月日が流れるのは早いもので、私がホークと出会ってから1年が過ぎた。
この1年、私はホークに数え切れない程のスパーリングを課した。
そしてホークは私の期待以上の結果を残した。
なんとホークはダウンはおろか、一発もクリーンヒットを食らわなかったのだ。
階級、ボクシングスタイル、利き腕を問わずにあらゆるボクサーをぶつけたのにだ。
これには流石に私も驚いた。
ホークのボクシングスタイルなのだが、私はスラムの喧嘩で身に付けたホークの拳は攻撃的なものだと予想していた。
しかしホークのボクシングスタイルは変則的ではあるが防御的なものだった。
これにも驚いた私は好奇心からホークに、何故防御的なスタイルなのかと聞いてみた。
ホーク曰く、『スラムじゃあポケットにナイフを忍ばせているなんてのは当たり前だからな。格闘技の経験者が馬乗りの状態で気持ちよくスラムのワルガキを殴ってたら、いつの間にか刺されてた…なんて光景は腐る程見た。まぁ、勝つことも大事だけどよ、その前にケガして動けなくなりゃ稼げなくなんだろ?』
私はホークの言葉に納得した。
スラムの喧嘩で勝たなければ生きる糧を得る事が出来なかったが、先ずはその喧嘩が出来なければ意味が無い。
あぁ…ホークは野性だけでなく、理性も併せ持っていた。
神よ、感謝します。
私をホークと巡り会わせてくれた事を。
さて、ホークには十分にボクシングを経験させた。
今ならばトレーニングを積んでも、ホークがスラムで身に付けた拳が無くなる事はないだろう。
だが、まだホークがトレーニングを欲しているわけではない。
ホークがトレーニングを欲する様になるにはライバルが必要だ。
ホークのありあまる才能を真正面から受け止め、切磋琢磨していけるライバルが。
生半可な相手ではホークの才能の前に潰れてしまうだろう。
一人心当たりがいる。
未来のアメリカの英雄だ。
彼はまだ挫折を知らない故に潰れてしまう危険性があるが、私のホークが成長する為に必要ならばそれもやむを得まい。
私は受話器を取る。
そして私が培ったツテを使い、未来のアメリカの英雄へと連絡を取るのだった。
◆
今日もミゲルに呼ばれてジムに顔を出したんだが、ジムの雰囲気がいつもと違っていた。
「あん?なんだぁ?」
周囲を見渡すと練習生でもトレーナーでもなさそうなのが大勢いる。
その連中を見ているとミゲルが側にやってきた。
「おはよう、ホーク。」
「おい、ミゲル。あの連中は何だ?」
「あぁ、彼等はテレビクルーだ。」
俺はミゲルの言葉に首を傾げる。
「テレビクルー?」
「うむ、彼等はとあるアマチュアボクサーのドキュメントを撮影していてね。」
「アマチュアだぁ?何者なんだそいつは?」
「3年後のオリンピック代表候補…未来の金メダリストだよ。」
そう言ってミゲルが見る方向に俺も目を向ける。
すると、そこには金髪碧眼の白人の姿があった。
「彼はデビッド・イーグル。君と同い年の男だ。」
デビッド・イーグル。
『はじめの一歩』をほとんど知らない俺でも覚えている原作キャラの一人だ。
原作の俺と同じく、鷹村を後一歩まで追い詰めたミドル級の世界チャンピオンで、実力、人格共に併せ持ち、英雄の見本とまで呼ばれた男だ。
デビッド・イーグルはたっぷりと汗を流している。
まだ15歳でありながら、その動きはこれぞボクシングと呼べる程に綺麗なものだ。
「もしかして、あいつ専属のスタッフまでいるのか?」
「それだけ期待されているという事だよ。彼はアメリカが求める未来の英雄なのだからね。さぁホーク、君も準備を始めなさい。」
「おいおい、まさかだろ?」
俺の言葉を聞いたミゲルは悪戯が成功した子供の様な笑顔を見せる。
ジジイがそんな笑顔したって可愛くねぇぞ。
俺は一つため息を吐いたが、それと同時に笑みを浮かべたのだった。
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