桃色の二人、降車駅にて。   作:彩りを下さい(懇願)

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2.桃色の君と初邂逅

 CiRCLEにて、リハーサル当日。

 月島から、顔合わせ前に準備を終わらせるためだと言われ、参加バンドよりも早く入店した僕は、何故かまりな(オーナー)さんとお茶をしていた。

 

 

(こう)、私は(ひろ)ちゃんと話する時間欲しいから後頼むわね」

 

 

 そう告げられた彼の絶望的な顔が頭にチラつく。

 だが、まりなさんの言うことは絶対だ。しがないお手伝い(アルバイト)なので。

 

 

「いつも光がごめんね? 騒がしいでしょ?」

「そうですね、騒がしいです。」

「……言いにくいことズバッと言うのは相変わらずね」

「そうですか?」

 

 

 そうよ、とコーヒーを一口啜るまりなさん。

 よく言われるからそうだろうという感覚はあっても、自覚は持てない。

 どこまで、踏み込んで良いのかわからない。

 

 

「ま、大丈夫よ。尋ちゃんならね」

「……軽いですね」

「──君は、大丈夫。開き直っている部分もあるかもしれない。けど、君はわからないなりに、悩んでる。それが出来ている限り、君のことをわかってくれる人が必ず居るから──と。どう? これなら伝わる?」

「ええ。でも、最後までおちゃらけずにいられないんですか?」

「私も、君と同じく開き直っている部分もあるのよ」

 

 

 楽しそうに笑いながら言ったその言葉は、実感を伴っていた。

 なんとなく、言いたいことは伝わった気がする。

 

 

「しっかし、尋ちゃんも好きねそれ。よく食べるわねー」

「? 安心してください。腹八分目に抑えてますから」

「逆に安心できないわ……。フルーツタルト何個目よ」

「8個目ですかね」

「見てるこっちが胸焼けしてくるわ……」

「ほら、奢りって言われたら……食べますよね?」

「食べないわ。流石にその数は」

 

 

 僕に負けず劣らずな真顔で返される。何故だ。

 

 

「嫌いじゃないですよ」

「え?」

 

 

 まりなさんはなんだかんだ言って、光のことも僕のことも心配してくれている。

 僕の感情は表に出にくい。でも、だからって人の機微に疎い訳じゃない。お世話になっている人の顔色ぐらいは伺える。

 

 

「光は騒がしい奴です。でも、嫌いじゃないです。あいつは、数少ない僕の友人ですから」

「……最初から、そうやって言えるならもっと友達増えるわよ?」

「生憎、今くらいの人数で手一杯です」

「さて、それはどうかしらね。今日は見物(みもの)ねー」

 

 

 さっきまで驚いた顔をしていたのに、もうからかうようにニヤニヤとしながら今日の予定を話していく。

 まりなさん、今、凄くイキイキしてます。

 そして、僕、凄く先行きが不安です───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの! 桃木さんって言うんですね! お名前で呼ぶことは無かったので新鮮ですね! ふふー、なんだか不思議♪」

「……えっと、丸山さんでしたっけ?」

「はい! まん丸お山に彩りを。Pastel✽Palettes、ふわふわピンク担当! 丸山 彩です! 彩って呼んで下さいね!」

「うん。僕作業スタッフの仕事があるんです。丸山さんも、メンバー待ってますよ?」

「え、でもまりなさんが積もる話もあるだろうからゆっくりしておいでって…。あと、彩で良いですよ?」

「積もる話も何も……僕にはアイドルの知り合いなんて居ませんよ。もし、アイドルだと知らなくても丸山さん達みたいな容姿の良い人は印象に残らないなんてことないと思うんですけどね」

「よ、容姿が良いってもしかして可愛いってことですか!? ほ、ホントですか!!?」

「あ、うん。勿論。皆さん良すぎて近寄りがたいくらいには」

 

 

