俺がブライアン・ホークとして転生してから4年が経った。
今の俺は14歳。
身長は170cmを超えて、そうそうスラムのワルガキ達にガタイ負けしなくなった。
そのせいなのか、最近は喧嘩相手が少なくなってきた。
今では俺と喧嘩をするのは格闘技の経験者ぐらいだな。
スラムの喧嘩自慢のワルガキ達はこぞって見に回っている。
去年と比べても今年の稼ぎは悪い。
今日も俺と喧嘩をしようとする奴等は五人程度と少なかった。
まぁ、今は食うに困らないんだけど、このままでは相手がいなくなる。
う~ん…どうする?
いい考えが浮かばない。
むしろ良くない想像ばかりが浮かび上がってくる。
あぁ!やめやめ!
腹が減ってるからネガティブな事ばかり考えるんだ!
よし!今日は久しぶりにステーキを食うぞ!
そう考えた俺はスラムを抜け、程近い所にあるステーキハウスに入ったのだった。
◆
「おう、ホーク。今日の稼ぎはどうだった?」
この数年で顔馴染みになったステーキハウスのマスターが、笑顔で俺に問い掛けてくる。
「まぁ、ツケにせずに食える程度ってとこだな。」
「そいつは最高だ。いつものでいいか?」
「おう。」
カウンター席に座ると、マスターは俺に水を出してから大きな鉄板でステーキを焼き始める。
ジュウゥゥゥ!という音と共に立ち上る煙が、俺の空きっ腹を刺激してくる。
腹の虫の鳴き声を抑える為に水を一口飲むが効果は無い。
むしろ準備万端と更に鳴き声が増す始末だ。
少し経つと重厚な存在感を放つステーキが俺の前にやって来る。
前世の記憶にある日本式の薄いステーキじゃない。
アメリカ式の分厚いステーキだ。
ナイフとフォークでそいつを切り分けると、大口を開けて食らい付く。
噛み応えのあるステーキは育ち盛りの俺にピッタリで、咀嚼は一瞬たりとも止まらない。
500グラムはあったステーキ1枚を平らげる頃合いに、マスターが2枚目を焼き始める。
顔馴染み故の見事な呼吸だ。
付け合わせで間を埋めていると、2枚目のステーキが目の前に置かれた。
俺は衰えぬ勢いで2枚目のステーキを食らっていく。
そして至福の時を終えた俺は、マスターに礼を言ってスラムに帰るのだった。
◆
「マスター、少しいいかな?」
ステーキハウスの一角でサイドメニューのサラダを食べていた老人が、不意にマスターに問い掛ける。
「あん?どうした、じいさん。」
「先程出ていった少年なのだが、何者かな?」
老人の問い掛けにマスターは訝しげな表情をするが、老人が差し出したチップを懐に仕舞うと話し出す。
「あいつはブライアン・ホーク。スラムのワルガキさ。」
「スラムの?」
「ただのワルガキじゃねぇぜ。スラムの喧嘩で負けなしのワルガキさ。」
興が乗ってきたのか、マスターはホークの事を語り続ける。
「スラムじゃあ鉄パイプやナイフは当たり前。果てにはピストルまで喧嘩に持ち出されるんだが、ホークはそんなスラムの喧嘩で拳一つで負けなしなのさ。」
「ほう?」
興味深そうな老人に機嫌を良くしたマスターは更に話しを続ける。
「他にもレスリングにカラテといった格闘技の経験者相手にも一度も負けた事が無いらしい。俺も初めてホークを見た日から、あいつがケガをして店に来たのを見た事が無いんだ。」
マスターから話を聞いた老人は笑みを浮かべながら立ち上る。
「面白い話を聞かせて貰った。釣りはチップとして取っておいてくれ。」
帽子を被りながら老人は踵を返して店を出ようとするが、不意に立ち止まって振り返る。
「そうだ、マスター…。」
声を掛けられたマスターは首を傾げて老人の言葉を待つ。
すると…。
「ホークが喧嘩をする場所なのだが…わかるかな?」
帽子の鍔を持ち上げながらそう問い掛けた老人の目は、まるで宝物を見付けた少年の様に輝いていたのだった。
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