桂馬えもん 天理と神のみぞ知るセカイ   作:夢回廊

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第13話

(確かこの辺りだったよな。俺達がさっき立ってた場所は)

 

「…………」

 

 俺は話を終えた後、天理を連れて外に出ていた。家の中で時間停止を解除すると、傍から見れば俺達がこつぜんと姿を消したように見える。

 周囲に誰もいないことは既に分かっているが、やはり不安なので念には念を入れておく。元々立っていた位置で時間停止を解除すれば、周りから見ても俺達がその場でずっと会話し続けているだけに見えるからな。

 

「……桂馬君」

 

「ん? どうしたの?」

 

「その……どうして桂馬君は、そんな凄いひみつ道具を持ってるの?」

 

「……っ!?」

 

 しまった! そういえば、俺がひみつ道具を持ってる理由までは考えてなかった!

 超能力の時はそもそもが嘘だからいくらでも言い訳出来たし、うらら達も追及してこなかったから油断してたけど……

 本当のこと……つまりひみつ道具のことを話してしまえば、そりゃ疑問に思って当然だよ!

 

「……あー、その……」

 

「…………」

 

 どう話せば良い? 生まれつき持ってた? それとも異世界から持ち込んだ? いや、天理には嘘をつかないって決めた。ここは正直に……

 でも転生や神様なんて信じてもらえるのか? せめて女神(ディアナ)達と会ってからなら、何とか信じてもらえるかもしれないけど……

 

「……もしかして、話しちゃダメなこと?」

 

「そ、そういうわけじゃないんだけど、どう話せば良いか……」

 

 考えろ。考えろ俺。天理に嘘をつかず、尚且つ納得してもらえる理由を……

 

「……ううん、やっぱり良いよ」

 

「え?」

 

「桂馬君、凄く辛そうな顔……してたから……話せないこと、なんだよね……?」

 

「いや、その……」

 

「……ごめんね。こんなこと聞いちゃって」

 

「…………」

 

 このまま、話せないことと言えば天理は引き下がってくれるだろう。でも、それで良いのか? 天理に嘘はつかないって決めたんだろ? 本当にそれで良いのか?

 ……良い訳ないだろ。そんな天理の優しさに付け入るような真似をするなんて。

 

「……もう少し、後で」

 

「え……?」

 

「確かに、今はまだ……上手く説明出来ない。でも……天理が、もう少し大きくなったら……ちゃんと、話すから」

 

「大きく……?」

 

「うん。小学生になったら……全部話すよ。約束する」

 

 答えの先延ばしになってしまったが……嘘をつくよりは良いと思う。原作の流れを崩さないとすれば、天理はいずれドクロウ達や女神(ディアナ)達と出会うことになる。

 ひみつ道具のことを抜きにしても、近い内に地獄や天界のことを話す時がやって来る。神様の存在はともかく、転生については……ドクロウやディアナに予め説明し、天理に何とか理解してもらうしかない。

 確か原作でも、地獄……冥界や天界は、人間の魂を……えっと、何か色々してたはず。この辺は正直、正確には覚えていない。

 けど、少なくとも天理やうらら達よりは、ドクロウやディアナの方が俺の話をスムーズに理解してくれる……と信じるしかないか。

 どの道ドクロウとディアナにはひみつ道具のことを打ち明けるつもりだったので、同時に俺の正体も話しておこう。

 

「……良いの? さっき、その……話しづらそうに、してたから……」

 

「……大丈夫。むしろ、ありがとう。俺に……話す決心させてくれて」

 

「……う、うん」

 

(決心……?)

 

 ごめん、天理。秘密を打ち明けると言っておきながら、まだ言えないことを隠すような真似をして。

 だけど……絶対に話す。嘘もつかない。もしかすると、信じてもらえないかもしれない。

 でも、ちゃんと話すから。それまで……少しだけ、待っていてほしい。約束したからには、必ず守るから。

 

「……それじゃ、今から止めた時間を動かすよ」

 

「あ……そういえば、時間が止まってたんだっけ……」

 

「うん。でも、もう2人だけの話は終わったから……っと!」

 

 ポケットから取り出した『タンマウォッチ』のスイッチを押す。すると、不気味なほど静かだった世界に……音が戻って来る。止まっていた車は動き出し、人々は再び話し始め、カラスや雀は飛び始めた。

 

「……これで良し。無事に時間が動き出した」

 

「……!」

 

(急に、周りの音が……聞こえてきて……)

 

「……今日はありがとう。難しい話を聞いてくれて」

 

「う、ううん。私こそ……ありがとう。話してくれて……」

 

「それじゃ……また、明日ね?」

 

「……うん。また……明日……」

 

