side:デビッド・イーグル
鷹村とのミドル級世界タイトルマッチまで残すところ3ヶ月だ。
この一戦には世界チャンピオンベルトだけでなく、スーパーミドル級で待っているブライアンへの挑戦内定もかかっている。
全ての試合がそうだが、なおのこと負けられない一戦だ。
鷹村の試合のビデオは全て取り寄せて研究した。
彼のボクシングはブライアンとの一戦以来、そのファイトスタイルに変化がある。
以前のままの彼ならブライアン対策がそのまま通じただろうが、今の彼はまるで別人だ。
だが今の彼のボクシングの方が僕のファイトスタイルと噛み合うので問題はない。
問題があるとすれば…噛み合い過ぎる事だ。
「デビッド!ワンツー!」
ダンが構えるミットにワンツーを放つ。
ブライアンから初のダウンを奪った事で身に付いた自信が、僕のボクシングを一つ高みに導いた。
今度はダンが構えるミットに飛燕からコークスクリューブローに繋げる。
続けてフック、アッパーとパンチの一つ一つを確認していく。
…いい感じだ。
減量は順調に進んでいる。
この調子でいけば試合当日に、コンディションとモチベーションをベストに持っていけるだろう。
不意にジムが騒がしくなった。
「来たぜ、デビッド。」
なるほど、ブライアンが来たのなら騒がしくなるのも仕方がない。
「スパーリングパートナーを引き受けてくれて感謝するよ、ブライアン。」
「気にすんな。真理もお前を取材出来るって喜んでるからよ。」
彼の後ろから手帳を片手に真理が姿を見せる。
今やボクシングジャーナリストとして名を広めつつある彼女の見識は、間違いなく僕のボクシングを高める役に立つ。
こうして友人達に支えられる事で僕は万全の準備が出来るんだ。
鷹村…ベガスで会おう。
◆
side:鷹村
前日計量が終わって共同記者会見だ。
兄貴が雇った通訳が俺に英語を訳してくる。
ジジイは若い頃にアメリカにいた事があるから英語がわかるそうだ。
「『鷹村は世界チャンピオンに相応しいボクサーだ。だからこそ明日の試合、僕は全力を尽くして勝利を掴み取る事を約束しよう。』」
気障な台詞だが、奴が言うと妙に様になりやがる。
ジジイに脇腹を小突かれると、俺にマイクを向けられている事に気付いた。
さて…どうすっかな?
◆
side:伊達
「よう、鷹村。」
鷹村のデビッドとの世界防衛戦当日、控え室を訪ねると鷹を模したガウンを着た鷹村の姿が目に入った。
「わざわざアメリカまで応援に来るなんて暇してるな、伊達のおっさん。」
「試合が近いんでな。ブライアンとスパーリングをしようと思ってアメリカにきたついでさ。まぁ、いくら世界タイトルマッチとはいえ、仕事がある宮田や幕ノ内達をアメリカまで連れてこれねぇだろ?だからこうして激励をしにきてやったんじゃねぇか。」
鷹村は俺にジト目を向けてくる。
「今日の試合を見に来るブライアン・ホークに便乗したんじゃねぇか?」
「ばれたか。」
ブライアンが認めるボクサーである鷹村とデビッドのカードは、今のボクシング界では最高に注目されるカードの一つだ。
宮田達も見に来れなくて悔しがっているだろうな。
「あっ、鴨川会長、遅くなりましたが三人ともに日本タイトル獲得おめでとうございます。」
「うむ。」
3ヶ月前に宮田、木村、青木の三人が日本タイトルに挑戦したんだが、全員が見事にKO勝ちで日本タイトルを獲得した。
おやっさんの話では宮田は直ぐに東洋タイトルを目指すが、木村と青木は数戦は防衛するらしいな。
「2ヶ月後には幕ノ内も日本タイトルに挑戦ですし、鴨川ジムは随分と活気づいていますね。」
「小僧の相手は医者の卵という異色のボクサーが相手じゃ。決して楽観は出来んわい。」
真田は鴨川会長が言う通りに異色のボクサーだ。
日本タイトル初防衛戦はあっさりとこけちまったが、その後は医者の卵としての観察力で相手の状態を正確に見抜き、人体の弱点へ無駄なくパンチを当ててKOを量産していっている。
幕ノ内も苦戦するかもしれねぇな。
「まぁ、今は小僧の事よりも今日の試合じゃ。」
その後、話もそこそこに俺は控え室を後にしたのだった。
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