桃色の二人、降車駅にて。 作:彩りを下さい(懇願)
1.かわりものの、うたうたい
真面目といえばそれまでの人間。勉強や運動も、特に目立った成績を残すことなくただ平凡。にもかかわらず、変な奴だと言われてしまうのだ。理由は2つ。
まず1つ。周りから浮いてしまうこと。
彼は冗談を冗談と受け取れない節があった。ノリが悪いだの、空気が読めないなどと言われ続けた。それでも彼はなにが悪いのかと、どこ吹く風。そんな彼は必ずと言っていいほどに浮いていた。
次に、表情の変化が乏しい。全く変化しない訳ではないが、知らない人から見れば常に真顔に見える。滅多なことがない限り、その顔に笑みなど浮かべることなどないのだ。
たったそれだけのことかもしれないが、彼は変な奴と言われ続けた。
それでも、彼には友人と呼べる人もいたし、打ち込める趣味もあった。
彼女に出会えたきっかけはその友人と趣味のお陰でもあり、遂には彼自身が彼女と同じ立場に登り詰めることが出来た。
だから彼は、未だにこう思っている。
「別に、『変な奴』だからって腐る必要はないでしょう」と。
「尋。尋ってば。聞いてんのか?」
「んー? 月島、要件は?」
「
「…チーズバーガーダブルで」
「乗った。お前相変わらずチーズ好きなー」
「ほっといて。…ほら、さっさと注文して来て。僕は席取っておくから」
うーい。と言いながら注文カウンターに向かう月島を横目に、CiRCLEの手伝いだろうかと当たりを付ける。
彼に伝えた通り、二人席を抑え待ち時間でスマホを弄る。
『CiRCLE イベント』…ああ。これか。と納得する。確かに最近、5バンド参加のイベント等聞いたことがなかった。突然この規模のイベントを開催するなんて、何かあったのだろうか。
「よし、お待たせ。ほれ、チーズバーガーのダブル。んで、早速だけど話に入っていいか?」
「…ん。これ?」
貰ったチーズバーガーにかぶりつきながらスマホを月島に見せる。彼はそれを見て、軽快に笑った。
「やっぱり尋は話が早くて助かるわ!」
「付き合い長いからね、お陰様で。…流石に僕以外にここまでの察しを求めるのは可哀想だと思う。月島の家がCiRCLEだっていうことすら知らない人にそれは…」
「わかってるけどさー。楽な方が良いと思うのは誰だってあるだろ?」
「知ってる? それ無い物ねだりって言うんだよ」
「うるせー。知ってらあ! …もういいか、話に入るぞ?」
「いいよ、茶番も飽きたし」
「茶番っていうな!! 本気で言ってる所がまたアレだなおい! そういうとこだぞ!?」
「いいから、本題」
ひとつ溜め息を付きながら、頭を抱える月島を見て首を傾げつつも話の続きを促す。
「あー、本当に癖が強い。ああ、わかったわかった。話の続きな。とはいってもそのイベントの手伝いなんだけどな。
「久しぶり? 前にもあったの?」
「ああ。尋が入り浸る前の話。丁度入れ違いくらいのタイミングだったと思う。今度集まるバンドのメンバーは偶然にも俺らと同年代でな。そいつらは高校卒業と同時に活動拠点も変わって、今は各場所で頑張ってるよ。多分名前聞いたことあるバンドもあるんじゃね? CiRCLE周辺校の羽丘女子と花咲川女子に居た奴らだから、尋みたいに結構な頻度で来てたんだよ。そんなこともあって、油断してたわ…」
「油断? その人達は拠点移してるんだよね? 仕方ないんじゃ…」
正論を言ったのに、此方をちらっと見てため息をつかれた。解せぬ。
「尋は奴の
「でも、そういう割に嫌ってはないんだ」
「ああ? なんでわかんだよ」
「鏡見たら? 顔に書いてあるよ。……いや、冗談だから鏡見なくて良いよ。というか手鏡とか持ってるんだね」
バカ正直に手鏡を取り出し、何故かそれに向かってガンを飛ばし始めたところで止める。本当に顔だけを見てわかるなら、僕は今頃友人が沢山居るだろうにと変な方向に思考を飛ばす。
「単純に、そこまで文句を言うのに昔からの付き合いが続いているなら、そうでしょ」
「成る程。そういうことかー」
「それに、好きなんでしょ? その人か、そのバンドメンバー」
「ぶふっっ!?」
「うわ、汚い。やめてよ」
「なななな、なん、なんでわかっ!?」
「いや、なんとなく。確証は無かったけど、今確信に変わった」
「………」
そんな恨めしい視線を向けられても困る。というか、バレたら嫌ならもう少ししっかり隠して欲しい。手の掛かる子ほど可愛いとはよく言うが、月島からはそんなオーラが全開だった。バレバレなんだよなぁ。
