目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


外伝1話『伊達 英二の世界挑戦準備』

side:伊達 英二

 

 

世界ランク1位のアルフレド・ゴンザレスとの試合に勝ってから2ヶ月、俺は確定したリカルド・マルチネスとの世界タイトルマッチに向けて調整を始めた。

 

試合は半年後。

 

調整するには十分な時間だ。

 

ロードワークを始めとした練習で今の身体の状態を確認していく。

 

アルフレド・ゴンザレスとの試合のダメージを抜く為に大人しくしていたから、少しばかり身体が鈍ってんな。

 

1週間程の練習でかなり身体が解れたが、それでもヴォルグとのスパーリングでは少し圧されちまう。

 

本当にいいスパーリングパートナーだぜ。

 

ヴォルグはデビューから直ぐにA級賞金王トーナメントに出て危なげなく優勝した。

 

そして圧倒的な内容で日本タイトルも取り、今は東洋のタイトルに向けて調整をしているところだ。

 

ヴォルグが東洋を狙うのは…まぁ、俺がこけた時の保険だな。

 

そんなこんなで練習を再開してから1ヶ月、宮田と幕ノ内がうちのジムにやって来た。

 

「こんにちは。」

「こんにちは~。」

 

挨拶もそこそこに二人は着替えてアップを始める。

 

あの二人も随分とうちのジムに慣れたもんだ。

 

そんな慣れた二人…いや、正確には宮田を沖田が睨んでいる。

 

沖田が宮田を睨んでいる理由は、宮田が階級をジュニアライト級に上げたからだ。

 

西日本代表の千堂との試合を制して全日本新人王になった宮田は、そこで階級を1つ上げた。

 

どうも東日本新人王トーナメントをやっている時から減量がきつかったみたいだ。

 

鴨川ジムの面々で相談した結果、宮田の階級を1つ上げるのに合わせて、青木と木村も1つ階級を上げる事になったそうだ。

 

木村は元々減量がきつかったそうでこの話を歓迎した。

 

青木もライト級で半ば燻っていた形だから受け入れた。

 

そしてこの階級を上げたのが青木と木村にはまった。

 

階級を上げての初めての試合で二人はあっさりとKO勝ちをしたんだ。

 

俺も二人の試合のビデオを見たが、前の階級とは別人の様な身体のキレをしていた。

 

経験と環境がはまった二人は、これからブレイクしていくかもしれねぇな。

 

さて、今年のジュニアフェザー級全日本新人王になった幕ノ内なんだが、幕ノ内はしばらくは階級を上げずに続けていくつもりの様だ。

 

そして幕ノ内は今年のA級賞金王トーナメントに出ずに、1つずつ日本ランキングを上げて経験を積ませるってのが鴨川会長の考えだとオヤッサンから聞いた。

 

まぁ、ジュニアフェザーの連中には御愁傷様ってとこだな。

 

さて…。

 

「おう、宮田、鷹村はどうしてる?」

「ミドル級の世界タイトルマッチに向けて張り切っていますよ。」

「そうか。」

 

少し前にブライアンがスーパーミドル級に階級を上げた事で、ミドル級の世界王座が空いた。

 

そこで暫定王座を決める試合が組まれる事になったんだが、ここで鷹村が名乗りを上げたんだ。

 

ブライアンの後の世界王座とあって注目が集まっていたんだが、鷹村の評価は向こうで高かった事もあってあっさりと選考されたらしい。

 

相手はピーター・ラビットソンってボクサーだ。

 

かなり上手いボクサーだって話だが、今の鷹村なら問題ねぇだろ。

 

アップを終えた宮田が先ずリングに上がって俺とスパーリングをする。

 

無理な減量をしてないからか、宮田の動きのキレがいいな。

 

ジャブの差し合いを俺が制すると、宮田が足を使い出した。

 

速い。

 

現役の日本人ボクサーの中じゃ一番かもしれねぇな。

 

無理に追わずに待って迎撃していく。

 

1つ、2つとパンチを当てたところで宮田がリズムを変えてくる。

 

随分と引き出しが増えたもんだ。

 

まぁ、そうこなくちゃ面白くねぇ。

 

見える様に拳を握り込んで挑発すると、宮田もそれに応えてきたのだった。

 

 

 

 

side:幕ノ内 一歩

 

 

「うわっ、二人とも拳を握り込んでますよ!大丈夫ですかね、ヴォルグさん?」

「大丈夫だよ、幕ノ内。エージはまだ加減をしてるから。」

 

宮田くんを圧倒していても手加減をしてるなんて…やっぱり伊達さんは凄いなぁ。

 

でも、その伊達さんについていけるヴォルグさんも凄い。

 

流石は元アマチュアボクシングの世界チャンピオンだなぁ。

 

階級が違って本当によかった。

 

「宮田が仕掛けるみたいだね。」

 

ヴォルグさんの言う通りに宮田くんが仕掛けた。

 

多分、宮田くんはカウンターを狙っている。

 

でも伊達さんが上手く誘ったみたいで逆に宮田くんがカウンターを当てられた。

 

膝をついてダウンをした宮田くんは悔しそうにリングを叩いている。

 

「ヴォルグさんなら今の場面、どうしました?」

「ボディーストレートで宮田のリズムを崩しにいったかな?その方が後が楽になるから。でもエージは宮田をムキにさせる事を選んだみたい。」

 

あっ、本当に宮田くんがムキになってる。

 

「宮田くん!落ち着いて!」

 

僕の声が届いたのか、宮田くんは大きく深呼吸をして間を取った。

 

うわっ、伊達さんに睨まれた。

 

す、すみません!

 

何度も頭を下げていると、そんな僕を見たヴォルグさんは苦笑いをしたのだった。

 

 

 

 

リカルド・マルチネスとの世界タイトルも明日に迫った。

 

前日計量を終えて共同記者会見が始まる。

 

「チャンピオンには感謝している。日本にベルトを持ってきてくれたんだからな。」

 

俺の挑発を受けたリカルド・マルチネスが立ち上がる。

 

そして…。

 

「彼には何も期待しない方がいい。」

 

…上等だ。

 

明日が楽しみだぜ。




本日は6話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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