side:ホーク
英二の日本タイトル挑戦が始まった。
俺と真理とミゲル、そしてダニーは英二からもらったチケットで、会場の前列の方で観戦をしていく。
1ラウンド目、日本チャンピオンとのジャブの差し合いを制すると、英二はリング中央に陣取って試合をコントロールしていく。
その様子は挑戦者とチャンピオンの立場が逆転している様に見えた。
2ラウンド目、英二はチャンピオンの顔にパンチを集めていった。
ボディーを狙えば楽に追い込める場面もあったんだが、ガードの上からでもお構いなしだ。
この英二の攻勢に会場は沸いたが、いったい何人が英二は何かを狙ってるって気付いたんだろうな?
そして3ラウンド目、ここで英二は日本チャンピオンの意識が上に集中しているのを確認すると、日本チャンピオンの胸にスクリューブローを放った。
すると、日本チャンピオンの動きが止まった。
「ミゲル、あのパンチは何だ?」
「ハートブレイクショットだね。心臓を打つ事で一瞬鼓動を止め、意識があっても相手を動けなくするんだ。」
動きが止まって無防備な日本チャンピオンに、英二が返しの左フックを振り抜く。
日本チャンピオンはリングに沈むとそのまま立ち上がることなく、英二が日本チャンピオンに返り咲いた。
「ヒューッ、おっかねぇパンチだ。」
そう言ってダニーは自分の体を抱きしめる様にして身を震わせる。
「技術だけでなく判断力や決断力も求められる極めて難しいパンチだよ。相手が格下であった事を差し引いても、実戦で使いこなして見せた伊達は間違いなく世界レベルのボクサーだね。」
ミゲルが認める程に英二は高いレベルのボクサーって事か。
前にスパーリングをした時はそう感じなかったんだが、成長の手応えってのは嘘じゃなかったようだ。
ベルトを肩に掛けて拳を突き上げた英二に拍手を送る。
さて、鷹村の方はどんなもんなんだろうな?
side:鷹村
世界前哨戦のリングに上がると、ジジイが相手じゃなくてリングの外に目を向けてやがる。
俺様もジジイの視線の先に目を向ける。
…きてやがったか。
「鷹村、今は目の前の相手に集中せい。相手は世界ランク1位なんじゃぞ。」
「わかってらぁ。」
ジジイに言われなくてもわかってらぁ。
だが、予定変更だ。
あの野郎に…ブライアン・ホークに俺様のボクシングを見せ付けてやる!
ゴングが鳴って試合が始まると、俺様は左一本で戦っていく。
ジャブの差し合いだけで1ラウンドを終えると、ジジイが声を掛けてきた。
「狙っとるのか?」
ちっ、ジジイには気付かれたか。
「悪いか?」
「いや、構わん。じゃが、もっと足を使わんか。」
2ラウンド目はジジイの指示通りに足を使っていく。
ちっ、砂浜ダッシュで仕上げた俺様の足に対応しやがるか。
思ったよりも時間が掛かりそうだぜ。
◆
side:ホーク
鷹村の世界前哨戦の観戦を終えた俺達は、合流してきた藤井を連れて宿泊先のホテルに戻ってきた。
「『ブライアン、鷹村の試合はどうだった?』」
妙に機嫌がいい藤井が、レストランのボーイに酒を注文しながら俺に問い掛けてくる。
「『前の試合よりはマシだったな。』」
左一本で6ラウンドKO勝利。
これが鷹村の世界前哨戦の内容だが、ハッキリ言って英二の試合の方が面白かった。
ハートブレイクショットを見据えた駆け引きは間違いなく世界レベル。
鷹村の方は…デビッドと比べると見劣りするからなぁ。
そういった事を藤井に伝えると、機嫌が良かった藤井がため息を吐く。
「『…ブライアン、鷹村は見る所が無いのか?』」
「『パンチの威力は世界レベルだが、それだけって感じだな。』」
俺が正直に言うと、藤井はまたため息を吐く。
「ミゲルは鷹村をどう評価するんだ?」
「パンチの威力はホークの言う通りに世界レベルだね。だが、駆け引きの拙さが端々に窺える。おそらくだが、これは経験不足が原因じゃないかな?」
ミゲルの言葉に頷く。
鷹村のボクシングは、なんか後一押しが足りないんだよな。
力を持て余しているというかそんな感じだ。
だから本当に惜しい。
真理がミゲルの言葉を訳すと、藤井はガシガシと頭を掻く。
「『…大舞台で才能が華開いた選手もいる。まだ勝負は決まってないぜ。』」
知っている。
俺もそういう奴と戦った事があるからな。
「『鷹村もそうだといいんだがな。そうすりゃ、試合を楽しめる。』」
減量中だから控えめな量で飯を楽しむ。
藤井は込み上げてくるため息を飲み下す様に酒を煽ったのだった。
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