side:ホーク
2ラウンド目が始まった。
大抵のパンチは気配で反応出来るんだが、デビッドのワンツーはその気配が薄くて反応がどうしても遅れちまう。
『飛燕』や他のパンチの気配が濃いから余計にな。
しかも俺の意識が攻勢に寄った瞬間にワンツーを打ってきやがるから避けきれねぇ。
上手いだけじゃなくて強い。
リングの上が楽しくて仕方ないぜ。
2ラウンド目が終わって3ラウンド目が始まる。
試合展開は中距離での戦いが中心だ。
そこからインファイトに持ち込みたい俺と、アウトボクシングで駆け引きを続けたいデビッドって感じの状態だな。
懐に飛び込んでもボディー以外のガードは固い。
ダメージを与えちゃいるんだが、後一歩のところでダウンが奪えない。
俺の方はワンツー以外はまだくらってねぇからそれほどダメージはねぇ。
そのワンツーも英二のを見て覚えたヘッドスリップを使って威力を殺してる。
だから大して効いちゃいねぇが、どうにも乗りきれねぇ感じだな。
そんな状況が続いて3ラウンド目が終わった。
さて…どうしたもんかね?
少し考えていると笑顔のミゲルが目に入った。
「ホーク、鷹村との試合を思い出してみなさい。」
「鷹村との試合?」
「そう、それがイーグル攻略の鍵になるよ。」
鷹村の試合ねぇ…?
あの試合の何が攻略の鍵なんだ?
あっ、そういえば初めて試合中にアドバイスをもらったな。
そう気付くとなんか可笑しくなってきたぜ。
「どうかしたかな?」
「いや、初めてアドバイスをもらったと思ってな。」
「君は手が掛からない優秀なボクサーだからね。セコンドは楽なものさ。」
ミゲルと一緒にダニーも笑ってやがる。
鷹村との試合か…さて、何が攻略の鍵なんだろうな?
◆
side:イーグル
「ここまでは上出来よ。して、消耗は?」
「問題無い。想定の範囲内だよ。」
ブライアンとのスパーリングから攻略案を練り、入念に準備を重ねてきた。
体力、精神双方の消耗は想定済み。
むしろ彼にパンチが当たる事で想像以上に高揚してしまっているので、オーバーペースにならない様に気を付けねばならない。
その事をダンがしっかり伝えてきてくれる。
頼もしい存在だ。
「奴の打たれ強さはどうだ?」
「ストレートがヘッドスリップで威力を殺されているから何とも言えない。」
「あれは厄介よのう。普通は伊達 英二の様に洞察でやる技術なのだが、奴は勘でやっておる。」
入念な準備をしたブライアンの攻略だが、その中で想定しきれなかった事が2つある。
1つは彼の打たれ強さだ。
プロのリングで一度も打たれなかった以上は想定出来ないのも仕方ない。
そして2つ目だが…それは彼のスピードだ。
鷹村との試合で見せたあのフットワークの速さ。
軽量級の選手をスパーリングパートナーとして雇いそのスピードに慣れはしたが…果たしてどこまで対応出来るだろうか?
「儂の勘だが、次のラウンドで来るぞ。覚悟をしておけ。」
ダンの言葉に頷く。
焦らず、慌てずに対応する。
そしてダンの教えの通りに身体は熱くとも心は静かに…それが僕のボクシングだ。
首筋に当てられた氷嚢で高揚した心が落ち着く。
準備は整った。
「セコンドアウト!」
場内アナウンスが響くとダンを含めたスタッフがリングから下りる。
さぁ、行こうか。
◆
side:宮田
ブライアンとイーグルの試合も3ラウンドが終わった。
インターバルに入ると鴨川ジムの皆がそれぞれ話を始める。
話題のほとんどはイーグルのワンツーだ。
「あのワンツーはやべぇな。鳥肌が立っちまったぜ。」
「初動がわからねぇのもそうだが、何よりも打つタイミングがすげぇぜ。」
青木さんと木村さんの会話に内心で頷く。
あのワンツーを打つタイミングは父さんも誉める程だ。
流石は世界チャンピオンだぜ。
チラリと目を向けると、幕ノ内がシャドーをしていた。
練習しているのは…ボディーブローか?
「小僧、ボディーブローで大事なのは肘の角度じゃ。」
「えっと、こうですか?」
「ちっ、おい一歩、そうじゃなくてこうだ。」
会長だけじゃなくて鷹村さんも加わっちまった。
この部屋は狭いのによくやるぜ。
「皆、そろそろ4ラウンド目が始まるよ。会長も落ち着いてください。」
八木さんの一声で皆が落ち着く。
流石に扱い慣れてるな。
そして始まった4ラウンド目、ブライアンが仕掛けた事で試合が動き始めたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。