 ゆっくり歩き出す天理を見送る。こうして見ていると、いかにも誘拐されそうな女の子で心配になる。

 もちろん原作の歴史通りならそんなことにはならないはずだが……非常時連絡用に『糸なし糸電話型トランシーバー』を渡しておくのも良いかもしれない。

 ついでに俺の部屋にも『虫の知らせアラーム』を設置していれば、天理達の危険を回避しやすくなるな。

 俺が介入したせいで微妙に歴史が変わり、巡り巡ってそんなことになったら冗談じゃ済まないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからはいつも通り、天理達との幼稚園生活を過ごしている。ただ、1つ変わったことと言えば……ひみつ道具を使う度に、天理には道具を見せて説明していることだろうか。

 

「「「「「いただきまーす!」」」」」

 

「いただきます」

 

「い、いただき……ます……」

 

「…………」

 

「……うらら、どうした?」

 

「うららちゃん……?」

 

 いつも美味しそうに給食を頬張っているうららが、珍しく手を動かしていない。

 

「……これ」

 

「ん? サラダ……ははぁ、なるほど」

 

「……嫌いな物があるんだね?」

 

「……うん」

 

 最初は体調不良を疑ったが、どうやら嫌いな野菜がサラダに入っているらしい。ここで『好き嫌いは良くない』だとか『栄養があるから食べなさい』だとか『作った人に申し訳ないから残しちゃダメ』だとか、正論を言うだけなら簡単だ。

 でも、そんな頭ごなしに叱るだけでは子供が可哀相……だと思う。俺個人の意見に過ぎないけど。

 

「桂馬君……どうしよう?」

 

 天理が小声で話しかけてくる。小声で話す理由はもちろん、ひみつ道具やそれに関わる内容の話をする際、周りにバレないようにしてくれている為だ。

 

「……嫌いな物でも、美味しく食べられるようにすれば大丈夫」

 

 俺はポケットから『ある道具』を取り出す。これは流石に『片付けラッカー』で隠さなくても大丈夫だろう。どう見てもただの調味料にしか見えないからな。

 

「……これ、何?」

 

「説明するより先に使ってみよう。天理、ちょっとだけで良いから、うららに話しかけてくれないかな?」

 

「あ……うん。えっと、うららちゃん……どれが嫌いなの?」

 

「……ピーマンですわ」

 

 うららの意識が天理に向いた瞬間、俺は『道具』をサラダにふりかける。そしてすぐにサラダから顔を離し、出来るだけサラダの方を見ないようにする。

 

「そうか? ピーマンも、食べてみれば案外美味しいかもしれないぞ?」

 

「そんなことありませんわ! 前にお母様のお料理を食べさせてもらった時は苦くて……あれ?」

 

「天理、ここからはうららのサラダを見ちゃいけない」

 

「え……?」

 

 うららに聞こえないよう、天理に小声で注意を呼びかける。

 

「こ、このサラダ……こんなに、良い匂いだったっけ……? それに美味しそう……」

 

「食べてみたら?」

 

「う、うん……はむっ! んんっ!? お、美味しい……! 凄く美味しいですわ! はむっ、はむっ!」

 

 サラダを一口食べた瞬間、うららは夢中でサラダを貪るように食べていく。さっき『嫌い』と言ったはずのピーマンも、何とも嬉しそうな表情でひょいひょい口に入れていく。

 

「……桂馬君。これって……やっぱり……?」

 

「……そう。俺が使ったのは『味のもとのもと』と言って、これを振りかけると何でも美味しくなるんだ」

 

「……そっか。それでうららちゃんは、あんな美味しそうに……」

 

 ジャイアンシチューを食べる話で登場した、知る人ぞ知る『味のもとのもと』。この調味料を振りかけると、どんなに不味い料理でもびっくりするくらい美味しくなる。

 更に味だけでなく香りや見た目も良くするようで、うっかり直視しようものなら食べずにはいられなくなるレベルだ。

 しかしこの道具、困ったことに食べ物以外の物に振りかけても効果を発揮してしまうのだ。万が一、何かの間違いで人間に振りかかってしまえば……口にするのも恐ろしい地獄絵図となる。

 

「あれ? じゃあ、どうしてさっき……サラダを見ちゃいけないって、言ったの……?」

 

「それはね? うららだけじゃなく、サラダを見ると俺や天理も『美味しそう!』と思っちゃうから……」

 

「……桂馬君や私が、うららちゃんのサラダを食べちゃわないように?」

 

「そういうこと」

 

 流石天理だ。全部説明するより先に、俺が言いたかったことを理解してしまうとは。

 ……割と冗談抜きで、この時点でも俺より天理の方が頭良いんじゃないだろうか。

 

「……味の素とは違うの?」

 

「確かに名前は似てるけど、この道具の方が凄く強力だよ。良かったら、天理のご飯にも振りかけようか?」

 

「う~ん……じゃあ、ちょっとだけ……」

 

「了解。それじゃ……試しに、このハンバーグに……」

 

