目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第60話『敗北と目覚め』

side:ホーク

 

 

「問題ないかな?」

「あぁ、大丈夫だ。でもよ、少し驚いたぜ。ぶっ飛んだ奴を見たのは久しぶりだからな。」

 

4ラウンド目の途中、ダウンから立ち上がってきた鷹村は理性がぶっ飛んでた。

 

スラム時代はああいう奴と何度も喧嘩したもんだが、リングの上じゃ初めてだぜ。

 

それはそれとして…。

 

「ああなったら、もっと攻撃が雑になるもんなんだがな。」

「見事に人体の急所だけを的確に、鋭く狙ってきていたね。それだけ鴨川にしごかれてきたという事なのだろう。」

 

あの状態で急所だけを狙うなんざ並じゃねぇ。

 

ミゲルの言う通りに、本能に刷り込まれるまで丹念に繰り返し練習してきたんだろうな。

 

「面白くなってきたぜ。」

「残念ながらそうはいかないようだ。」

「あん?」

 

ミゲルの目線を追う。

 

するとそこには、相手コーナーから投げ込まれたタオルが舞っていた。

 

「強靭な精神力で肉体の限界を超え、更に世界タイトルマッチという舞台で才能を目覚めさせた。見事だよ。おそらくゴングが鳴れば鷹村は立ち上がるだろうが、ここで止めるのは賢明な判断だ。鴨川も見事。良き師弟関係だね。」

 

その言葉には頷けるが、ちと不完全燃焼だぜ。

 

まぁ、仕方ねぇか。

 

「また戦(や)ろうぜ、鷹村。」

 

 

 

 

side:鴨川

 

 

「担架じゃ!担架を持ってこい!それと救急車を呼んでくれ!」

 

口惜しい。

 

その一言に尽きる。

 

4ラウンド目の途中から見せたあの鷹村の動き…おそらくは、あれが本来の鷹村の動きじゃ。

 

あの動きをしていた時の鷹村は間違いなくブライアン・ホークと渡り合っておった。

 

もしを考えてしまう。

 

もし、あの動きが最初から出来ていたならば…。

 

それを練習で引き出せなんだは儂の力不足。

 

この試合の敗因は…儂じゃ。

 

…担架が来たようじゃな。

 

リングドクターの指示で慎重に鷹村を担架に乗せる。

 

そして運ばれる鷹村に付き添ってリングを後にする。

 

「鷹村ぁ!」

「ナイスファイトだったぞ!」

「また世界に挑戦しろよ!待ってるからな!」

 

会場に足を運んでくれたファンの声が耳に届く。

 

鷹村、聞こえておるか?

 

儂はお主を誇りに思うぞ。

 

出直しじゃ。

 

一から出直しじゃ。

 

これだけ歳を重ねても、まだまだ学ぶべき事が多いわい。

 

鷹村に寄り添い歩き続ける。

 

そして会場から去っても、皆の鷹村を呼ぶ声は届き続けたのじゃった。

 

 

 

 

side:鷹村

 

 

「あ?ここは…いっ!?」

 

身体を起こそうとするとズキッ!と頭が痛みやがる。

 

くそっ!なんだってんだ!

 

「起きたか。」

 

ジジイの声が聞こえてもう一度身体を起こそうとする。

 

ちっ!また頭が痛みやがる。

 

「ここは病院じゃ。起きんでええ、そのまま寝とれ。」

 

そう言われ、ふと思い出した。

 

「おい、ジジイ。試合は?」

「どこまで覚えとる?」

「…4ラウンド目の途中までだ。」

 

ジジイは帽子を被り直してから話始める。

 

「お主は意識を失ったままダウンから立ち上がると、そのまま戦い続けた。そして4ラウンド目は戦い抜いたのじゃが、そこで儂は限界と判断しタオルを投げ込んだ。」

「…そうかよ。」

 

これまでも試合中に何度か意識を失った事はあった。

 

だが、そのまま戦い続けた事はなかった。

 

どうなってやがる?

 

「お主に伝言がある。チャンピオンはお主の名を覚えとくそうじゃ。試合後のインタビューでそう言っておったと、小僧達が伝えてきたわい。」

 

その言葉を聞くと、頭が痛むのを堪えて身体を起こす。

 

「なんのつもりじゃ?」

「決まってんだろ、退院すんだよ。退院して練習すんだ。」

「バカ者が、検査結果が出るまで入院じゃ。それと退院してもダメージが抜けるまで練習は禁止じゃぞ。わかったら大人しく寝とれ。しっかり休むのもボクサーの仕事なのじゃからな。」

「ちっ!」

 

身体をベッドに横たえると、ふと思った事を口にする。

 

「ジジイ…『俺』のボクシングはどうだった?」

「鷹村…。」

 

あん?何を驚いてやがんだ?

 

「…いいボクシングじゃったわい。この老いぼれに、世界を夢見させる程にな。」

「へっ、そうかよ。」

 

その後、一言二言話すとジジイは帰っていった。

 

俺は窓の外に目を向ける。

 

「『俺』か…。」

 

自然に出た言葉だった。

 

いつ以来だ?自分を『俺』と言ったのは?

 

そう考えると可笑しくなってきた。

 

「ハッハッハッ!…くそっ!頭がいてぇ!」

 

頭が痛むのに楽しくて笑いが止められねぇ。

 

ボクシングは本気でやってきた。

 

だが初めてなんだ。

 

『誰か』に本気で挑みたいと思うのは。

 

伊達のオッサンもこんな気持ちなのか?

 

試合前まであった怒りは、今では欠片も残っちゃいねぇ。

 

今あるのは早くボクシングがしてぇ、早く練習がしてぇって気持ちだけだ。

 

ブライアン・ホーク…首を洗って待ってろよ。

 

勝ち逃げなんて許さねぇからな!




次の投稿は13:00の予定です。

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