 可愛いかー、うへへー。

 普通に声に出てますよと注意するか悩むくらいにはヤバい奴かなと思っている目の前の可愛らしいを詰め込んだような女性。

 先程参加バンドの顔合わせをした際に、異様に懐かれてしまった彼女の名前は丸山彩さん。

 アイドルバンドPastel✽Palettesのボーカル担当で5つのバンドで唯一芸能界で(しのぎ)を削っているらしい。僕自身、アイドルは興味がなかったので初めて聞く名前だったのだけれど。

 

 

「ああ! 彩先輩の!! スッゴいドキドキする人だ!!」

「うん、良い音の人。がんばってください」

 

 

 Poppin'Partyの戸山 香澄さんと花園 たえさん。2人ともギターを引くみたいで、僕の演奏のことを言っているようだった。

 

 

「彩さんの言ってたとおり桃色マッシュなんですね! お似合いです!」

「ひーちゃん、彩さんから話聞いて興味津々だったもんねー」

 

 

 Afterglowの上原 ひまりさんと青葉 モカさん。上原さんは丸山さんと元バイト仲間で、今でもよく連絡を取り合う中なのだとか。というか、アイドルが某ハンバーガーショップチェーン店で働いているってどうなんだ。

 

 

「あー! あや先輩の好kもごぉ!?」

「だ、駄目だよ、あこちゃん! なんでもないですからっ、ええと、よろしくお願いしますっ」

 

 

 Roseliaの宇田川 あこさんと白金 燐子さん。宇田川さんが勢い良く近づいたと思えば白金さんが慌てた様子で止めに入る。何かを言いかけてたのはわかるけど、一体…?

 

 

「彩の言ってた人ね! 色々期待してるわ!! ちゃんと幸せになるのよ?」

「あの、今日はよろしくお願いしますね…! こころちゃん、ミッシェルが待ってるから行こう?」

 

 

 ハロー、ハッピーワールド!の弦巻 こころさんと松原 花音さん。どう考えても言い回しに怪しいところがあると思った。松原さんがいつも苦労しているのが目に浮かんでしまう。

 

 

「おお、丸眼鏡っすか! 眼鏡属性は自分だけだったから新鮮っすね!」

「あら、貴方ね。彩ちゃんをお願いするわ。麻弥ちゃん、行きましょう」

 

 

 そして、最後にPastel✽Palettesの大和 麻弥さんと白鷺 千聖さん。大和さんから共通点の眼鏡について突っ込まれた。白鷺は子役時代テレビで見たことがある。本当にアイドルバンドなんだと感心したものだ。

 

 

「どう考えても、丸山さん発信なんだよなぁ……」

「え? 何がです?」

「いや、今日5つのバンドに初めて会ったはずなんですけど、皆さん僕のことご存知だったので。丸山さんが僕の話をしたと言っていたんですよ」

「ええっ!? み、みんなから聞いたってホントにっ!? も、もー! 恥ずかしいなあ!」

「恥ずかしいっていうか怖いんですけど。さっきからはぐらかしているのかわかりませんが、改めて伺います。僕ら初対面ですよね?」

 

 

 確かに髪色とか他人とは思えないほど同じカラーリングだけど、実際に知り合いの記憶はない。

 もしかすると、どこかのライブで一緒になったかもしれないとは思うが、ここまでルックス極振りのバンドメンバーは流石に記憶に残るはず。

 で、あれば本当にわからない。

 そんな僕の感情が表情に出ていたのだろう。丸山さんの楽しそうな顔が一転して、泣きそうな顔に変わった。

 

 

「え! あ、そ、そっかー。そうですよね。私、確かに言ってなかったなー……」

「……? 何が──あ?」

 

 

 鞄を漁ったと思えば、出てきた見覚えのある帽子とサングラス。いや、待った。それは彼女の持ち物だ。ということは──。

 

 

「……桜さん?」

「はい! 今まで隠していたつもりは無かったんだけど、桜です! 桃木さん、今度こそ改めてよろしくお願いしますね♪」

 

 

 それが、彼女との初邂逅だ。

 僕らの物語は、間違いなく此処から始まった。

 

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