桃色の二人、降車駅にて。   作:彩りを下さい(懇願)

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七烏ツバキさん、初感想ありがとうございます。
続けて書いていきたいです。



3.昆布

 彩さんに付き纏われながらリハが終わったあの日、月島に言われるがまま(殆ど彩さんの圧力に負けた)、各バンドメンバーと連絡先を交換した。

 女性の友人と連絡先を交換する機会など、本当に必要に迫られたときくらい。緊急連絡先とか。

 だから、桃木 尋はあの勢いが普通なのかがわからない。

 そんな、眠れぬ夜(返信に追われる物理的に)を過ごした週末休みが明けた大学にて。事件は起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「尋。次のコマ一緒だろ。行こうぜ」

「ん? ああ、わかった」

 

 

 次のコマで一緒になる月島から、偶然廊下で呼びかけられる。

 自然と話題は彼女達のものになる。

 

 

「ねえ」

「なんだ?」

「知ってたよね。彩さんが、桜さんだってこと」

「お、名前で呼び合う仲まで進んだか。良かったじゃねえか!!」

「話 を 逸 ら す な」

「…すいましぇん……」

 

 

 どうやら月島姉弟は彩さん=桜さんということを知っていたようだ。

 今回の件で良い機会だからと、引き合わせの場に設定したそうだ。

 桜さん──もとい、彩さん(と呼べと懇願された)は路上ライブや動画を見る度に、各バンドメンバーへ所謂(いわゆる)布教活動をしていたらしい。

 お陰様で、こちらは相手をネット上の評判程度にしか知らず、彼女達は僕のことをよく知っているという図式が出来上がったわけだ。

 皆に協力して貰ったとか、上手くサプライズになって本当によかったとか、自白しまくる彼女の話を聞いていたらどうでもよくなったけど。

 

 

「もう、いいよ。別に驚かすために仕向けたことは怒ってないから」

「お、おう? そうなのか?」

「うん。それよりも、はじめましてで不審者扱いしたことへの自己嫌悪のが強いかな……」

「……あー…、そこまで頭回ってなかったな。尋は桜さんを崇拝してたもんな」

「言い方。…まあ、間違ってはないよ。彼女が居なきゃ、今の僕は無いから」

「…お前ら、本当にお似合いだわ。なんでここまでフリー同士のままなのかねぇ?」

「そういうのじゃないって桜さんの頃から言っているだろう? 高望みだよ。それは」

 

 

 彼女には感謝こそすれ、恋愛感情を抱くなんて迷惑になるだろう。僕のような感情が顔にほぼ出ない、コミュニケーションを取るならストレス原因になってしまう要素を含む、普通から外れた人なら特に。

 呆れた様子で(かぶり)を振る月島から、視線を外しつつ、昨晩の彩さんとのやり取りが頭を過る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『今日はお疲れ様でした! 来週もよろしくお願いしますっ!』──か」

 

 

 彩さんに付き纏われ続けた土日リハが過ぎ去り、夕食を摂った後。

 部屋に戻ると、トークアプリの通知が複数来ていた。

 その中には見知った名前──から一部変更することになったもの──があった。

 今日まで桜となっていた表示は、丸山 彩に変わっていた。

 とりあえず、返信をすることにした。

 

 

『お疲れ様でした。来週の本番、頑張ってください』

『うん、ありがとう♪ 頑張るぞー!!』

『空回りしないように、頑張りましょう』

『え!? そっち!?』

 

 

 相変わらず、一々反応が激しいなと思う。

 彼女の正体が(わか)ろうが、彼女は彼女だった。何も変わらない。僕の恩人だということも。

 そう思ったとき、今日の対応は(まず)かったのではないかと頭を(よぎ)った。

 ほぼ、無意識的に送信をした内容は──。

 

 

『今日はすみませんでした。彩さんさえ良ければ、お詫びに食事でもどうですか? 勿論無理強いはしません』

 

 