「あー、まあそれはいいだろっ! とりあえず明日、明後日の土日リハがあるからまずはそれに参加して顔合わせ頼むわ。よろしく」
「わかった。時間、注意事項は後で連絡頂戴。そろそろ行かないと」
「おう。後で俺も寄るわ」
「……ありがとう」
「───♪ …足を止めてのご静聴、ありがとうございました。初めて来ていただいた方も、いつも来ていただいている方も。to-boxと言います。時々この駅前で路上ライブをさせていただいています。良かったら引き続き楽しんでいってください。では次の曲『雨は上がる、蝉は鳴く』」
アコギを片手にかき鳴らす。駅前にパイプ椅子を置き座り込みながら、歌い出す。
大学に入ってから、毎週欠かさず続けている路上ライブ。お客さんも見知った顔が増えてきたように感じる。既に二年が経ったと思うと感慨深いものがある。
曲を書いて、それを自分で演奏することは田舎に居るときから好きだった。
ガールズバンドが大ブームしている中、何故か男性のバンドは少数派だったこともあり、それも周りとの距離を作る一員だったのだろう。こっちに出てくるまではここまで思い切ったことはしたことがなかった。
でも、今も心からしっかり聞いてくれている、目の前にいる二人が居たからこそ、今の自分がいる。
「───♪ …ありがとうございました。もう、良い時間ですね。今日はここまでにします。また、機会がありましたらお会いしましょう。それでは」
ぺこりと一礼すると、拍手が聞こえ、バラバラと周りに居たお客さん達が捌けていく。
背中を向け、片付けを始めると近付く気配が。
「おう、今日もよかったぜ! 尋、新曲も何回かあったけど、動画化するのか?」
「ん、一応今週末の休みに撮ろうと思ってるけど」
「ならまたCiRCLE使えよ! 収録予約取っておいてやるからさ!」
「わかった。よろしく」
「へへ、毎度あり!」
ひとりは月島だ。なんだかんだ言っても友人である彼は、僕とのやりとりに文句を言いつつも離れない貴重な人種だ。こうして、路上ライブをやる日は必ず手伝い&観客として来てくれている。また、僕が某動画サイトに投稿していることを知っている数少ない人間でもある。
そして、もうひとりは───。
「き、今日も凄く良かったです! やっぱりto-boxさんの曲は夏感があって好きです!! 爽やかだけど、寂寥感があって! 乗りやすいテンポなのに、歌詞の意味を考えると切なく胸が苦しくなったりします……それがまた良いんです!!」
「あ、ありがとう。桜さん。いつも来てくれて嬉しい」
「勿論です! なんたってto-boxさん一番のファンですから!!」
「……ほんと、中学の頃から有り難い限りです」
「あー、振り返ると5年以上前ですもんねー。あはは、長くなりました!」
初めて動画を投稿した時から、僕に連絡をくれていた
思い出せば、こっちの大学に決めたことも、路上ライブをするようになったことも彼女の提案が切欠だった。
そんな彼女は聞いた瞬間からファンになったと言っても過言ではないと鼻息荒く語ったのが印象的で、今も変わらないキラキラした目を向けて来る。しかし、付き合いでいえば長いが、顔を見たことはない。
今も大きなマスクにサングラス。とってつけたようなキャップを被って、楽しそうに笑いながら話をしている。
それでも不信感は無かった。それは彼女の言動が全て本気で本心からくるものだからなのだろうなと、ぼんやり思う。
「……なあ、桜さんだっけ? そろそろ時間ヤバいんじゃないか? 夜も遅いが」
「え? ああ!? ホントだ!!? ご、ごめんなさいっ! そろそろお
「あ、はい。また良かったら来てください」
横から、ボソッと呟くように提案する月島の声を聞き大きく慌て出し「必ずまた来ます!!」と何故か敬礼しながら走り去っていく桜さん。
少し、ドジなところがある印象があるから前見て走った方が良いと思うんだけど……あ、転んだ。
「……ハア」
「どうしたの? 溜め息なんてついて。何か呆れてる?」
「あ? あー……、まあ直にわかるだろ。それより、CiRCLEの手伝い、忘れんなよ」
「月島じゃないから大丈夫だよ」
「お前ホント辛辣な!?」
そんな彼女と、あんな風に顔を合わせることになるなんて、まだ、思ってもいなかった。
☆to-box→桃木(とうぼく)→とーぼく→とぅーぼっくす
ネーミングセンスェ…
☆『雨は上がる、蝉は鳴く』→ネーミングセンスェ…(大事なことなので二回ry)
☆桜さん→一体何山なんだ…?(困惑)