side:鷹村
今日はWBCジュニアミドル級世界ランク5位の奴との試合だ。
こいつに勝てば世界ランクと世界挑戦権を奪う事が出来るってジジイが言ってやがった。
だから俺様は本来のミドル級からジュニアミドル級に階級を落としたんだ。
たった1階級落とすだけと思ってたが、減量に苦戦してジジイに心配かけちまった。
心配すんな、ジジイ。
さっさと相手をブッ飛ばしてきてやらぁ。
とは言うものの、アップをしても身体がシャキっとしねぇ。
まぁ、ゴングが鳴れば大丈夫だろ。
そう思ってリングに上がったんだが、試合開始のゴングが鳴っても身体がシャキっとしねぇ。
ちっ、しょうがねぇ。
相手にジャブとストレートをお見舞いしたが、まったく手応えがねぇ。
それどころか、逆に相手を調子付かせちまった。
調子付いた相手に相打ちでカウンターをぶち込んだが、それでも打ち負けちまった。
くそったれ!
長引くとやべぇと思った俺様は、短期決戦を狙って一気に仕掛けた。
だが、相手は亀の様に丸まりやがった。
「落ちつけぇ!鷹村ぁ!」
うるせぇぞ、ジジイ!
心配しねぇで、黙って見てやがれ!
俺様はラッシュを重ねていく。
倒れろ!倒れろ!倒れろ!
だが一度もダウンを奪えずに1ラウンド目終了のゴングが鳴る。
たった1ラウンドで肩で息をする程に消耗しちまった俺様は、ジジイが待つコーナーにゆっくりと戻った。
◆
side:鴨川
「バカもんっ!水を飲むなっ!ボディーブローを食らったらのたうち回るぞ!」
叱責をしても鷹村から反応が返ってこぬ。
むぅ…これは想像以上に不味いわい。
とにかく、1ラウンド目の様に勝負を急ぐのは止めねばならん。
その事を鷹村に伝えるが、今の鷹村に相手に対応出来るだけの余力が残っておるだろうか?
…タオルを投げ込む準備をしておかねばな。
2ラウンド目のゴングが鳴ると、勢い良くコーナーを飛び出してきた相手が、果敢に鷹村を攻め立てていく。
鷹村も幾度かカウンターを返すが、そのカウンターには力が入っておらず、相手にほとんどダメージを与えられておらぬ。
故に相手は鷹村のパンチを無視して攻め立ててきおる。
鷹村はなんとかダウンをせずに耐えておるが、このままでは時間の問題か…。
2ラウンド目終了のゴングが鳴って鷹村が戻ってきたが、手の打ち様が無いわい。
そして3ラウンド目が始まって早々に、鷹村はダウンを奪われてしまった。
いつもならば避けられた筈のパンチも、今の鷹村では避けられぬか…。
無念じゃが致し方あるまい。
鷹村がもう一度ダウンしたらタオルを投げ込む。
その事を八木ちゃんに伝えると、悲痛な表情で頷いた。
仕方なかろう。
こんなところで鷹村を壊させるわけにはいかんのじゃ。
3ラウンド目も残すところ2分といったその時、相手のパンチを受けてふらついた鷹村が、ダウンを拒否して相手に寄り掛かる様にしてロープに押し込みながらクリンチをした。
そのクリンチの最中、鷹村は呆然としてリングの外を見ておる。
なんじゃ?
鷹村は何を見たんじゃ?
鷹村の視線を追うようにしてそちらを見ると、そこにはブライアン・ホークの姿があったのだった。
◆
side:鷹村
「なんであいつがここにいやがる…?」
ダウンを拒否してクリンチをした俺様の目に、偶然とある観客の姿が目に入った。
その観客の姿には見覚えがあった。
それはジジイが俺様に見せたビデオに映っていた、WBCジュニアミドル級世界チャンピオンのブライアン・ホークと同じ姿だ。
他人の空似か?
いや、違う。
あの存在感…あいつは、間違いなくブライアン・ホークだ。
「ブレイク!」
レフェリーが俺様と相手を引き剥がすと、相手の表情が目に入った。
…なんだその顔は?
俺様を見下す様な相手の顔で、身体に熱が灯っていく。
「ファイト!」
レフェリーの声に反応して相手が突っ込んでくる。
…気に入らねぇ。
相手のパンチに被せて、俺様もパンチを打つ。
相打ちになるが、相手は退かねぇ。
…気に入らねぇ。
もう一度相手と相打ちになるパンチを打つ。
その時、先程見たブライアン・ホークの表情を…この試合から興味を失った様な顔を思い出す。
…気に入らねぇ!
二度、三度と相打ちを続けても、相手には退く様子がねぇ。
気に入らねぇ!
四度、五度と相打ちを続けると相手がふらつきだした。
ふらついて手が止まった相手をパンチでロープに押し込んでいく。
そしてロープに追い込んだ相手が手を出してきたのに合わせて、全体重を乗せてパンチを振りきる。
すると、相手はリングから落ちていった。
俺様は相手が落ちていった先にいるブライアン・ホークをリングの上から睨みつける。
だがブライアン・ホークは何も反応を返さずに、試合会場を去って行きやがった。
この日、勝ち名乗りを受けて拍手の雨を浴びても喜ぶことなく、俺様は怒りで拳を握り締め続けたのだった。
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