

 

 

side:ホーク

 

 

ゴングが鳴るとジャブの差し合いが始まった。

 

リング中央に陣取り、お互い空間を制しようと駆け引きを繰り返す。

 

1発、2発とデビッドのジャブがヒットすると、相手は足を使い出した。

 

流れを渡さねぇためだろうな。

 

だが、デビッドはそれに付き合わずにリング中央にどっしりと構えている。

 

試合開始から1分経ったが、二人共まだ右を見せてねぇ。

 

おっ?相手がジャブからショートフックに繋ぐ左のダブルを打ちやがった。

 

ショートフックが当たってもデビッドは落ち着いている。

 

ダメージはほとんど無さそうだな。

 

ショートフックを当てた相手は、多彩な左を見せていく。

 

ショートフックにショートアッパー、そして肩を入れて距離を伸ばすメキシカンジャブを打って、デビッドから主導権を取ろうとしていく。

 

だが、デビッドは丁寧にジャブを打って相手に主導権を渡さない。

 

1ラウンド目はそのまま両者共に右を見せずに終わりを迎えた。

 

そして2ラウンド目が始まると、試合のペースはデビッドが握り始める。

 

デビッドはパーリングやショルダーガードを使って、相手の左を防いでいく。

 

逆に相手はデビッドのジャブに何度も顔を打たれていく。

 

ここで相手が右ストレートを打った。

 

デビッドは冷静に相手の右ストレートをガードする。

 

この試合、両者通じて始めての右に会場から歓声が上がった。

 

それがキッカケとなったのか、相手がギアを上げた。

 

足を使って激しい出入りをしながらデビッドを攻め立てていく。

 

だがデビッドは冷静に相手のパンチをガードして、丁寧にジャブを打ち返していく。

 

そのジャブで何度も相手の顔が跳ね上がるが、相手はジャブだからと意に介さずに攻め立てる。

 

…こりゃ、次のラウンドで決まるな。

 

2ラウンド目が終了すると、両コーナーにわかれたデビッドと相手の表情は全く違うものになった。

 

強かに何度も顔を打たれてダメージが窺える対戦相手と、ほぼダメージが無いデビッド。

 

目の肥えている観客もわかってるんだろうな。

 

3ラウンド目が始まって1発、2発とデビッドがジャブを当てると、イーグルコールが始まった。

 

相手は足を使って避けようとするが、デビッドは相手を誘導してコーナーに追い込んだ。

 

わかりやすい程に相手の表情が歪む。

 

デビッドがジャブを重ねていくと、相手はデビッドのジャブの引き際に左フックを打ち込んだ。

 

引っ掛けてコーナーから脱出するのが狙いだろうな。

 

だがデビッドはそれがわかっていたかの様に、ジャブに続けて右ストレートを打ちこむ。

 

このワンツーをカウンターの形で受けてしまった相手はよろける。

 

そこを逃さずにデビッドはパンチをまとめていく。

 

すると…。

 

「ダウン!」

 

相手はリングに膝をついてダウンをした。

 

ニュートラルコーナーに下がったデビッドは、油断なく相手を見据えている。

 

…まぁ、立てねえだろうな。

 

俺の予想通りに相手は10カウント以内に立ち上がれなかった。

 

ダメージもあったが、それよりも相手は心が折れちまってた。

 

左だけでああも見事にコーナーに追い込まれた上に、反撃を見越してカウンターのワンツーを打ち込まれた。

 

あそこまで試合をコントロールされちゃたまんねぇだろ。

 

勝ち名乗りを受けたデビッドは、リング中央で胸を張って拳を上げている。

 

初めてのプロのリングなのに様になってるじゃねぇか。

 

流石は金メダリストだぜ。

 

こうしてデビッドはデビュー戦をKO勝利で飾った。

 

デビッド、おめでとさん。




本日は5話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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