暑さへの耐性をお願いした筈が炎熱アンチになったんだが? 作:黒三葉サンダー
少し本気を出したルージュ君の勇姿が見れ────るかもしれない。
今回のBGMは仮面ライダー555より『eyes glazing over』でお送りするぜ!
「はぁ!!」
「うぉ!」
シグナムちゃんの振るった剣を右に避け、飛んでくる鉄球を叩き落としながら距離を取る。前回の事があるためかケモ野郎は隙を伺っており、ゆるふわ系お姉さんは何やら魔法の準備をしている。
見事なまでに四面楚歌。どうやらやるしかないようだ。
「どうした!戦うつもりはないとはもう言わせないぞ!」
「みたいだな。……結界も発動されたみたいだし、なのはちゃん達も気付いたかな」
「はっ!増援が来るまで耐え凌ごうってか!?」
「いや。前回なのはちゃんが大変な思いをしたからな。むしろ来ないでくれた方が安心する。だって───」
傷を負った腕を軽く振る。今はもう痛みは殆ど無い。これは俺が敵を舐めていた戒めだ。俺が慢心していた故の傷だ。
彼女たちは真面目に戦うべき相手だ。
「───これ以上無駄に傷つく必要はないからな。だから皆が来る前に、俺が
瞬間。身体が炎に包まれ、そして弾け飛ぶ。
それはクロノから公にするなと言われた装備。
燃え上がる炎を体現したかのような全身鎧だった。
「行くぞ。死ぬ気で来い」
──────────
ヴォルケンリッター達は恐怖した。今彼女達の前に立っているのは先程までふざけた様子の男ではない。全身から殺気と熱を放っているその姿は紛う事なき強者のそれである。
(先程までと…いや、今までとは比べものにならん位の魔力量だ……これが奴の本気か……!!)
シグナムの剣を握るその手に力が入る。今から戦うのはかつて無い程の強者。それこそ彼女達の記憶に残されていた竜王を彷彿とさせる緊張感。
『来いよ。死ぬ気でな』
その姿が嘗ての竜王の姿と重なった。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
緊迫した状況で、ザフィーラが雄叫びを上げてルージュへと殴りかかる。それにルージュは無言で拳を握り締め、ザフィーラの繰り出したストレートに被せるように自身の拳をぶつけた。
それは以前二人が行った行動そのもの。以前と違う点はお互いに踏ん張れる足場があること、ルージュが一切の慢心をしていないこと、そしてルージュが多少本気だということだ。
「前よりも良い一撃だ。だが俺を押し切るにはまだ足りないな」
「ぐ!?」
数秒の均衡はあっという間に崩れ、殴り負けたザフィーラはシグナム達の側へと吹き飛ばされた。しかしすぐに体勢を立て直したザフィーラは油断なくルージュを睨み付ける。いつでも飛び掛かれる状態だ。シグナムはヴィータとシャマルに視線で合図を送ると、シグナムとヴィータが同時にルージュへと攻撃をしかけた!
