side:ホーク
さっきまで俺と真理、ミゲル、ダニー、おまけに藤井と一緒に鷹村の試合を見てたんだが、今は試合会場を出て、俺達が宿泊しているホテルのレストランにやって来ていた。
レストランのボーイにメニューの注文を終えると、俺はミゲルに向けて口を開く。
「おい、ミゲル。わざわざ日本に来てまであんな試合を見せたかったのか?」
「これは手厳しいな。もっとも、そう言われても仕方ない内容だったがね。」
真理が藤井に俺達の会話を訳す。
すると、藤井は驚いた表情を浮かべた。
「『ミスターホーク、少しいいですか?』」
「『藤井、おめぇは真理の先輩なんだろ?だったら、普段通りの口調で話して構わねぇぜ。』」
俺が日本語でそう言うと、藤井は口笛を一つ吹いた。
「『話せるな、チャンピオン。』」
「『ニューヨークのスラム出身なんでな。堅苦しいのはノーサンキューなんだよ。』」
「『オーケー。飯村に聞いたんだが、さっき見た試合を酷評してただろ?理由を教えてくれないか?』」
俺は水を一口飲んでから藤井の問いに答える。
「『俺の挑戦者予定だった奴は勝てる試合を落とした間抜け。そして日本人の方は明らかに調整を失敗してた。試合をする以前の問題じゃねぇか。』」
俺がそう言うと、藤井はムッとした様な表情をする。
「『ホーク、君が言う日本人…鷹村は急遽試合の話を貰って十分な調整期間が無かった上に、初めてのジュニアミドル級への減量だったんだ。それでもリングに上がり勝利した事は、評価するべきなんじゃないか?』」
「『それが鷹村を評価する事となんの関係があるんだ?』」
少なくとも、ミゲルはそんな条件の話は一度も持ってきた事がない。
まぁ、ミゲルを他のマネージャーと比べるのは酷かもしれねぇがな。
「『鴨川ジム…鷹村が所属しているジムなんだが、資金が豊富とは言えない。だから、多少は無茶な条件で試合を受けても仕方ないだろう?』」
「『それとリングでの結果は別物だろうが。』」
アメリカじゃあ自分に合わないとなれば、トレーナーやマネージャーとの契約を打ち切ったりは当たり前で、ジムの移籍だってよく耳にする話だ。
藤井の言っている言葉はいわゆる人情というか感情論だ。
理解出来ねぇわけじゃねぇけどよ、それとリングでの結果は別物だ。
俺の言葉に藤井は明らかに不満そうな顔をしている。
鷹村のファンなのか?
そう思っていたら藤井は頭を掻きながらため息を吐いて気持ちを切り替えると、俺に一言『熱くなり過ぎた、すまん。』と詫びてきた。
選手に感情移入して熱くなりやすい性質の様だが、悪くない男だ。
「真理とダニーはさっきの試合をどう思う?」
「日本人好みの試合だったわね。でも、それだけってところかしら。」
「あの日本人の挑戦を受けるんなら、俺は貯金も含めて全部ホークに賭けるぜ。」
真理は同じ日本人相手でもハッキリとした評価だな。
まぁ、真理らしい。
ダニーはスラム時代から変わらねぇギャンブラー振りだな。
俺達の会話をミゲルから訳してもらった藤井は苦笑いだ。
「ところでミゲル。俺の防衛戦は白紙に戻ったんだが、相手はどうすんだ?」
「鷹村ではダメかな?」
「本気で言ってんのか?」
今日の試合の鷹村を見て思ったのは、ハッキリ言って期待外れだ。
俺の原作知識なんて大した事ねぇが、鷹村はデビッドみたいに熱くなれる相手だと期待してたんだけどな。
「もっとも、向こうがマッチメイクを受けるかはわからないがね。さて、話はここまでにして食べようか。明後日にはアメリカに帰るからね。日本の食事を堪能しよう。」
こうして俺、真理、ミゲル、ダニーは日本の一流ホテルの食事を楽しんでいく。
藤井は最初遠慮してたんだが、払いがこちら持ちだとわかると、遠慮無しに酒も注文しだした。
現金な奴だぜ。
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