目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

54 / 84
本日投稿4話目です。


第53話『日本のボクシングファンは黒金の鷹を知る』

side:ホーク

 

 

世界タイトル前哨戦のリングに上がると相手に目を向ける。

 

そこにはWBCジュニアミドル級元世界チャンピオンの姿があった。

 

俺との世界タイトルマッチに負けたあいつは引退するつもりだったらしいんだが、ミゲルがノンタイトルマッチの事を持ち掛けると前言撤回して、今日までトレーニングを積んできたそうだ。

 

身体を見ると以前よりも仕上がっているのがわかる。

 

そりゃそうだろうな。

 

1年近く掛けて準備をしてきたんだからよ。

 

「彼は今日の試合を最後に引退するそうだ。手向けというわけではないが、1ラウンドは彼に付き合ってあげてほしい。2ラウンドからは心残りが無い様に全力で叩き潰してあげてくれ。」

 

ミゲルの言葉に頷く。

 

あのおっさんは世界タイトルを9度防衛した男だけあって、プロのリングで戦った連中の中では一番面白い奴だった。

 

だから1ラウンドぐらいは付き合ってやるさ。

 

リング中央に行くとおっさんと目が合う。

 

…デビッドと同じ様な目をしてやがる。

 

レフェリーの言葉を聞き流してコーナーに戻る。

 

「ミゲル、この試合は楽しめそうだぜ。」

 

そう言うと、ミゲルは少し驚いた後に微笑んだのだった。

 

 

 

 

side:宮田 一郎

 

 

少し離れた所に会長と鷹村さん、そして八木さんと篠田さんがいる。

 

この距離だと会場の声に紛れて、お互いの会話は聞こえないだろうな。

 

「一郎、よく見ておけ。現在の日本のリングではめったに御目に掛かれない、本物の世界レベルの試合なのだからな。」

「わかってるさ、父さん。」

「一郎だけじゃないぞ。幕ノ内も、青木も木村もよく見ておきなさい。」

 

父さんの言葉に俺達は頷く。

 

父さんは現役時代は世界を狙えると言われた天才ボクサーだ。

 

その父さんの解説付きで世界レベルの試合を見れるんだ。

 

見逃したら損だぜ。

 

ゴングが鳴り試合が始まった。

 

ブライアンの相手のジャブだけで俺達は驚く。

 

「と、鳥肌が立っちまった。」

「あのジャブだけで金が稼げるぜ。」

 

青木さんと木村さんの会話に幕ノ内が息を飲んでいるのがわかる。

 

「基本に忠実だが、一発一発のタイミングと角度を変えている。流石は9度の防衛を果たした元世界チャンピオンだな。」

 

父さんの解説に青木さんと木村さんは驚愕する。

 

「マジかよ!鷹村さんとの世界タイトルマッチを前に、そんな相手とノンタイトルマッチをしてんのか!?」

「くそっ!舐められてんのか!?」

 

二人の言葉を耳にしながらも、俺はリングの上から目を離さない。

 

瞬きすら鬱陶しく感じる程の試合が行われているからだ。

 

ジャブの差し合いで試合を作るのが基本だと思っていたが、相手のパンチを避けて試合を作っていくブライアンのボクシングも参考になる。

 

「すごい…。」

「幕ノ内、感心してばかりではいかんぞ。ダッキングはお前もよく使うディフェンス技術なんだ。少しでも学び取らなくてはな。」

「ぼ、僕はあんなに避けられませんよぉ。」

 

1ラウンド目は元世界チャンピオンが攻めて、ブライアンは終始ディフェンスに撤して終わった。

 

ラウンド間に観客のざわめきが耳に入る。

 

「なんだ、一発も手を出さないなんて、ブライアン・ホークは大したことねぇな。」

 

ちっ!

 

思わず舌打ちをしちまったぜ。

 

「観客の目が肥えてると言っても、所詮は国内レベルってところか。」

 

そう言いながら、伊達さんが俺達に合流してきた。

 

「伊達、鷹村の方に行かなくていいのか?」

「こっちの方が色々と聞けそうですからね。それに、今のあいつは減量中なのもあってピリピリしている。とばっちりはごめんですよ。」

 

そう言って伊達さんは父さんの横に並んだ。

 

「次のラウンドですね。」

「あぁ、ホークの雰囲気が変わった。」

 

伊達さんと父さんの会話でブライアンに目を向ける。

 

残念ながら、俺にはまだそういった機微は読み取れない。

 

ここら辺はプロのリングを経験した者だからこそわかるんだろうな。

 

チラリと青木さんと木村さんに目を向ける。

 

二人も前のめりになってリングを見ている。

 

まだ日本タイトルに挑戦した事がない二人だが、それでも選手の雰囲気を感じ取っているのか。

 

素直に悔しいぜ。

 

2ラウンド目が始まると、1ラウンド目とは変わって打ち合いになった。

 

だが、その内容は一方的だ。

 

ブライアンのパンチは当たるが、元世界チャンピオンのパンチは当たらない。

 

打ち合いが始まって直ぐは沸いていた観客が、今では息を飲んじまってる。

 

皆わかったんだ。

 

ブライアンが化け物だって事が。

 

元世界チャンピオンがクロスカウンターでダウンした。

 

ゾクリと身体が震える。

 

カウンターに至るまでの一連の流れが完璧だったからだ。

 

「あれは使えるな。今度試してみるか。」

 

伊達さんの言葉に歯噛みをする。

 

俺がまだまだ未熟だと思い知らされるからだ。

 

その後、元世界チャンピオンは立ち上がったが、試合の流れは一方的にブライアンのものとなる。

 

そして3ラウンド目、元世界チャンピオンがこの試合で3回目のダウンをするともう立ち上がることなく、ブライアンは一発の被弾もなくKO勝利したのだった。

 




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。