ブラフマン・マハーヴァーラタ   作:いんふる

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遅くなりました。


指導と再会

「はあぁぁあ!」

 

 日も登りきらぬ早朝。ステラは自らの霊装を振るっていた。

 自分の国に伝わる皇室剣技。それがいかんなく発揮された技は、一流の域に到達しているといっても過言ではない。

 ただし、相手もさるものだった。

 

()ィッ!」

 

 日本刀型の霊装を構えた黒髪の少女が、ステラの攻撃を受け止める。もう何合も打ち合っているが、いまだにステラは有効打を出せないでいる。力も魔力も上回っているはずなのに、押し切れない。じりじりとした鍔迫り合いが続き……ふっと。手ごたえが軽くなると同時に、目の前にいた少女の姿が掻き消えた。

 

「しまっーー!」

 

「貰い!」

 

 焦ったときにはすでに遅く。

 

 ステラは、首を獲られていた。

 

 

 

「じゃあ、反省会をしようか」

 

 一試合終えて、二人の体力が回復をした後。一輝は口を開いた。

 

「まずはステラ。体の動かし方も、力の乗せ方もだいぶ良くなったと思うよ。だけどまだ、相手の観察が出来ていない」

 

「むぅ……」

 

 唸るステラだが、文句は言わなかった。一輝に指摘されたことは自分自身でもわかっていたからだ。

 

「次に綾瀬。だいぶ動きが良くなったね。ステラ相手に一本取るとは思わなかった」

 

「うん、ボクも勝てるとは思わなかった」

 

 綾瀬と呼ばれた少女は本当に驚いたように言った。

 

 綾辻綾瀬。それが少女の名前だった。

 

 なんでも彼女は元一輝の同級生で、二人は今日のような訓練を一年間続けていたそうだ。

 

 それを聞いた時、ステラは少し不機嫌になった。

 

「これがボクに秘められた真の力……」

 

「必死でやった稽古が実を結んだってことだろ。自分の努力を隠すのはためにならないぞ」

 

「う。ごめんなさい」

 

 一輝につっこまれてシュンとなる綾瀬。二人の距離はどう見てもただの生徒同士ではないように見えた。

 

「……二人は、付き合ってるの?」

 

「うぇえええぇえええ!?」

 

 ぽつりとつぶやかれたステラの疑問に、綾瀬は盛大に吹き出した。

 

「と、突然何を言い出すの、ステラさん!?付き合うだなんて、いやでもよく考えたら付き合ってるようなそうでもないようないやでも広義の意味では付き合ってると言えるような……」

 

 突然故障した綾瀬に目を丸くステラ。一輝はため息をつくと、目を回す綾瀬の目の前で手を叩いた。

 いわゆる猫だましである。

 

「ひゃっ!?」

 

「綾瀬、そろそろ準備しないと始業式に間に合わないよ」

 

 驚いた綾瀬に、一輝は素早く言葉を割り込ませた。

 

「あれ、もうそんな時間!?ごめん一輝、ステラさん、続きはまたあとで!」

 

 いうや否やあっという間に駆け出していく綾瀬。

 

「……なんというか、面白い先輩ね……」

 

「まぁ、一緒にいて退屈はしない人だよ。さ、僕たちも行こう」

 

 そうして、二人は部屋へと戻った。

 

「念のために聞くけど、二人は付き合っていないのよね?」

 

 ステラは結構食い下がった。

 

「何がそんなに気になるのかわからないけど……うん、付き合っていないよ」

 

「なら良し」

 

 ぐ、とガッツポーズをとるステラ。そんな彼女を、一輝は不思議そうな顔で眺めていた。

 

 

 

『ステラは僕と同じようにはできないと思う』

 ステラが一輝へ、いわゆる弟子入りを志願した時、一輝は断りとして言った。

『僕とステラでは、目指すべき方向が正反対なんだ』

 だから僕が指導しても、ステラは才能を十全に生かせない、と。

 正反対だと言われても、ステラにはピンとこなかった。首をかしげていると、一輝は儚げに笑った。

『僕には、魔導騎士として活動するに準ずる魔力がない。つまり、才能がないんだ』

 その言葉は、ステラに少なくない衝撃を与えた。あれほど自分を圧倒した一輝が才能がないなど、いったい何の冗談なのか。

『ちょっとした裏技みたいなものを使って、一時的にブーストしてたりはするけどね。素の魔力は全然ダメなんだ。……だから、僕に弟子入りしたとしても、僕は剣術しか教えることができない』

 それでもいいかい?と、一輝はステラの目をまっすぐ見ていった。

『……ええ、構わない。一輝の言う、目指すべき方向というのはまだピンとこないけど……あなたの剣術が学べるなら、それは絶対に価値のあることだわ』

 ステラは、そう答えた。

 

「……でも、私以外にも指導を受ける子がいたなんて、聞いてないわよ……」

「あはは……綾瀬に関しては、去年ちょっとした縁があってね」

 

 道すがら、ステラは愚痴をこぼすように言い、一輝は困ったように笑う。

 そう、ステラにとっては予想外であることに、一輝はすでに弟子を取っていたのだ。それも、ステラから見ても唸るほどに可愛い女の子とくれば、落ち着けるわけがない。

 過ごした時間も短い今は、剣士としても乙女としても負けている。だがいつかは逆転してやろうと、ステラは闘志を燃やすのだった。

 

「へぇ、妹さんがいるの?」

「そう、今年入学してくるみたいなんだ」

 話題は一輝の家族へと移った。一輝は嬉しそうに、妹のことを話す。

 

「最後に会ったのは4年前かな。僕は家に帰っちゃいけないことになっているから、こっそりと会いに行ったのだけど。クラスの男子にモテそうなくらい、美しくなってた」

 シスコントークをまるで当たり前であるかのように話す一輝に、ステラの方が少し恥ずかしくなった。それと同時に、家に帰っちゃいけないといった、一輝のさびしそうな顔が忘れられなかった。

 

 

「……ちょっとびっくりしちゃった。元気そうに話してたのに、いきなり吐血するなんて」

「僕も去年は本当に驚いたよ。どうも、すごい病弱みたいなんだ」

 

 ホームルームが終わった後、ステラはけだるげに話した。ここ最近、ステラは驚きっぱなしで疲れが出てきたのだ。

 

「……それで?噂の美少女ちゃんはどこよ」

「美少女ちゃん……って、妹のことか。ステラ、ノリがおっさん臭い……」

 

「……お兄様」

 

 声が、掛けられた。一輝が顔を向けると、一回り小さな影が一輝の胸に飛び込んできた。

 

「お兄様、お兄様、お兄様……!」

「……珠雫」

 まるでうわ言のように。一輝のシャツを握りしめ、涙ながらに彼のことを呼び続ける珠雫。ステラやからもうとしていた同級生は、呆然とその様子を眺めていた。

 

「心配……して、おりました。心が、割れてしまうんじゃないかと、思うくらい……!」

「……うん」

 雫と呼ばれた少女の頭を撫で、一輝は言った。

「ただいま、珠雫」

「……!」

 眦に涙をためつつも、珠雫は満面の笑みを浮かべた。

「はい!おかえりなさいませ、お兄様!」

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