目が覚めたらスラムでした   作:ネコガミ

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本日投稿6話目です。


外伝・ライバル編:最終話『ステーキハウスに響く笑い声』

世界タイトルマッチから一週間、鷹村はまだアメリカにいた。

 

試合後直ぐに病院に向かい精密検査を受けていたからだ。

 

そんな鷹村はとある人物から招待を受け、ニューヨークのとあるステーキハウスに向かって移動している。

 

「ここか?」

「運転手が間違えておらねばな。」

 

鴨川の言葉に鷹村は首を傾げる。

 

小洒落てはいるが、一見すると何億も稼いでいる男が行くような超高級な店には見えなかったからだ。

 

「まぁ、いいか。入ろうぜ、ジジイ。」

「うむ。」

 

扉を押し開けると来客を告げる古めかしいベルの音が鳴り響く。

 

すると…。

 

「よう、鷹村。遅かったじゃねぇか。」

 

何故か伊達が出迎えた。

 

「なんで伊達のおっさんがいるんだよ?」

「俺も招待されたからに決まってんだろ。ほら、主催者が待ってるから早く中に入れよ。」

 

少しイラっとしたが、鷹村は伊達の案内で店の中に進む。

 

そして店の中に招待状の送り主である、ブライアン・ホークの姿を見付けた。

 

片手を上げるホークに鷹村は鼻を一つ鳴らしてから席に座る。

 

「おいデビッド、どうやら鷹村はまだお前に負けた事を根に持ってるみたいだぜ。」

「そうかな?僕には病院食に飽々して臍を曲げている様に見えるよ。」

 

そうやって楽しそうに談笑しているホークとイーグルの姿を見て鷹村が頭を抱えると、伊達が肩を叩く。

 

「リングを下りれば後腐れなく過ごす。さっぱりしていていいだろ?」

「…おっさんは随分と慣れてるみてぇだな。」

「二人とは何度もスパーリングをしているからな。」

 

そう言って笑う伊達に鷹村はコメカミに青筋を立てる。

 

「てめぇ!裏切者か!」

「妬くな妬くな。日本じゃ中々いいスパーリングパートナーが見つからねぇからってよ。」

 

図星をつかれた鷹村は押し黙ってしまう。

 

だが今の鴨川ジムにはいいスパーリングパートナーがいる。

 

それで溜飲を下げた鷹村は口角を上げた。

 

「鷹村、儂は向こうで飲む。貴様に体調管理の事を今更言うまでも無いじゃろう。今日はゆっくりと楽しめ。」

 

そう言って鴨川が向かう先には浜 団吉とミゲル・ゼール、そして身体が大きい老人の姿がある。

 

「ジジイはジジイ達で飲むってか?」

「俺の嫁さんも向こうで楽しんでるぜ。」

「あん?」

 

鷹村が目を向けるとそこには伊達の妻である愛子、ホークの婚約者である真理、そしてイーグルの婚約者であるメアリーの姿があった。

 

「こっちじゃあ、パーティで家族を招待ってのは当たり前だからな。」

「…そうかよ。」

 

ホークの言葉に鷹村は鼻を鳴らす。

 

「それじゃ始めるか。今日は店を貸し切ってある。俺の奢りだから思いっきり楽しんでくれ。」

 

こうしてホークの音頭でパーティは始まったのだった。

 

 

 

 

ステーキハウスの一角で酒を口にしていた鴨川は、団吉に問い掛ける。

 

「初めから狙っておったのか?」

「無論だ。」

「何を根拠に?」

 

団吉は酒で喉を潤してから答える。

 

「儂とイーグルは、貴様のボクサーと真っ向から打ち合うのは危険だという認識で一致した。そこでアドバンテージを得る手段として目を狙ったのだ。」

「…そうか。」

 

鴨川は悔しそうにグラスを干す。

 

「負けてはしまったが鷹村は素晴らしいボクサーだ。流石は鴨川の教え子だな。」

 

そう言葉を発するのは、若き日の鴨川と死闘を繰り広げたラルフ・アンダーソン元軍曹である。

 

「アンダーソンからそう言われたのならば悪い気はせんわい。」

「なんじゃ、ラルフ。儂のボクサーには何かないのか?」

「アメリカ国民の私がイーグルを今更評価しろと?彼はオリンピックで金メダルを取ったその日からアメリカの英雄として成功が約束されていた。もっともあの若き英雄は安穏とした王座よりも、ライバルの背を追うことに生き甲斐を見付けている。見事なフロンティアスピリットだよ。」

 

アンダーソンはそう言いながら水を口にする。

 

「やはり酒は飲まんのか?」

「あぁ、君達との試合でボクサーの誇りを取り戻した事を忘れたくなくてね。もっとも、忘れたくともあの時の君のボディーブローは忘れられるものじゃない。」

「一撃で肋骨を砕く馬鹿げた拳じゃったからな。」

「団吉、馬鹿げたとはなんじゃい。」

 

不満な顔をする鴨川を見てミゲルがクスクスと笑う。

 

そしてボクシングの事となれば話題に事欠かない老人達の会話は弾んでいく。

 

そんな老人達とは離れたところで女性達も会話に花を咲かせていた。

 