「ぶっ潰れろぉ!」
「はっ!!」
ヴィータのグラーフアイゼンが、シグナムのレヴァンティンがルージュを倒さんと迫り来る。確かに速い。普通の魔導師なら目で追うことも困難だろう。
だがルージュには追えていた。否、何処に来るのか分かっていた。それは一重に殺気に対して敏感になっているからだ。第64管理外世界は弱肉強食。強い生物が弱い生物を食らうのが日常茶飯事だった彼にとって殺気を当てられるのは当たり前のことだ。
つまりルージュ・テスタロスという青年は常に戦い生き残ってきた強者なのである。
迫るグラーフアイゼンを右手裏拳で弾き、レヴァンティンの刀身を左腕のガントレットで受け止める。
「ぬぅ!?」
「ぐぁっ!」
左腕で刀身を払い、軌道がズレたせいで若干体勢を崩したヴィータに容赦なくハイキックをかまして吹き飛ばす。そして振り向き様に手刀でレヴァンティンの刀身をへし折ろうとするが、寸前の所で綺麗に受け流されてしまう。その隙をついてルージュの後ろからザフィーラが追撃をしかけるも、ルージュはザフィーラに視線も向けずにトップスピードで後衛のシャマルへと接近した。
「ひっ!」
「しまった!」
シャマルは詠唱が終わる寸前、唐突に目の前に現れたルージュのプレッシャーに思わず詠唱を中断してしまい、腹へと強烈な一撃がシャマルへと突き立てられた。回避も防御も間に合わず、小さく呻いてその場へと倒れる。
「シュワルベフリーゲン!!」
「……」
グラーフアイゼンによって打ち出された鉄球がルージュを貫かんと幾つも飛来するが、ルージュは右手を払っただけで飛来する鉄球を全て溶かし尽くした。
しかしヴィータの攻撃は囮であり、本命であるシグナムはヴィータの攻撃と同時に駆け出していたのだ。
今のルージュは右手を払う動作で右手は防御に間に合わない。左手だけでシグナムの一撃を防がねばならないのだ。
「紫電一閃!!」
レヴァンティンにカートリッジを数本撃ち込み、レヴァンティンの刀身が文字通り燃え上がる。敵を討ち果たさんとするその剣はルージュを両断するために振るわれた。シグナムですら確信した渾身の一撃。たとえ倒せずとも左腕は持っていける筈の威力を持つそれは、少し強いくらいの魔導師であれば間違いなく両断される一撃である。
そう、それが
「……それはもう見たな」
「な、に!?」
しかしその剣は敵を両断することは叶わず、左手だけで刀身を指先で掴んで防がれていた!
それは所謂、真剣白羽取りそのものである。
ルージュの凄まじい動体視力と身体強化魔法によってもたらされたこの現実はシグナムを戦慄させるには充分過ぎた。
こと魔力解放量と身体強化魔法においてはルージュは基礎魔法よりも秀でているのだ。
レヴァンティンの炎がルージュを燃やし尽くそうと燃え盛るが、炎熱が効かないルージュにとっては温い風でしかない。
「終わりだ……」
「させるかぁぁぁぁ!!」
硬直したシグナムの隙を見逃す筈もなく、硬く握られた拳がシグナムを貫く瞬間、横からザフィーラが割り込んで来る。ルージュはやむを得ず刀身を離すと、ザフィーラとの交戦に移った。ザフィーラのラッシュを一つ一つ冷静に受け流し、大振りの攻撃を掻い潜り鳩尾へと一撃を叩きつけた。
「かはっ…」と嗚咽を溢したザフィーラは膝からくず折れるが、その目はまだ闘志が宿っていた。しかし暫くはろくに動くことも出来ないだろう。
「これ程とは……!」
「あとはお前だけだな」
圧倒的強者。ルージュを簡単に表す言葉が今のシグナムにはこれしか思い付かなかった。
長い時を戦ってきたヴォルケンリッターが、一人の青年に完敗したのだ。最早別次元、そう思えてしまう程力の差は酷いものであった。無論シグナム達もまだ強力な技が残っているが、ルージュ相手にそれすら発動出来る隙があるかどうか。
正直に言ってシグナムも少し油断していたのだ。数の有利は取れており、以前とはいえ大怪我も与えた。その実績が下手な油断を招いてしまった。その結果が完敗である。
「くっ……今回は引かせてもらう……」
「逃がすとでも───」
「うらぁ!!」
シグナムがシャマルを抱え撤退しようとするが、ルージュはそれを許さず追撃に移ろうとした。しかしそれはヴィータの一撃によって邪魔されてしまう。その隙にザフィーラも何とか立ち上り、ザフィーラとヴィータの撤退も許してしまった。
「……はぁ。逃がしちまったかぁ」
ヴォルケンリッターに逃げられたルージュはため息を吐くと、鎧を解除してその場へと大の字で転がるのだった。近づいてくるなのは達の魔力を感じとりながら。
え?誰これ?こいつ本当にルージュ君……?