side:鷹村
6ヶ月後にデビッド・イーグルとの防衛戦がラスベガスで開催される事が決まった。
日本のプロボクシング協会が日本開催を主張したんだが、ファイトマネーが文字通りに桁違いなんでどうしようもなかったみてぇだ。
それからはお偉いさんがうちのジムに来て、『神聖なボクシングの試合で~』云々と何度も俺に説教を垂れてきていたんだが、兄貴がコネを使って圧力を掛けてからは全く来なくなりやがった。
おかげで練習に集中出来る様になったぜ。
この試合に掛かっているのはベルトだけじゃねぇ。
スーパーミドル級に階級を上げた後の、ブライアン・ホークへの挑戦内定も掛かっているんだ。
嫌でも練習に熱が入るってもんだ。
「小さく!鋭く!そしてパンチの戻しを意識せぇ!」
ジジイの指導通りに身体を動かし、身体を作り上げながらウェイトを絞っていく。
正直に言ってミドル級の減量はもうギリギリだ。
次の防衛戦が終われば階級を上げるとわかってるからやれるが、そうでなきゃ試合に辿り着けてもモチベーションとコンディションがちぐはぐになってただろうな。
「スパーリングじゃ!」
俺のスパーリング相手をする連中が五人ズラリと並ぶ。
世界タイトルの為に手伝うって体裁だが、本音は兄貴が用意した高額のスパーリング料が目当てだろうな。
一人、二人とスパーリングを続けていくが、ハッキリ言って相手にはならねぇ。
ミドル級の日本ランカーもいたがそいつも同じだ。
だが一人だけまともな奴がいた。
スパーリングの3ラウンドを一度もダウンせずに、俺と戦い抜きやがった。
「八木ちゃん、あいつは?」
「彼は兵藤くん。21歳の大学生で、今年のアマチュアボクシング世界選手権で銀メダルを取って一躍有名になったんだ。次回のオリンピックメダル候補として期待されているんだけど、大学卒業後はプロ転進を表明しているね。それでうちでも声を掛けていたんだけど、その縁で今日来てくれたという訳だよ。」
アマチュアボクサーか…たしかイーグルの奴もアマ出身だったよな?
兵藤の奴がこっちに来て頭を下げた。
「世界チャンピオンのボクシング…勉強させてもらいました!」
「おう。」
ジッと俺の目を見据えてくる。
「自分はアマチュアボクシングはプロボクシングにも劣らないと証明する為、アマチュアボクシングに一生を捧げるつもりでした。でも、貴方とブライアン・ホークの世界タイトルマッチを見て、プロに転進する決心をしました。」
「…そうかよ。」
あの試合からうちのジムには練習生が随分と増えて活気が良くなったが、俺達の練習量を見てプロになろうっていう骨のある奴はいなかった。
こいつはどうだ?
「ジジイの扱きは厳しいぜ?」
「望むところです。あの時に貴方が見せたボクシングを身につけられるなら、どんな扱きにだって耐えてみせます。」
「…そうかよ。」
どうやらこいつは骨がありそうだ。
「今からロードに行くが、一緒に来るか?」
「はい!」
ウインドブレーカーを着込んでタオルを首に巻く。
「ジジイ!兵藤とロードに行ってくるぞ!」
「オーバーワークにならんよう気をつけるんじゃぞ!」
「わかってらぁ!」
兵藤を連れてロードに行く。
ダッシュをしても遅れずにしっかりとついてきやがった。
そんな兵藤の姿に笑みを深め、俺は更にペースを上げるのだった、
本日は6話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。