目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です。


外伝・ライバル編:第4話『鷹村の一撃とイーグルの戦略』

side:鷹村

 

 

「鷹村、貴様の狙いはおそらくばれとるだろう。」

 

1ラウンド目が終わりコーナーに戻ると、いきなりジジイがそう言ってきやがった。

 

「マジか?じゃあ止めた方がいいか?」

「いや、貴様の狙いは間違っておらん。飛燕に慣れるまでに一方的にダメージを受けては、反撃も覚束無くなるじゃろう。ならばその間に一手を打って向こうにもダメージを与える必要がある。」

「けどばれてんだろ?」

「うむ、そこで貴様の狙いにもう一手を加えるんじゃ。」

 

首を傾げるとジジイがニヤリと笑う。

 

「まだプロデビューをする前の小僧と宮田のスパーリングは覚えとるか?」

「あぁ、覚えてるぜ。」

「うむ、そのスパーリングで小僧が放ったショートアッパー…あれを使え。」

 

俺はジジイの言葉で一歩の右ショートアッパーを思い出す。

 

当たりはしなかったが、当たっていれば間違いなく宮田相手に逆転KOしてただろうな。

 

イメージを固めながら右を握り締める。

 

「クロスレンジでは正確に顔を狙えんじゃろう。だが、貴様の当て勘ならいけるわい。」

 

ジジイにそう言われると悪い気はしねぇな。

 

そう思ってると場内アナウンスが流れてジジイがリングを下りる。

 

「行ってこい。貴様以外の日本人ボクサーに奴は倒せん。」

 

…ったく、いつの間におだてられる様になりやがったんだ?

 

まぁ、いいか。

 

ジジイのその言葉…証明してきてやるぜ!

 

 

 

 

side:イーグル

 

 

2ラウンド目が始まると、鷹村は先のラウンドと同じ様に距離を詰めようとしてくる。

 

そこを飛燕を軸に丁寧に叩いていく。

 

顔の左半分…彼の目を狙って。

 

煩わしそうに顔を振りながら、彼は更に距離を詰めようとしてくる。

 

リングを円く使い彼に距離を詰めさせない。

 

そうやって彼を振り回し4ラウンド目に入ると、不意に彼の右ストレートが飛んできた。

 

ブライアンのパンチを経験していなければ、その風圧に身体が硬直していたかもしれない。

 

僅かに体勢を崩した彼を咎める様にワンツーを放つと彼がぐらつく。

 

そこから彼は更に左アッパーを放ってきた。

 

そして自身のパンチの勢いに負けたのか、ふらついた彼は僕に身体を預ける様にして倒れてくる。

 

…しまった!

 

僕は咄嗟にマウスピースを噛み締めて腹に力を入れる。

 

その刹那…。

 

ドスンッ!

 

彼の肩が僕に触れかねない程のクロスレンジで、信じられない威力のボディーブローがきた。

 

そして次の瞬間…天井のライトを見上げるとリングに膝をついてしまった。

 

「ダウン!」

 

レフェリーの声が耳に入る。

 

ダウン?

 

僕はどんなパンチを貰ったんだ?

 

「イーグル!右のショートアッパーだ!落ち着いて休め!」

 

ダンの声が届く。

 

そうか…僕は右のショートアッパーでダウンしたのか。

 

深呼吸をして状況を確認する。

 

膝が震えている。

 

だが立ち上がるのは問題ない。

 

レフェリーのカウントが進む中でシミュレーションをしていく。

 

カウント8で立ち上がりファイティングポーズを取った。

 

「イーグル、行けるか?」

 

レフェリーの声に頷きつつ、鷹村に目を向ける。

 

1ラウンド目から積み上げた戦略が身を結び、彼の右目はふさがりつつある。

 

そしてこの程度のピンチはブライアン対策の練習で常に想定してあるから問題ない。

 

レフェリーが試合を再開すると鷹村が力強く踏み込んでくる。

 

ここをしのげば…勝利は一気に僕に近付く!

 

その気持ちを胸に僕は全力を尽くすのだった。

 

 

 

 

「八木ちゃん!氷じゃ!」

 

4ラウンド目が終わりコーナーに戻ってきた鷹村の右目を冷やしながら、儂は悔しさに歯を噛み締める。

 

イーグルの狙いは最初から鷹村の距離感を奪う事じゃった。

 

それにもっと早く気付いておればと後悔するばかりじゃ。

 

まだ完全に右目の視界が塞がったわけではない。

 

だが既に距離感には僅かにずれが出ておる。

 

もし鷹村の距離感がずれておらねば、先程の4ラウンドの追撃で更にダウンを…上手くいけばそのまま勝利する事だって出来たかもしれぬ…口惜しいわい。

 

悔しさを飲み込む様に大きく深呼吸をする。

 

そして儂は開いている鷹村の左目と目を合わせて話す。

 

「鷹村、危険だと判断したらタオルを投げ込む。」

 

重量級のボクサーのパンチは優に人を殺せる。

 

この先、右目が完全に塞がればそのパンチを無防備にくらってしまう。

 

「…そうかよ。」

「儂を恨んでくれて構わん。罵倒してくれて構わん。じゃが…。」

「おい、ジジイ。」

 

そう言って鷹村はグローブで儂の顔を挟み込む。

 

そして…。

 

「まだ試合は終わってねぇだろうが!」

 

…そうじゃった。

 

まだ若い鷹村に気付かされるとは…儂もまだまだ未熟者よな…。

 

「…水を差してすまんかった。」

「気にすんな。ジジイに心配を掛ける様な試合をした俺が悪いんだからな。」

 

こやつは本当に変わりよった。

 

儂も変わっていかねばならん。

 

こやつと共に世界と戦っていく為に…。

 

その後、鷹村は距離感を失いつつも5ラウンド目は見事にイーグルと渡り合ってみせた。

 

だが6ラウンド目にイーグルのコークスクリューブローを受けて一度目のダウンをしてしまう。

 

そして7ラウンド目に更に二度のダウンをすると、儂はリングにタオルを投げ込んだのだった。




次の投稿は15:00の予定です

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