目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


外伝5話『敢闘と再会の約束』

side:伊達 英二

 

 

リカルド・マルチネスにハートブレイクショットからの左フックを決めてダウンを奪うと、会場はお祭り騒ぎになった。

 

これで決まれば楽なんだが…。

 

「まぁ、そうはいかねぇよな。」

 

カウント7で立ってきたリカルド・マルチネスを観察する。

 

膝が震えているのを見るにダメージは伺える。

 

だが積み重ねのダメージじゃねぇからな。

 

ラウンドを跨いだら回復されるだろうよ。

 

ホームのアドバンテージを考えてもポイントじゃ負けている。

 

1ラウンド目とこのラウンドは取れただろうが…判定までいったら負けるな。

 

つまり俺にはKO勝ちしか、勝つ方法は残ってねぇわけだ。

 

わかりやすくていい。

 

まぁ、それが一番難しいんだけどな。

 

レフェリーが試合再開を告げてリング中央から離れる。

 

それを見た俺は大きく息を吸い込んで踏み込むのだった。

 

 

 

 

side:伊達 英二

 

 

ダメージを負ったリカルド・マルチネスを仕止めきれず、試合は最終ラウンドまで進んだ。

 

9ラウンドで2回、そして最終ラウンドの今もダウンを1回奪われた。

 

奴のパンチで積み重なったダメージで身体が重い。

 

このまま目を瞑ってしまいたい誘惑に負けそうになる。

 

だが…。

 

「パパぁ!」

 

ここで意地を張らなきゃ男じゃねぇだろ!

 

ロープを使って身体を持ち上げる様にして立ち上がる。

 

ファイティングポーズを取るが、レフェリーが俺の顔を覗き込んでくる。

 

「『後少し、意地を張らせてくれ。』」

 

英語でそう言うと、レフェリーは俺の前から退く。

 

「ファイト!」

 

試合が再開されるとリカルド・マルチネスが突っ込んできた。

 

まだそれだけ動けるのかよ。

 

まぁ、こっちはほとんど動けねぇからな。

 

そっちから来てくれるのは助かるぜ。

 

右を捻って溜めを作る。

 

奴は気づいて顔と胸のガードを固めやがった。

 

だろうな。

 

そうするのはわかってたぜ。

 

だから…俺の狙いはそのガラ空きのボディーだ!

 

俺の右がボディーに突き刺さると、奴の動きが止まった。

 

ここだ!

 

残りの体力全てを注ぎ込む覚悟でラッシュを掛ける。

 

1つ、2つ、3つと打ったところで、奴が打ち返してきた。

 

退くかよ!

 

歯を食い縛って打ち続ける。

 

互いにパンチで相手の顔を弾いていくが、次第に俺が圧されコーナーに追い込まれていく。

 

意識が飛び飛びになり、少しずつ瞼が重くなる。

 

そんな時にリカルド・マルチネスの右拳が捻られているのが目に映った。

 

考えたわけじゃない。

 

だが、俺は自然とブライアンの動きを真似していた。

 

左手でロープを掴み後ろに倒れない様にして、身体を後ろに大きく逸らす。

 

そして奴のコークスクリューブローを避けると、勘で右を大きく振り上げた。

 

…右拳に確かな手応え。

 

奴の膝から力が抜けている。

 

後一発打ち込めば、それで奴は倒れる。

 

身体を起こした俺はパンチを打つ為に踏み込もうとする。

 

だがレフェリーに止められた。

 

なんだ?

 

何故止める?

 

奴はまだ倒れてねぇぞ。

 

「『伊達、試合は終わった!試合終了のゴングが鳴ったんだ!』」

 

意識が飛びかけていたから直ぐには理解出来なかった。

 

だが、両陣営のスタッフがリングに入ってきた事で漸く理解出来た。

 

あぁ、そうか…終わっちまったのか…。

 

一気に身体から力が抜ける。

 

リングに倒れそうになる。

 

だが…。

 

「エージ、ナイスファイトだよ。」

 

ヴォルグに支えられた。

 

思考が回らない俺の頭に、オヤッサンが水を掛ける。

 

少しシャキッとした。

 

口を開けて水を貰う。

 

一口、二口と飲み込んで漸く一息つけた。

 

「ありがとよ、ヴォルグ。」

 

支えてくれたヴォルグに礼を言ってから自分の力で立つ。

 

まだ判定が残っている。

 

結果はわかっちゃいるが…。

 

会場を見渡すと拍手が降り注いでいた。

 

…そうだよな。

 

胸を張って判定を聞こう。

 

どうやら決まった様だ。

 

判定が読み上げられていく。

 

結果は…0ー2で俺の負けだ。

 

判定の1つが引き分けなのはホームだからだ。

 

試合後のセレモニーが始まって奴の腰にベルトが巻かれた。

 

静まり返っている会場の中で俺が拍手を送る。

 

すると会場中から拍手が沸き起こる。

 

そんな中で奴は俺に手を差し出してきた。

 

握手を交わすと…。

 

「『see you again.エイジ・ダテ。』」

 

そう言って奴は会場を去っていく。

 

「…あぁ、また会おうぜ、リカルド・マルチネス。」

 

 

 

 

メキシコの英雄にしてWBAフェザー級の絶対王者であるリカルド・マルチネスは、帰国後の記者のインタビューに次の様に答えた。

 

『私は日本で偉大なボクサーと出会えた。』

 

『好敵手は誰かと問われたら、私は必ず彼の名を答える。』

 

『エイジ・ダテ。』

 

『また彼と戦える機会があるのならば、私は二つ返事で了承するだろう。』




次の投稿は17:00の予定です。

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