 天理の皿に乗っているハンバーグに味のもとのもとをふりかけ、すかさず俺は目を逸らす。

 

「わ、わぁ……! 本当だ……! 急にハンバーグが、すっごく美味しそうに見えるよ……!」

 

「味も良くなってるから、食べてごらん?」

 

「う、うん……はむっ……んんぅ!? な、何これ……! こんな美味しいハンバーグ、食べたことないよ……! あむっ、はむぅ!」

 

 うらら同様、天理も無我夢中でハンバーグにパクついている。あ、レアな表情だ。脳内に永久保存しとこう。

 それにしてもこれ、凄い効果だな……あのおしとやかな天理が、我を忘れる勢いで食べてるくらいだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ~! 本当にお空飛んでる~!」

 

「ひゃ、ひゃあ~……!?」

 

「凄いでしょ! ケイちゃんのちょーのーりょくは!」

 

 数日が過ぎた後、私は桂馬君とうららちゃんのお家に遊びに行った。ううん、お呼ばれしたと言った方が良いかも。そこで美生ちゃんと結ちゃんがいて、最初は緊張したけど……お友達になれた。

 うららちゃんから誘われた時、桂馬君から美生ちゃんと結ちゃんについてのお話があったんだ。

 桂馬君は不安そうだった。私が辛い思いをするんじゃないかって。だから、無理には連れて行かないって。

 確かに、私は他の人とお話するのが怖い……けど、桂馬君のお友達なら大丈夫だと思って、勇気を出してついて行くことにした。

 美生ちゃんも結ちゃんも、桂馬君が間でお話してくれたからか……優しく話しかけてくれた。だから怖くなかったのかも……これも桂馬君のお陰だよ。さっきも言ったけど、もう一度……ありがとう、桂馬君。

 

「天理もうららもズルいよ~! こんな楽しいことを独り占めしてたなんて~!」

 

「ごめんなさい! でも、あの時は平日だったし……」

 

「……ごめんなさい」

 

『タケコプター』でお空を飛んだ時は、美生ちゃんと結ちゃんはいなかったから……

 

「あ、あの! 結は気にしてないから……!」

 

「こら美生! 天理を虐めたら許さないぞ! ついでにうららも」

 

「そんなんじゃないもん! 悔しいだけだもん!」

 

「うららはついでですの!?」

 

「あはは、ごめんごめん。冗談だって」

 

(天理が1番大事なのは揺るがないけど)

 

「それに悪いのは天理やうららじゃなくて俺だよ。ごめんな? 2人がいない時にそんなことをして」

 

「……許してあげる。でも、その代わり! 今日はたっくさん! お空で遊ばせてね!」

 

「み、美生ちゃん……」

 

「……ふふっ」

 

 やっぱり桂馬君はパパみたい。頼りになるというか、傍にいてくれると安心というか……今だって、私達の為に……ひみつ道具を使って、お空に連れて行ってくれたもん。

 確か『ふわふわ薬』だっけ……食べるだけで、体が浮かんでいく不思議なお薬。それだけだと大騒ぎになっちゃうから……この前話してくれた『石ころぼうし』を被せて、私達を見えなくしてくれた。

 その帽子も、うららちゃん達にバレないように桂馬君が見えなくしてるんだよね。凄いなぁ。

 

「雲の上ってこうなってたんだ~! わーい!」

 

「あ、向こうに飛行機が飛んでる……」

 

「美生ちゃん! 雲の中でかくれんぼしましょう!」

 

「あまり遠くまで行くなよー? 探すのが大変だからなー!」

 

「「はーい!」」

 

「あ、み、美生ちゃん! 引っ張らないで……!」

 

 あ、うららちゃんと美生ちゃんが走って行っちゃった。結ちゃんは……美生ちゃんに引っ張られてる。

 

「うららちゃん達、飛行機とぶつからないかな……?」

 

「大丈夫。あの遠さなら、走っても追いつけないはずだよ」

 

「なら良いけど……」

 

「……天理は、行かなくて良いの?」

 

「え? う、うん。私は、こうやって……雲とお空を見てるだけで、楽しいから……」

 

 それに、うららちゃん達と一緒に遊ぶのも楽しいけど……やっぱり、桂馬君と一緒にいる方が安心するから。

 

「……そっか」

 

(まぁ、天理ならそう言うと思ってたけど。元々騒ぐような性格じゃないだろうし)




 流石に幼稚園編3年間全てを描写すると長すぎるので、ある程度端折っていくつもりです。
 ただ、もうしばらく幼稚園編が続きます。その後は過去(小学生)編、中学生編……
 原作本編である高校生編~女神篇までの道のりはまだまだ長そうです。

 うららのピーマン嫌い設定は捏造です。
 道具を活躍させる為だけに追加した設定ですが、名家のお嬢様でも好き嫌いの1つくらいはあるんじゃないかな~と。
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