side:ホーク
セミファイナルである英二の日本タイトル防衛戦が始まった。
この様子だと直ぐに終わるな。
アップを終えた俺はガウンを羽織る。
すると、係員が呼びにきた。
「では、行こうか。」
ミゲルが先導して花道の前に着く。
ちょうどその時、大きな歓声が響いてきた。
「どうやら英二が勝ったみたいだね。」
「頼んだぜ、ホーク。ブックメーカーでお前の勝ちに全財産突っ込んだんだからな。俺がガールフレンドとマイホームに住めるかはお前に掛かってるんだぜ。」
ダニーには大学時代から付き合っている彼女がいるんだが、その彼女とは既に婚約していて、帰国したら式を挙げる予定になっていた。
そんな大事な時に全財産賭けるなんて、ダニーはギャンブラーだな。
「オーライ、ダニー。だけどよ、そんな賭けばかりして彼女に愛想を尽かされるなよ。」
「ハッハッハッ!勝つってわかってる賭けは賭けじゃねぇよ。」
そこまで信頼されちゃあ応えねぇとな。
「『ホーク選手、スタンバイお願いします。』」
係員の言葉に続いて俺の入場曲が流れ始めた。
さて、行くか。
◆
side:鷹村
漸くこの時がきたぜ。
レフェリー、御託はいいからさっさと始めやがれ!
ゴングが鳴るとガードを上げてオーソドックスに構える。
こいつとの試合が決まってからのジジイの説教は、どこかいつもと違ってた。
うちのジムからは一人も世界チャンピオンが出てねぇからな。
ジジイに自信が無くても仕方ねぇ。
なら、俺様が証明してやる。
ジジイのボクシングは世界に通用するってな!
そして…こいつに俺様の名前を刻み込んでやる!
先ずは耳にタコが出来るぐらい言われた左だ!
左、左、左!
スウェーやダッキングで器用に避けやがる。
しかも俺様に対してノーガードでだ。
ちっ!
左から右に繋ぐワンツーを打つと、あいつが後ろに一歩下がる。
踏み込んで追い、左、右と打って誘導する。
そして…コーナーに追い込んだ。
もう逃げ場はねぇぜ!
右ストレートを振り抜く。
俺様の右がコーナーに突き刺さ…!?
なんだ!?
一瞬膝が抜けたのを踏ん張り、左フックを打つ。
!?
また天井の照明が見えやがる!
何をくらってんのかわからねぇ!
くそったれが!
歯を食い縛りパンチを打ち続けるが、俺様のパンチは一発も当たらねぇ。
だが、反撃してくるあの野郎のパンチは確実に俺様を捉えていった。
「落ち着けぇ、鷹村ぁ!」
ジジイの声が聞こえた俺様は、落ち着く為にガードを固める。
だがガードの上でもお構い無しに、あの野郎は殴り続けてきやがる。
調子に乗んな!
右フックを打つと、俺様は尻餅をついていた。
…なんだ?
なんで俺様は尻餅をついてんだ?
「鷹村ぁ!」
ジジイの声に反応して立ち上がる。
ファイティングポーズを取ると、レフェリーがやれるか聞いてきやがった。
当然だろ!
止めるんじゃねぇぞ!
試合が再開すると、あの野郎はノーガードで歩いて近付いてきやがる。
その姿が俺様の神経を逆撫でする。
…舐めやがって!
「落ち着けぇ!ダメージが抜けるまでガードに撤するんじゃ!」
…ちっ!
ジジイの指示でガードを固める。
あの野郎はまたガードの上からでも構わずに殴ってくる。
たまに打ってくるボディーがうざってぇ。
こんなのでダウンする程、俺様の腹筋は柔じゃねぇ!
「鷹村くん!残り一分!」
八木ちゃんの声が聞こえた。
爪先に体重をかけてダメージが抜けたのを確認すると反撃に出る。
ジャブ、ストレート、フック、アッパーの全てを打つが悉く避けられる。
それが癪に触り、次第に大振りになってしまう。
そこを狙われ、カウンターでボディーを殴られた。
一瞬息が詰まって動きが止まったところを横から殴られる。
膝が震えた。
ロープに飛んでしがみつき、ダウンを拒否する。
すると1ラウンド終了のゴングが鳴った。
あの野郎は目の前まで来ていたのにあっさりと手を止めて、悠々とコーナーに戻っていく。
その後ろ姿がまた癪に触り、俺様は拳を握り締めた。
◆
side:ミゲル
「どうかね、鷹村は?」
「いいもんを持ってるな。でもオーソドックススタイルがなんか馴染んでねぇ感じがする。それと思った以上にタフだ。鷹村をKOするには少し時間が掛かりそうだぜ。」
私もホークと同じ印象を持った。
鷹村は世界でもトップクラスのパンチを持っているが、それ以上に驚異的な打たれ強さを持っていた。
生まれ持ったものか、あるいは彼の怒りの心故か。
どちらにしても、今のままならホークの敵ではない。
今のラウンドだけで、彼は何発もボディーブローを受けた。
ホークは鷹村の驚異的な打たれ強さを考えて、冷静にスタミナを奪う作戦に切り替えたのだ。
あれほどの姿になる減量をして、どれだけのスタミナがあるのか理解しているのかな?
鴨川は気付いていないだろう。
おそらくは3ラウンドでスタミナが切れるだろう。
4ラウンドは持つまい。
鷹村。
君は敗北を知るだろう。
だが、それは決して無駄にはならない。
何故なら君は世界最強のボクサーとの戦いを経験出来るからだ。
それは間違いなく君の成長の糧となるだろう。
ただし…君の心が折れなければの話だ。
鴨川、君が判断を間違えない事を祈っているよ。
鷹村が壊れる前に試合を止める判断を間違えない事をね。
本日は4話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。