目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


最終話『掴み取った栄光』

side:イーグル

 

 

ダウンから立ち上がったブライアンに攻め掛かる。

 

ここが僕に与えられた唯一の勝機だ。

 

それ故に全てを振り絞るつもりでパンチを打っていくが、まだダメージの残るブライアンにパンチが当たらない。

 

いや、正確にはクリーンヒットしないと言うべきか。

 

ブライアンはスウェーやダッキングだけでなく、ショルダーブロックやパーリングも使う様になった。

 

ショルダーブロックやパーリングは僕が主に使ってきた防御技術だ。

 

この状況で成長するとは…流石はブライアンだ。

 

パンチを一発打つ度にグローブに重みを感じる様になっていく。

 

いよいよ体力の底が見えてきた。

 

だが、諦める事は許されない。

 

それをしてしまっては、彼のライバルを名乗る資格は無い。

 

手を出し続けろデビッド。

 

試合終了のゴングが鳴るまで諦めるな。

 

たとえ絶望的な状況だろうと…勇気を振り絞れ!

 

追撃の一撃を入れられずに6ラウンド目が終わった。

 

外してしまいたい程にグローブが重い。

 

足が棒になった様に動かない。

 

きっと椅子に座ったら立ち上がれないだろう。

 

だから立ったままインターバルを過ごす。

 

スタッフが含ませてくれた水を一口だけ飲む。

 

あぁ…身体に染み渡る。

 

ほんの少しだけ力が戻った。

 

パンチを一回打つ分だけの力が。

 

ならば戦える。

 

7ラウンド目のゴングが鳴る直前、ダンが背中を押してくれた。

 

心強い。

 

僕は一人じゃないとわかり勇気が湧いてくる。

 

さぁ、行こう。

 

ブライアンが待っている。

 

ゴングが鳴り7ラウンド目が始まった。

 

足を引き摺る様にして前に進む。

 

ブライアンがリング中央で待っていた。

 

彼に敬意を示す様に左拳をゆっくりと前に出す。

 

ブライアンもゆっくりと左拳を前に出してきて、僕達のグローブが合わさる。

 

これがラストラウンド。

 

それがわかっているのだろう。

 

会場が静まりかえっている。

 

ガードを固めて一発を狙う。

 

僕に残されているのはパンチを一回打つ体力だけだ。

 

やれる事を…全力で!

 

ブライアンのパンチがきた。

 

右に、左に身体が振られる。

 

今にも意識を失いそうだ。

 

歯を食い縛り堪える。

 

まだだ!

 

意識を失うな!

 

全てを出し尽くせ!

 

…ここだ!

 

タイミングを合わせてジャブを打つ。

 

首を傾けて避けられた。

 

そこにストレート。

 

コークスクリューブローの影もあって捉えられる筈だった。

 

だがブライアンは身体を大きく後ろに逸らすスウェーで見事に避けてみせた。

 

完璧に僕の戦略の上をいってみせたんだ。

 

顔を跳ね上げられ意識が薄れていく。

 

そしてリングに倒れるとゴングが鳴り響いた。

 

その音を耳にした僕は、半分の満足と半分の悔しい気持ちの中で目を閉じたのだった。

 

 

 

 

side:ホーク

 

 

担架でデビッドが運ばれていく。

 

ショルダーブロックもパーリングも考えてやったわけじゃねぇ。

 

気付いたらやってた。

 

そこまで俺は…あいつに追い込まれたんだ。

 

そして最後のワンツー。

 

あいつがまだアマチュア時代の時に見た、完全に気配が無かったあのワンツーと同じものだった。

 

あれを見てなければ避けられなかった。

 

やっぱお前はすげぇよ…デビッド。

 

会場の皆がデビッドをスタンディングオベーションで送り出している。

 

そしてデビッドが会場の外に運び出されると、今度は俺に拍手の雨が降り注いできた。

 

胸を張りながら手を上げる。

 

拍手の雨が一層濃くなる。

 

やっぱりこの瞬間は堪らねぇな。

 

ベルトが巻かれ、リングの上で試合後のインタビューが始まろうとした時、真理がリングの上に上がってくる。

 

ここで俺達の婚約発表をするためだ。

 

こういったサプライズが出来るのが、アメリカの良いところだな。

 

リングに上がってきた真理を見ながら思う。

 

10ドル札を握り締めてホットドッグを頬張っていたスラム時代から、こうしてラスベガスという最高峰の舞台で皆に認められるまでに成り上がれた。

 

真理といういい女と恋人になれた。

 

全てはボクシングを始めたからだ。

 

ありがとうよ、ミゲル。

 

あんたのおかげで今の俺がある。

 

俺は腰に巻かれたベルトを外して、ミゲルの肩に掛ける。

 

しわくちゃの目に涙が浮かんでやがるぜ。

 

長生きしろよ。

 

あんたの肩に後4つはベルトを掛ける予定なんだからな。

 

真理を抱き寄せながら周りを見渡す。

 

歓声を上げたり指笛を吹く会場の皆。

 

そんな皆を囃し立てるダニー。

 

タオルで顔を覆っているミゲル。

 

そして…幸せそうに微笑んでいてくれている真理。

 

ありがとう。

 

感謝の想いを込めて拳を突き上げると、この日一番の拍手に包まれたのだった。

 

 

 

 

side:ホーク

 

 

デビッドとの世界戦から2ヶ月程経った。

 

色々と変わった事があるぜ。

 

先ずはあの試合の後から、俺の試合間隔が延びる事になった。

 

これまでは2ヶ月に一度のペースで試合をしてたんだが、これからは3ヶ月~5ヶ月に一度のペースに変更になった。

 

これは俺に対する研究が進めばデビッドとの試合の様に被弾が増えるであろう事と、婚約者である真理との時間を取る為だ。

 

日本なら仕事優先が当たり前かもしれねぇが、アメリカでは家庭優先が当たり前だ。

 

まぁ金には困ってねぇし、家庭優先のスケジュールでいいだろ。

 

他に変わった事と言えば…今日参加しているダニーの結婚式だな。

 

スラム時代からの友人であるあのダニーが家庭を持つ…か。

 

感慨深いものがあるぜ。

 

結婚式が進んでダニーの嫁さんがブーケを投げた。

 

そのブーケがすっぽりと真理の手に納まった。

 

「ふふ、次は私達の番…って事かしらね?」

 

そう言って真理は流し目を送ってくる。

 

「じゃあ、明日にでも式場を探しに行くか。」

「ドレスも決めないとね。」

 

ダニー達に負けないぐらい幸せそうに微笑む真理が、俺の肩に頭を預けてくる。

 

そんな俺達の所にミゲルがやって来た。

 

「ホーク、次の試合が決まったんだが…出直した方がいいかね?」

 

その物言いに真理と顔を見合わせると、二人して笑ってしまう。

 

そして…。

 

「問題ねぇよ、ミゲル。誰が相手だってぶっ倒してやるぜ!」




『目が覚めたらスラムでした』の本編はこれで終わりです。

山場が終わってしまい、これ以上は蛇足になると思ったのでここで完結にしました。

番外編として伊達vsリカルド、鷹村vsイーグルを書くつもりですが、投稿は7月を予定しています。

気長に待ってあげてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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