目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

69 / 84
本日投稿3話目です。


第68話『成長の証』

side:イーグル

 

 

リング中央でグローブを合わせると、ブライアンとの世界タイトルマッチが始まった。

 

感慨深い想いがあるが、それに浸るのは試合が終わってからだ。

 

先ずはジャブ。

 

相手のパンチを避けてリズムを作っていくのがブライアンのスタイルだ。

 

だから様子見でも牽制でもなく、当てるつもりで打っていく。

 

1つ、2つと打ったところで『飛燕』を使ってパンチの軌道を変える。

 

出し惜しみは無しだ。

 

ブライアンがその場で避けずに距離をとった。

 

これだけで自身の成長を感じる。

 

しかし、そう簡単に攻略出来る相手じゃない。

 

僕がブライアンを追おうとして一歩踏み込もうとした瞬間、ブライアンも一歩踏み込んできた。

 

予想はしていたので思考に硬直は無い。

 

だが、咄嗟の反応勝負に持ち込まれると分が悪い。

 

ガードを固める。

 

ドンッ!と腕に強い衝撃。

 

そこから更に前へ。

 

お互いの肩が当たる距離。

 

ショートアッパーを打つ。

 

大きく身体を逸らすスウェーで避けられた。

 

反撃に備えて歯を食い縛る。

 

ドンッ!と下から顔を殴り上げられた。

 

予想していても効かされた。

 

膝が震える。

 

ボディーを打たれる覚悟をして顔のガードを固める。

 

ドスッ!と腹に2連続で衝撃がくる。

 

問題無い。

 

このぐらいなら耐えられる。

 

こうなる事を想定して腹筋を鍛えあげてきたんだ。

 

足の踏ん張りが利く様になったのを確認して『飛燕』を打つ。

 

一発一発の角度やタイミングを変え、反撃のタイミングを絞らせない。

 

ブライアンが手を止めて回避に専念しだした。

 

手を出し続ける。

 

ブライアンが下がって距離が空いた。

 

一息付けるタイミング。

 

しかし…ブライアンならここで踏み込んでくる。

 

そのタイミングに合わせて僕が最も得意とするパンチを打つ。

 

ワンツーだ!

 

…左拳に確かな手応え。

 

当たった。

 

だが右拳の手応えは小さい。

 

ヘッドスリップで威力を殺された。

 

距離を取ってお互いに一息入れると、ブライアンが僕の目を見ながら嬉しそうに笑っている。

 

きっと僕も笑っているんだろう。

 

ありがとう、ブライアン。

 

君がいたから僕はここまで成長出来たんだ。

 

だから…全力で勝ちにいく。

 

それが君の友人であり、そしてライバルである僕に出来る…最高の御礼だ!

 

 

 

 

side:ホーク

 

 

1ラウンド終了のゴングが鳴ってコーナーに戻る。

 

椅子に座るとダニーが水を口に含ませてきて、ミゲルが汗を拭いてくる。

 

「ついに被弾してしまったね。油断したのかな?」

 

口を濯いでからミゲルに答える。

 

「わかってて聞いてんだろ?油断じゃねぇ、完全に狙われてた。」

「そうだね。相手が一息付く瞬間の踏み込み、これを狙われた。流石にホークをよく知っていると感心したよ。」

 

そう言いながらミゲルが楽しそうに笑う。

 

いい性格してるぜ。

 

「なにかアドバイスは必要かな?」

「いらねぇよ。」

「ならば、楽しんできなさい。」

「おう!」

 

 

 

 

side:鷹村

 

 

「マジかよ!?」

「ブライアン・ホークにパンチを当てやがった!」

 

青木と木村が驚いてやがる。

 

まぁ、俺も驚いたがな。

 

あのワンツー…完全に狙ってやがった。

 

「パンチに合わせるのではなく、踏み込み際を狙ってのカウンターか…うむ、勉強になる。」

 

(宮田の)親父殿も感心してる。

 

それだけあのワンツーを打つタイミングが上手かったって事だ。

 

「デビッド・イーグルの戦略か、団吉の仕込みかわからんが…見事じゃ。」

「団吉って誰ですか?」

「儂の旧友でな、デビッド・イーグルのセコンドをしとる男だ。」

 

一歩の疑問にジジイがそう答える。

 

だが俺はデビッド・イーグルがパンチを当てた事よりも、パンチをくらったブライアン・ホークが楽しそうに笑っている事から目を離せねぇ。

 

…くそっ!

 

「あの顔をさせたのが自分じゃなくて不満ですか?」

「…ほっとけ。」

 

目敏く宮田が気付きやがった。

 

わかってるならツッコミを入れてくるんじゃねぇよ。

 

1ラウンド目終了のゴングが鳴ると、青木と木村が大きく息を吐いた。

 

「鷹村さんの目から見てどうです?デビッド・イーグルに勝てますか?」

「…さてな。」

 

宮田にそう答えると驚いた顔をしやがる。

 

なんだ?

 

「…前の鷹村さんなら、間違いなく『俺様が負けるはずねぇだろ』って答えてましたよ。」

 

…あぁ、そうだろうな。

 

以前の俺は相手が誰であろうと、リングに上がりさえすれば勝てると思ってたところがあった。

 

国内ならそれでも勝てた。

 

だが世界に出てみれば、それじゃ勝てねぇ奴がいた。

 

世界は広いぜ。

 

画面の向こうでは、ラウンド間に両陣営が笑顔を見せている。

 

世界タイトルマッチとは思えねぇ雰囲気だ。

 

俺はどうだった?

 

そんな余裕は欠片もなかった。

 

ジジイもだ。

 

足りてなかった。

 

準備も、覚悟もだ。

 

負けて当然だ。

 

そして…あそこで負けてよかった。

 

絶対に口に出して言えねぇがな。

 

もしあそこで負けてなけりゃ、どこかで何かが壊れてたかもしれねぇ。

 

心か身体かわからねぇが、壊れたのを理解しつつも絶対に認めなかった筈だ。

 

「あ、2ラウンド目が始まりますよ。」

 

一歩の言葉で全員の意識がテレビに向かう。

 

画面の向こうじゃ、また笑顔でグローブを合わせてやがる。

 

今は仕方ねぇ。

 

我慢するさ。

 

だが…必ず俺もそこに行ってやるぜ!




次の投稿は13:00の予定です。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。