「じゃあ、マリの結婚式は3ヵ月後の防衛戦が終わった後なのね?」

「えぇ、そうよ。メアリーはどうなの?」

「私達の結婚式は二ヶ月後の予定よ。デビッドはしばらくメディア露出で忙しいから。」

 

イーグルの婚約者であるメアリーとホークの婚約者である飯村 真理が幸せそうな顔で話している。

 

その二人の様子を愛子が微笑ましそうに眺める。

 

「そういえば、愛子さんの時はどうだったのかしら?」

「私達の時は身内だけで済ませたわ。昔から英二さんはボクシングに夢中なやんちゃ少年って感じで、堅苦しいのは嫌いだったから。」

「ボクシングに夢中なのはデビッドも変わらないわ。」

「ブライアンもそうよ。」

「ふふ、そういうところが男の人の可愛いところよね。」

 

少し離れたところで三人が同時にくしゃみをしたが、それに気付いた彼女達は笑ってしまう。

 

「マリ、貴女のところでは子供はもう考えてるの?」

「まだ考えてないわ。まぁ、いつ出来てもおかしくはないのだけど…。」

「ワォ、ブライアンはそっちも世界チャンピオンなのね。」

 

アルコールが入って舌が軽くなったのか彼女達の間でそんな話題も飛び出す中、男達はステーキに舌鼓を打っている。

 

「美味しい!」

「日本のとは違って肉厚だから食い応えあるだろ?」

「うん!ねぇ、ブライアンはいつもここでステーキを食べてるの?」

「あぁ、十歳の頃からだいたいここで食ってるな。」

 

伊達の息子と歓談しながらステーキを食べるブライアンを横目に、鷹村もステーキを口に運ぶ。

 

「おいおい鷹村、減量明けでそんなに食って大丈夫か?」

「問題ねぇよ、おっさん。」

「若ぇなぁ。」

 

伊達はステーキをそこそこにサラダを口に運ぶ。

 

「それで、入院中にたっぷり試合を振り返ったんだろ?」

「…まぁな。」

 

鷹村がそう返事を返すと、イーグルが興味を持った。

 

「タカムラ、君の目には僕のボクシングはどう映ったんだい?」

「…めんどくせぇボクシングだったぜ。」

「ハッハッハッ!そいつは最高の誉め言葉だな!」

 

笑う伊達を気にせず鷹村はイーグルに問い返す。

 

「そういうテメェは俺のボクシングをどう思ったんだよ?」

「基本に忠実。だけど駆け引きには慣れていない様に感じた。」

 

鷹村は世界に舞台を移すまで、駆け引きを必要としないぐらい圧倒的な力の差がある選手との試合が多かった。

 

故に経験不足の鷹村は、世界トップクラスの相手との緻密な駆け引きでは後れを取ってしまう。

 

だが言い換えれば成長途上でもあるのだ。

 

しかし鷹村はどこかで何かが噛み合わないと感じている。

 

「ブライアン、お前は鷹村のボクシングどう思う?」

 

伊達が話題を振るとホークに注目が集まった。

 

「あ~…なんていうか、合ってねぇんじゃねぇかと思うぜ。」

「合ってねぇってのは、基本に忠実なボクシングがか?」

「いや、そうじゃねぇ。なんて言えばいいんだろうな?」

 

頭を掻きながら天井を見上げたホークは言葉を探す。

 

「あぁ、そうか。今はインファイターとかアウトボクサーじゃなくてボクサータイプが流行ってるよな?」

「確かになんでも出来る器用なボクサータイプが求められてるのが現状だな。」

「それってよ、相手に合わせてボクシングを変える為だろ?それが合ってねぇんじゃねぇかと思うんだ。」

 

理解を示して伊達は続きを促す。

 

「なるほどな。でもよ、相手に合わせねぇならどんなボクシングをするんだ?」

「『打たれる前に打つ』ってのはどうだ?これなら相手に合わせる必要はねぇ。」

 

その言葉に伊達はプッと吹き出す。

 

「自分を押し付けてねじ伏せるボクシングか。確かにそういったボクシングもあるわなぁ。」

 

笑いながらも伊達はチラリと鷹村に目を向ける。

 

すると、そこには何かを考えている鷹村の姿があった。

 

そして少しの間の後、鷹村は徐に席を立ち上がった

 

「わりぃ、ちょっとジジイのところに行ってくるぜ。」

 

鷹村の背を見送ると、伊達はイーグルに話し掛ける。

 

「余計な事をしたか?」

「いや、ライバルの成長は歓迎すべきものだ。気にしないでいいよ、エイジ。」

 

その返事に笑みを浮かべた伊達は息子の頭を撫でる。

 

「雄二、覚えとけよ。ボクサーってのは一人じゃなかなか強くなれねぇ。でもライバルと競い合って、トレーナーに鍛えてもらい、多くのファンに支えられると、そいつは世界チャンピオンになれるぐらい強くなれるんだ。」

「うん!覚えとくよパパ!」

「よ~し、いい子だ!」

 

ふと皆が鷹村に目を向けると、そこには鴨川も一緒になって席を立ってファイティングポーズを取っている光景があった。

 

そんなボクシング馬鹿の二人の姿に、ステーキハウスは笑いに包まれたのだった。




これで拙作の外伝も完結です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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