目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第50話『幕ノ内 一歩の奮闘』

side:一歩

 

 

着替えてアップを終えた僕は、ヘッドギアを着けてリングに上がる。

 

うわぁ、緊張するなぁ。

 

「あ、あの!幕ノ内 一歩です!よろしくお願いします!」

「おう、よろしくな。」

 

日本語で応えられてびっくりした。

 

「日本語上手ですね。世界チャンピオンって皆そうなんですか?」

「俺はミゲルから教えてもらったから出来るだけで、他の連中は違うんじゃねぇか?まぁ、デビッドはプロボクシングがある国の言葉は大抵話せるらしいがな。」

 

へぇ~、そのデビッドさんって凄いなぁ。

 

「小僧!」

 

会長に叱られてホークさんとの話が終わってしまう。

 

もっと色々と話をしてみたかったなぁ。

 

気持ちを切り替える為に深呼吸をするとゴングが鳴った。

 

リング中央でホークさんとグローブを合わせてから、会長や宮田君のお父さんに教えられた通りに、ビーカーブースタイルで構える。

 

ホークさんはビデオで見た通りに手を下げている。

 

こうして対峙しているだけでジワリと汗をかくぐらいに圧力を感じる。

 

「小僧!飲まれるな!自分から手を出していけ!」

「はいっ!」

 

会長の指示通りに僕は自分から手を出していく。

 

ジャブを打っていくけど、まるで当たる気がしない。

 

ストレートを打つとホークさんはバックステップで下がった。

 

海の合宿で教えてもらった足の親指で強く蹴るダッシュで踏み込む。

 

すると、その踏み込みに合わせてホークさんも踏み込んできた。

 

予想外に距離が近付いてしまって、どうしたらいいかわからなくなる。

 

ドンッと重い衝撃がボディーにきて、思わずガードを下げてしまう。

 

…あれっ?なんで僕はここで寝てるんだろう?

 

「小僧!」

 

会長の声が聞こえる。

 

身体を起こして周りを見渡すと、宮田君と宮田君のお父さんがいる。

 

それとホークさんも…!?

 

そうだ!僕はホークさんとスパーリングをしてるんだった!

 

慌てて立ち上がろうとして尻餅をついてしまう。

 

うわっ!?足に力が入らない!

 

なんとか立ち上がると、ホークさんが笑顔で話し掛けてきた。

 

「ヘイ、幕ノ内、まだやれるか?」

「はいっ!お願いします!」

 

レベルが違い過ぎて何がなんだかわからないけど、会長や宮田君のお父さんに教えてもらった事を全部出すんだ!

 

 

 

 

side:宮田 一郎

 

 

「かぁ~、ブライアンも容赦ねぇな。」

 

伊達さんがニヤニヤと笑いながらこっちに近付いてくる。

 

今すぐにリングに上がって顔にストレートをぶち込みたい気分だぜ。

 

「それで、鴨川ジム期待の練習生はブライアンが何をしたのかわかるかな?」

 

リングの上だったら何がなんだかわからなかったかもしれない。

 

けど、俺はリングサイドで見てたんだ。

 

わかって当然だろ。

 

「左でボディーを打って、幕ノ内のガードが下がったところに右のフック。」

 

そう答えるが、伊達さんはニヤニヤとした笑みを止めない。

 

「その答えじゃあ50点だな。」

 

その言葉を聞いて驚く。

 

なんだ?何を見逃した?

 

父さんの方を見ると、驚いて目を見開きながら手を口に当てていた。

 

俺は何を見逃し、父さんは何を見たんだ?

 

「信じられない事だが…。」

 

そう前置きをした父さんは冷や汗を流しながら続きを話す。

 

「ブライアン・ホークはハードパンチとソリッドパンチを使い分けたのではないかな?」

「正解。」

 

二人の会話に驚く。

 

そんな驚いている俺に父さんが話し掛けてくる。

 

「一郎、パンチの質は生まれ持ったものだと知っているな?」

「あぁ。」

 

俺は幕ノ内の様なハードパンチは打てないソリッドパンチャーだ。

 

だからこそ幕ノ内のパンチに嫉妬した事がある。

 

それなのに…ブライアン・ホークは使い分けた?

 

どういう事なのか知りたくて、俺と父さんは伊達さんに目を向ける。

 

「最初にやられた時は俺も信じられなかったぜ。でも、ホークが言うにはコツがあるそうだ。俺も聞いてやってみたんだが、確かにある程度はパンチの質を変えられたぜ。」

 

それを身に付ける事が出来たら、俺のボクシングは変わる。

 

いや、カウンターを捨てるつもりはない。

 

これまでとは違うカウンターになるんだ。

 

ダウンを奪った相手に立たれる事なく、一撃で相手をリングに沈められるカウンターに…。

 

それを想像すると、背中にゾクリとした興奮が走った。

 

「伊達さん。」

「まぁ、そう焦るなよ。俺だって完璧に身に付けたわけじゃないからな。本気で身に付けたいんなら、最高の教師があそこにいるだろう?」

 

顎で指し示されるリングに目を向ける。

 

そこにはダウンをした幕ノ内が立ち上がる姿があった。

 

ちっ、早く終われよ!

 

俺の舌打ちを聞いた父さんと伊達さんが含み笑いをする。

 

…くそっ!

 

その後、幕ノ内はボコボコにされながらも、約束の3ラウンドをきっちり戦い抜いたのだった。




本日は4話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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