目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第45話『戦慄する鴨川ジム』

side:鴨川

 

 

藤井が持ってきたブライアン・ホークの試合のビデオを見終えた今、部屋は沈黙に包まれておる。

 

皆がブライアン・ホークの圧倒的な強さを感じて唖然としておるのだ。

 

唯一、伊達だけが感心した様な表情をしておるが、流石は世界タイトルに挑戦した経験を持っておるといったところか。

 

それはともかく、何故に伊達がここにおるんじゃ?

 

「つぇえ~…。」

「相手、死んだんじゃねぇか?」

 

呆然とした状態から復活した青木と木村が口々に感想を言うが、その感想も的外れではない。

 

それほどにブライアン・ホークは、対戦相手を圧倒したんじゃ。

 

八木ちゃんと篠田くんは冷や汗を流しとるわい。

 

「こ、この人に鷹村さんは挑戦するんですか?」

 

小僧の一言で、皆の視線が儂に集まる。

 

「ジジイ。」

 

その一言と目で、鷹村が言わんとする事がわかる。

 

戦わせろ。

 

そう言うておるわい。

 

「先方には話をしておく。じゃが、受けてもらえるかはわからんぞ。」

 

儂がそう言うと皆がざわつく。

 

世界挑戦の話だというのに、沸き上がるでなくざわつくか…。

 

皆もわかっておるんじゃ。

 

この挑戦が、如何に困難であるかという事をのう。

 

儂の言葉を聞いた鷹村は無言で部屋を出ていきおった。

 

あやつのモチベーションの為にも、ブライアン・ホークに挑戦させてやりたいとは思う。

 

じゃが、儂の頭には鷹村が勝つビジョンが浮かばん。

 

己の無力に腹が立つ。

 

「やれやれ、茶化せる雰囲気じゃなかったな。」

 

伊達の言葉に皆が目を向ける。

 

「伊達さん、今の鷹村さんを茶化したら殺されますよ?」

「俺達を巻き込まないでくださいよね。」

「おいおい、冷てぇじゃねぇか。」

 

青木と木村、そして伊達のやり取りに、場の空気が和らぐ。

 

こういった気を回せる辺り、伊達は流石じゃな。

 

「ところで、伊達さんはブライアン・ホークとスパーリングをしたって言ってましたが、その伊達さんから見て、鷹村さんに勝算はあるんですか?」

 

宮田の息子の言葉に、皆の注目が伊達に集まる。

 

「はっきり言って、今の鷹村じゃあ勝ち目がねぇな。」

 

伊達の答えに皆が驚く。

 

「ちょ、ちょっと伊達さん!鷹村さんに勝ち目が無いって、どういう事ですか?!」

「あの鷹村さんですよ!?いくら世界チャンピオンだって、鷹村さんなら何とかなるんじゃないですか!?それに、この前の試合だって、世界ランカー相手に勝ったじゃないですか!」

 

木村と青木の言葉に、伊達が首を横に振る。

 

「たしかに鷹村なら世界に通用するぜ。だがな…。」

 

一度言葉を区切ってから、伊達が言葉を続ける。

 

「世界チャンピオンってのは別物なんだ。世界レベルの強豪達の頂点に立ってるのが世界チャンピオンだ。才能や技術、そして経験といったものとは別の、本物の強さを持った奴だけが成れるのが世界チャンピオンなんだよ。」

 

かつて世界タイトルに挑戦をした伊達のこの言葉は重みがある。

 

経験した者だけが持つ重みが…。

 

「鷹村に才能や技術が無いとは言わねぇ。それを磨く努力だってしてるのはわかる。だがな、だからといって報われるとは限らねぇのがボクシングだ。それはお前らだってわかってるだろ?それでも前に進む覚悟や勇気を持った奴だけが、世界に行けるんだ。」

 

そこまで言うと、伊達は立ち上がった。

 

「応援してやれ。あいつが挑もうとしてるのはボクシング史上でも稀な怪物だ。あいつを独りにするな。同門のお前達の声だからこそ、あいつの背中に届くんだからよ。」

 

そう言って手をヒラヒラと振りながら、伊達はジムを去って行きおった。




本日は5話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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