目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第54話『鷹村の和解と後輩の成長を促す伊達』

side:鷹村

 

 

あの野郎の世界前哨戦を見終えた俺様は、翌日から本格的に減量を始めた。

 

走って、サンドバッグを叩き、走って、走って、走りまくった。

 

家に帰ればジジイに渡された干しシイタケを口に含んで水分を出す。

 

この減量方法は悪くねぇ。

 

口に物を入れた分、何かを食った気になれるからな。

 

すっかり元通りになったシイタケを皿に放ると、インターホンが鳴った。

 

「ちっ、誰だ?」

 

そう口にしながらドアを開けると、そこには兄貴がいた。

 

「守、入るぞ。」

 

そう言ってズカズカと部屋に入っていく。

 

「あ、おい!?」

 

止める間もなく兄貴が部屋に入っていくのを見て、俺様は頭を掻くしかねぇ。

 

部屋に入った兄貴は暖房をガンガンに効かせているのも気にせずに、ドカッと腰を下ろした。

 

仕方なく俺様は水でも出すかと台所に行く。

 

コップに水を注いでいくと喉が鳴る。

 

…くそったれ!

 

水を兄貴の前に置いて俺様も座る。

 

兄貴は水を一口も飲まずに話し出した。

 

「…本気で戦うつもりの様だな。」

 

誰と?

 

決まっている。

 

ブライアン・ホークだ。

 

「俺もスポーツの世界に身を置いていたからわかる。あれは本物の化け物だ。」

 

兄貴に言われなくても耳にタコが出来る程聞いてるぜ。

 

「世界ランクを取ったのならば、本来の階級に戻す道もあるんじゃないか?」

 

八木ちゃんも同じ事を言ってやがった。

 

だが、それは俺様の道じゃねぇ。

 

そう思ったのがわかったのか、兄貴はため息を吐く。

 

「…わかった。骨は拾ってやる。納得いくまでやればいい。」

 

そう言うと兄貴は立ち上がった。

 

「既に鴨川会長には話してあるが、鷹村建設はお前のスポンサーにつく事が決定した。役員を説得するのは少しばかり骨だったぞ。」

 

片手を上げて兄貴が去っていく。

 

ちっ、すかしやがって。

 

恩を売ったつもりか?

 

そんな事は頼んじゃいねぇよ。

 

「守…頑張れよ。」

「…応!」

 

 

 

 

side:ホーク

 

 

世界前哨戦を終えた俺はアメリカに帰って半月程休養すると、また日本に戻ってきた。

 

空港に到着すると、日本のボクシング関係の記者連中が待っていた。

 

ここら辺はどの国でも変わらねぇな。

 

「ははっ、ブライアンは日本でも人気があるんだね。」

「デビッドの方が日本人受けすると思うけどな。」

 

今回の世界タイトルマッチの日にはデビッドが見に来る予定だったんだが、そのデビッドは予定を繰り上げて俺の調整を視察するそうだ。

 

まぁ、まだ俺達の世界タイトルマッチは内定しているだけの状態だからな。

 

ついでに俺のスパーリングパートナーもやるつもりなんだろうよ。

 

「ブライアン!」

 

おっと、今回も真理が迎えに来てくれたか。

 

真理はデビッドを見て少し驚いた顔をしている。

 

一緒に来ていた藤井は顎が外れんじゃねぇかと思う程に口を開けてるな。

 

「どうやら万全の状態で試合の日を迎えられそうね。鷹村選手が少し気の毒だわ。」

 

そう言いながら真理は俺と腕を組んでくる。

 

回りにカメラを持ったマスコミ連中がいるのにいいのか?

 

「さぁ、行きましょう。伊達 英二が首を長くして待っているわ。」

 

 

 

 

side:伊達

 

 

日本タイトル防衛戦が決まった。

 

鷹村の世界挑戦と同じ日にだ。

 

会場を盛り上げて鷹村の後押しをするつもりなんだろうよ。

 

そんな事でどうこうなる相手じゃねぇんだけどなぁ…。

 

ため息を吐くと同じジムの後輩の沖田が近付いてくる。

 

「伊達さん、世界チャンピオンは今回もうちのジムで調整するんですか?」

「おう、それがどうした?」

「いえ、またあいつらが厚かましく来るのかと思いまして…。」

 

そう言う沖田と目を合わせる。

 

「おい沖田、勘違いすんな。宮田や幕ノ内の方が正しくて、遠慮してブライアンとスパーリングをしねぇお前が間違ってんだよ。」

「ですけど、俺じゃレベルが違い過ぎて、却って世界チャンピオンの練習の邪魔じゃないですか。」

 

こういった遠慮が美徳なんて誰が言いやがった?

 

喰うか喰われるかの世界でそんな甘っちょろい事を言ってるから、いつまで経っても日本人から世界チャンピオンが出ねぇんじゃねぇか。

 

頭を抱えて大きくため息を吐く。

 

今年の新人王を取った沖田はうちのジムの期待株だ。

 

流石に宮田の相手はきついだろうが、それでも日本タイトルは十分に狙えるだけのものは持ってる。

 

この甘っちょろい考えさえなければな。

 

「沖田、命令だ。今回はお前もスパーリングに強制参加だぜ。」

「だ、伊達さん!?」

 

上手くいけばこいつも一皮剥けるかもしれねぇ。

 

そうすりゃ東洋…いや、その上だって目指せるだろうよ。

 

沖田、お前が俺に憧れてくれるのは嬉しいぜ。

 

でもよ、だからこそ上を目指せ。

 

器用なお前なら上のレベルにだって適応出来る筈だ。

 

お前がそうならなきゃ、安心して日本タイトルを返上出来ねぇからな。

 

ジムの扉がノックされると、ブライアンとその一行が姿を現す。

 

しかも今回は更にとびっきりの客もいるようだ。

 

試合までの1ヶ月半、楽しくなりそうだぜ。




本日は4話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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