 こんな文面だった、のだが。……おかしい。さっきまで既読とほぼ同時に返信があったのに、今回は既読が付いてから20分程経つ。

 そこで、気付く。この文面、まるでナンパの常套句ではないかと。

 僕としては他意は無く、本当にお詫びの意味を込めた誘いだった。しかし、受け取り側は身の危険を感じ、警戒するのかもしれない。

 思い立ったが吉。直ぐに訂正しようと文面を打ち込もうとしたその時だった。

 

 

『世路昆布』

『あ、ちが』

『よろこんで!!』

 

 

 一瞬、頭が真っ白になった返信があったが、タイプミスなようだ。なんだよ昆布って。

 あわてふためく彼女の様子が頭の中で再生される。

 微笑ましいなと感じながら、いつにするか話を続けた結果、今日の講義が終わったあとの待ち合わせとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、講義を始める。まずはこれを見てくれ。──」

 

 

 午前中最後の講義が始まり、ふと周りを見渡す。

 そこそこの人気を誇るようで、空いている席もまばらだ。ここまでの人数だと、誰が居て、誰が居ないかなんてわからないだろうなと考えていたとき。

 視界の端に、見覚えのあるピンク髪がいつのまにか──。

 

 

「……え?」

 

 

 その声に反応して、月島とは逆隣に座っている彼女がこちらに視線を向ける。

 いつもと同じピンク髪。今日はおでこを出すように頭上で前髪を、ヘアゴムにて束ねている。

 自分と色違いの大きめな丸眼鏡を掛けている彼女は、昨日・一昨日で見覚えが有りすぎた。

 

 

「やっほ~」

 

 

 なんでいるんですかねぇ…彩さん。

 耳触りの良い小声と共に、照れ臭そうに胸元で小さく手を振る姿はあざといが愛らしい。女子ってなんで隣に座っているにも関わらずこういった所作をするのだろうか。わからないけど、許される理不尽さを持っているよな、なんて考えたところで彩さんが僕を挟んで逆隣に座っている月島の方を指差してきたので振り返る。

 

 

「なになに!? これ、なにやってるの? ねえってば!!」

「だあああっ! うるせぇ!! お願いだからじっとしててくれよぉ!?」

 

 

 ネコ耳のような特徴的な髪形の戸山さんが、星形のサングラスを掛け、月島の隣で構って欲しそうに(邪魔を)していた。土日によく見た光景だなあ、でも月島も満更じゃない反応だよなあ、というかよく小声で叫べるなあと思っていると。

 

 

「いいなぁ…」

 

 

 なんて彩さんが零している。会ってみてわかったが、この人すぐ口に出る。トークアプリでも自爆していたが、まさか普通に話をしていても零れるとは思っていなかった。

 芸能界は厳しい場所と聞くが、二枚舌くらいないときついのではないかと、心配になってしまう。

 

 

「……彩さん。見ますか?」

「え…いいの? やたっ♪」

 

 

 小さくガッツポーズしながら嬉しそうに距離を詰めてくる彩さん。垂れる髪を耳にすくい上げながらノートを見つめ──。

 

 

「…ふふっ。相変わらず、綺麗な字だよね」

「…普通じゃないですか?」

「ううん。……私、好きだよ?」

「──あ、ありがとう」

 

 

 び、びっくりした…!! びっくりしたぁ……。

 違うから! 彩さんは僕の文字が好きだと言ったんだ! 僕の表情筋NEETにここまで感謝したのは初めてだよ!? ありがとうな!!

 いやいや、講義前にタイミング悪く月島に煽られた事もあって意識し過ぎている。気にするな、彼女はいつも通りだ。

 ほら、いつも通り耳まで真っ赤にして、こっちを全く見ずに目をグルグルさせながら恥ずかしいそうに小さく『~~っ!!』と声にならない悲鳴を上げ──。……は?

 なんなんですかね、その勇気を振り絞ったけど気が付いて貰えなかった的な反応は。勘違いするよ? ねえ?

 

 とりあえず、本講義の内容は全く頭に入らなかったことをここに記す。

 

 

 





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