いずれはたま〜にバトルもやりたいですが、基本的には日常です。
夕飯時。俺と万丈は、昼間会わなかった多くのアパートの住人達と出会った。
深瀬「はっ、物理学なんざ意味わかんねぇな」
深瀬明さん。暴走族みたいな見た目だが、職業は画家。ポップでパワフルな前衛アーティストであり、彼の絵は海外ではかなり人気らしい。狼の血が入った愛犬・シガーと共にバイクで旅してるとか。
秋音「おいひ〜!!」
龍我「どんだけ食うんだ!?」
秋音「あたし、人の3倍は食べるの!」
龍我「はぁ!?マジで!?」
JKのセリフとは思えないこと言ってるこの女の子は、久賀秋音ちゃん。高校3年生で、除霊師の卵だそうだ。夜は妖怪病院でバイト兼修行だとよ。すげぇ。
他にも、妖怪だけど人間のふりして会社務め(しかも大手)してる『佐藤さん』、小さな子どもの幽霊『クリ』とその愛犬(というかお母さんみたいな感じ)の、犬の幽霊『シロ』、黒坊主の大家さん、と個性豊かな面々が揃っている。
最初に会った一色黎明さんは、詩人にして童話作家。難関で高尚な詩と耽美でヤバめな大人向けの童話を書いて、一部に偏執狂的に熱狂的なファンを持つ異色作家……らしい。
夕士が持ってた一色さんの童話、一冊読ませてもらったが……ヤバい。ありゃヤバいわ。色んな意味で。
そして、その稲葉夕士。
中学の時に両親を亡くし、叔父の家に世話になる負い目とプレッシャーから寮のある高校を目指して受かったはいいが、その寮が燃えちまって、建て直しまでと入ったのがこの寿荘だったのだという。
夕士「ここに来て、俺の常識とか、意地張って作ってた壁とか…そういうもんが砕け散りましたよ。もっと広い目で世界を、未来を見るってことを教えてもらいました」
戦兎「未来…か」
「はぁ〜、いいお湯だった〜!」
戦兎/龍我/夕士「「「ウグッンンッ!」」」
俺達は豚のシソバター焼きを危うく喉につまやせかけた。
なぜなら…!短パンに上半身裸、首にかけたタオルで辛うじて胸が隠れているというとんでもない格好(しかもスーパーダイナマイトボディ)の女が立っていたからだ。
夕士「まり子さんッ!やめてくださいッ!」
まり子「え〜いいじゃん別にぃ!るり子ちゃ〜ん!ビールちょ〜だい、ビール〜!」
龍我「いやなんてカッコしてんだよ!?」
夕士「分かります、分かります…。俺も初めて会った時アレでしたから…」
戦兎「おわぁ…」
夕士は苦笑いしながら言った。
夕士「まり子さん。元人間っス。幽霊になってずいぶん経つから、だんだん女性としての感覚とか恥じらいとかいうのがマヒしてったみたいで…もはや中身はオッサンです」
龍我「あんな美人なのに!?」
夕士「まり子さん、あの調子で男風呂にも平気で入ってきますからね。それもタオルすら巻かずに。覚えといてください」
戦兎「そ…それは、困るな…」
ここの住人達は、なんというか…。
一人残らず、個性的だ。
夕食後。
龍我「なんじゃこりゃあ!?」
戦兎「こ、これは…完全に物理法則無視してんな…」
夕士「はは、俺も初めて来た時は固まっちゃいましたよ」
共同の風呂は地下にある。夕士に連れられて来てみれば、なんと天然の洞窟風呂だった。
本物の温泉がこんな住宅街のど真ん中に!?
…さすが妖怪アパートとしか言いようがないな。
戦兎「料亭みたいなうまい飯に温泉…ここは最高級旅館か…?」
夕士「俺のダチが来た時も同じこといってました。……あ〜、いつ入ってもいい湯だ」
龍我「極楽だ〜…」
風呂に浸かりながら、俺達は夕士がこのアパートに来てからの話を聞いた。
夕士「一度は…『普通の人間』として、『普通の生活』をしたいって、ここを出て再建された寮に移ったんです。けど…寮生活も、何もかもうまくいかない中で、考えたんです。『普通』ってなんだろうって」
『普通』とは何か…か。
夕士「そしたら…思ったんです。俺の居場所はここだって。こっち側から、人間の世界を見てみたいって」
戦兎「……大事な場所なんだな。ここは」
夕士「はい!だって、幽霊も妖怪も、みんな…楽しい仲間だから!」
戦兎「そっか…そうだな」
その夜、俺と万丈は布団を並べて寝ていた。
龍我「なぁ、戦兎」
戦兎「ん?」
龍我「……いい場所だな、ここ」
戦兎「あぁ……最っ高だ」
ここに来てよかった。
心から、そう思う。