side:ヴォルグ
グローブを合わせるとエージとのスパーリングが始まった。
挨拶代わりにジャブを放つと、身体に少し鈍さを感じる。
右手でジャブが逸らされると、お返しとばかりにエージのジャブがきたのでガードする。
速いだけでなく、初動が極めてわかりにくい。
厄介なパンチだ。
ブランクのある今の僕では捌ききれないだろう。
ダウンさせられる事も覚悟しておく。
ワンツーを始めとした左右のコンビネーションを駆使していく。
この左右のコンビネーションの繋がりの速さが僕の最大の武器だ。
だけどエージはガードにパーリング、スウェーにダッキングと僕のパンチに対処していく。
左ボディーがきた。
受ける代わりに右フックを返す。
ヘッドスリップでいなされた。
上手い。
素直にそう思う。
ゴングが聞こえた。
1ラウンド目が終わったんだ。
ラムダが待つコーナーに戻る。
「エイジ・ダテは強いボクサーだね。」
「うん、僕もそう思う。」
上手いだけでなく強い。
まだ1ラウンドだけしかエージと戦っていないけど、それがよくわかった。
国内チャンピオンのレベルじゃない。
間違いなく世界レベルだ。
ブランクのある僕には少し荷が重い。
「仲代ボクシングジムに来れたのは幸運だった。ヴォルグのスパーリングパートナーには困らない様だからね。」
確かに僕は困らないけど、エージはどう思ってるだろうか?
◆
side:伊達
「どうだ?」
「可愛い気のある顔してるがボクシングは生意気だな。俺の引き出しを確認してきやがった。」
流石はアマチュアボクシングの世界王者といったところか。
まだ若いのにボクシングが上手い。
ただ闇雲にパンチを打つんじゃなく、しっかりと駆け引きの材料にしてきやがる。
だが、ビデオで見た動きよりもキレが無いな。
「ブランクか?」
そう呟くとオヤッサンが苦笑いをする。
「あまりいじめるなよ。」
「冗談だろ、オヤッサン。これから面白くなるところなんだぜ?」
オヤッサンがため息を吐くと、沖田が2ラウンド目開始のゴングを鳴らした。
「そんじゃ、行ってくる。」
◆
side:伊達
3ラウンドのスパーリングが終わった。
結果は俺がノーダウンでヴォルグが2回のダウン。
今回はハートブレイクショットを使わなかったが、それでもまだまだ詰めが甘いぜ。
こんな出来じゃ、リカルド・マルチネスには通用しねぇな。
そう思いながら汗を拭いていると、ヴォルグがこっちにやって来た。
「『ありがとう、エージ。いいスパーリングだったよ。』」
2回のダウンは折り込み済ってか?
ますます生意気な野郎だ。
少しは幕ノ内を見習え。
「『エイジ、私のボクサーは君のスパーリングパートナーになる資格があるかな?』」
ラムダは確信を持った顔で聞いてきやがる。
師弟揃って可愛い気がねぇな。
「『あぁ、合格だ。明日からもよろしく頼むぜ。』」
そう言うと二人は微笑む。
おい、沖田。
不満そうな顔をしてねぇで、お前もヴォルグとスパーリングしやがれ。
ったく、イーグルとのスパーリングで成長はしたが、変なところで遠慮するのは変わらねぇ。
先が思いやられるぜ。
沖田、俺はお前に期待してるんだ。
だから、宮田と戦ったらさっさと上がってこいよ。
今のお前なら東洋はおろか、世界だって目指せるんだからな。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。