目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


外伝3話『英雄は伊達を挑戦者と認める』

side:伊達 英二

 

 

ゴングが鳴り、リング中央でリカルド・マルチネスとグローブを合わせる。

 

先ずは挨拶代わりとばかりにジャブを打つ。

 

避けずにガードされた。

 

ジャブの威力、俺の距離感等の情報を取られたと感じる。

 

2発、3発と続けたところでジャブを右手で外に弾かれた。

 

そしてリカルドのジャブが来る。

 

予備動作がほとんどわからない完璧なモーション。

 

急に奴のグローブが大きくなった様に感じるパンチだ。

 

1発目は右手一本でガード。

 

2発目は両手でガードして奴のパンチを学んでいく。

 

ジャブ1つをとっても、フェザー級では滅多に御目に掛かれない威力でありながら、フェザー級でもトップクラスのハンドスピードがありやがる。

 

流石は生きる伝説と言われるだけあるぜ。

 

3発目は俺がされた様に奴のジャブを外に弾いてジャブを返す。

 

奴がガードせずに避けた事でジャブの差し合いが始まった。

 

ステップ、スウェー、ダッキング、ヘッドスリップと出し惜しみをせずに、奴のパンチを避けていく。

 

俺のパンチも奴に避けられていく。

 

1分を経過したところでお互いに一度離れた。

 

1呼吸の間で情報を整理していく。

 

(威力や速さは問題ねぇ。だが、やっぱり思ったよりもパンチが伸びてくるのがやっかいだな。どうしても距離感がぼやけちまう。さて、どうすっかな?)

 

タイミングを合わせた様にお互いに踏み込んでジャブの差し合いが再開される。

 

そこでヘッドスリップの顔の戻り際を狙われた。

 

咄嗟にグローブを差し込んで直撃を避ける。

 

それはブライアンやヴォルグに散々やられたからな。

 

対応出来るぜ。

 

直撃は受けなかったが、一歩下がって体勢を立て直す。

 

だがリカルド・マルチネスはそれを許さないとばかりに一歩踏み込んできた。

 

下がった俺と踏み込んできた奴の体勢にはハッキリとした優劣がある。

 

ちっ、流石に強かだぜ。

 

無理にその場に踏み留まったら、奴に有利な状況で攻防が始まる。

 

かといって退いたら流れをもってかれるか…。

 

即断。

 

俺は退いて体勢を整える事に決めた。

 

あっという間にコーナーに追い込まれたが、これは想定内だ。

 

慌てる必要はない。

 

定石ならフックを引っかけてコーナーを脱出だが、そんな事は相手もわかってる。

 

さぁ、どうくる?

 

探る意図でジャブを打つ。

 

奴は俺のジャブを弾きながら踏み込んできた。

 

…来る!

 

マウスピースを噛み締めた俺のボディーに、リカルド・マルチネスのパンチが突き刺さったのだった。

 

 

 

 

side:リカルド・マルチネス

 

 

手応えあり。

 

コーナーに追い込んだ彼のボディーに深々とパンチを突き刺せた。

 

幾人ものボクサーが私のボディーブローで倒れたのだ。

 

これで君がダウンをしても恥ではない。

 

そう思った直後、彼は反撃のボディーブローを打ってきた。

 

「むっ!?」

 

これで倒れる程、私の腹筋は柔ではないが、驚きで思考が一瞬硬直してしまう。

 

そこに彼は左フックと右アッパーを放ってきた。

 

左フックはヘッドスリップで流せたが、右アッパーはクリーンヒットされてしまう。

 

1秒に満たない間だが彼の姿を見失ってしまった。

 

その間に彼は悠々とコーナーを脱出していた。

 

…なるほど。

 

共同記者会見での言葉は訂正しよう。

 

エイジ・ダテ…君は戦うに相応しい相手の様だ。

 

いつしか作業と化していた防衛戦。

 

君が相手ならかつての自分に戻るのもいいだろう。

 

エイジ・ダテ。

 

私は君を敵と認めよう。

 

全力を出すのに相応しい敵とね。

 

 

 

 

side:伊達 英二

 

 

1ラウンド目が終わってコーナーに戻る。

 

椅子に座ると大きく息を吐いた。

 

「かぁ~、危なかったぜ。」

「コーナーに追い込まれた時はヒヤヒヤしたぞ。」

「でもエージは冷静だったね。ボディーに一発もらうのと引き換えにしっかりとコーナーを脱出した。」

「大して堪えた様子はなかったがな。それに、次はこう上手くはいかねぇさ。」

 

オヤッサンとヴォルグは俺の言葉に頷く。

 

二人も今のラウンドでわかったんだ。

 

リカルド・マルチネスがバケモノだってな。

 

今のラウンドもホームだからポイントは取れただろうが、そうじゃなきゃ向こうに取られてた。

 

しんどい試合だぜ。

 

「それで、どうすんだ英二?」

「たっぷり時間をかけなきゃ無理だろうな。それまで俺が持つかはわからねぇが。」

「おいおい、弱気になってんのか?」

「冗談だろ、オヤッサン。やりがいがあるって言ってんのさ。」

 

フェザー級で戦ってきた相手の中では間違いなく最強の相手だ。

 

カッコつけがいがある。

 

愛子と雄二の前でカッコつけるかいがな。

 

『セコンドアウト』

 

立ち上がってリカルド・マルチネスに目を向けると、1ラウンド目とは雰囲気が違っている。

 

まだまだ引き出しはあるか。

 

流石だぜ。

 

だがな世界チャンピオン。

 

オッサンを舐めるなよ。

 

お前さんは英雄として国を背負ってんのかもしれねぇが、俺は家族を背負ってんだ。

 

その重みは種類は違うだろうが、貴賤はねぇって教えてやるぜ!




次の投稿は13:00の予定です。

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