桂馬えもん 天理と神のみぞ知るセカイ   作:夢回廊

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 ようやく幼稚園編の終了です。またまた長くなってしまいました。


第19話

「あけましておめでとう、天理」

 

「……おめでとう、桂馬君」

 

「「あけましておめでとうございます! 鮎川さん!」」

 

「あら、桂木さん! あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いしますね~!」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 白鳥家でのクリスマスパーティからおよそ1週間。大晦日も過ぎ、新しい1年が始まる日を迎えた。

 俺は両親に連れられ、新年の挨拶をしようと鮎川家に向かっていた。すると向こうも同じことを考えていたのか、道路の途中で鉢合わせしたのだ。

 

「桂馬君もおめでとう!」

 

「いつも天理と仲良くしてくれてありがとう」

 

「おめでとうございます。おじさん、おばさん」

 

「あらあら、お利口さんねぇ」

 

「君みたいな良い子が天理と友達になってくれて、僕も嬉しいよ」

 

 天理の両親に頭を撫でられる。利口かはともかく、好きな人の親となれば失礼な態度を取る訳にはいかない。

 そしてどうやら俺は天理の両親から、最低でも『天理と仲が良い友達』と思われているようだ。それは正直凄く嬉しい。

 仮に天理の両親に嫌われていたら、天理と普通に遊ぼうとするだけでもかなりのハードモードになるだろうからな……

 

「これからも天理と仲良くしてあげてね?」

 

「もちろんです!」

 

「け、桂馬君……恥ずかしいよ……」

 

「あ、ごめん」

 

「ははっ。天理、随分と桂馬君に好かれてるなぁ」

 

「ぱ、パパ……うぅ……」

 

 今度は天理が頭を撫でられる。母親は言うまでもないが、やはり父親も天理と同じで穏やかそうな人だ。

 ……なるほど、だからか。天理があんなに優しく健気で女神(ディアナでは無く文字通りの意味で)のような性格になったのは。

 

「えっ、嘘? 桂馬、アンタ天理ちゃんのこと好きなの!?」

 

 天理が天使になった理由を自分なりに分析していると、麻里が目を輝かせながら割り込んできた。いや、確かに母親からすれば子供のそういう話題は気になるんだろうけど、食いつき過ぎじゃないか?

 

「あー……えっと、幼稚園で初めて出来た友達だから、うん」

 

 そりゃ本音を言えばもう大好きですよ。『神のみ』で断トツで好きなヒロインですよ! 実物を見て尚更ハートを射抜かれたくらいですよ!!

 ……なんて色々な意味で危ないことを言えるはずが無いので、とりあえず嘘にならない範囲で誤魔化しておく。

 

「な~んだLIKEか。てっきりLOVEだと思ったのに」

「いや、桂馬はまだ幼稚園児だぞ? そういうのはせめて小学校からじゃないか?」

「いえ、早い子なら幼稚園時代に初恋を経験する子もいるみたいですよ」

「そうなのかい? 僕はもう少し後で……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 お互いの両親が俺と天理そっちのけでワイワイ盛り上がっている。えっと、会話に取り残された俺達はどうすれば良いんでしょうか?

 

「……新年早々、騒がしい両親でごめんね?」

 

「う、ううん! こちらこそ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして2日が過ぎ、俺はとあるサプライズの計画を立てていた。1月3日……天理ファンの諸君なら、この日付の意味がお分かりだろう?

 

「もちろん天理の誕生日だ。バースデイだ! 生誕記念日だ!!」

 

 うらら達の誕生日は正直、たまにド忘れしてしまうことがある。だがしかし! 天理の誕生日だけは忘れたことなど無い!

 そもそも幼稚園の教室には毎月行われる誕生日会に備えて、誕生月が書かれたボードに園児達のネームプレートが貼られている。なので万が一、いや億が一天理の誕生日をド忘れしていたとしても、そのネームプレートさえ見れば天理の誕生日をいつでも確認出来るという訳だ。

 という訳で、サプライズで天理に誕生日プレゼントを贈ろうかと思ったのだが、天理は良い子であるが故に……ある大きな特徴があった。

 

「……天理って何を渡したら喜ぶんだろ? 原作でも心のスキマが出来ないほど()()()()しなぁ……」

 

 そう。天理は欲が無い。だからこそ、プレゼントの内容に非常に悩んでいる。

 いや、正確には無難な内容なら既に思いついている。天理はマジックが好きなので、俺がひみつ道具で手品を見せてあげれば……きっと天理は喜んでくれると思う。

 でもなぁ……それだと面白味が無い。何かこう、天理が喜びそうな内容で、普通なら考え付かないようなアッと驚くプレゼントは……

 

「う~ん……」

 

 こればかりはうらら達に相談せず、自分の力だけでアイデアを出したい。しかしこのままでは時間だけが一向に過ぎてしまう。

 いや、いざとなれば『タンマウォッチ』で時間を止めれば良いだけの話だが……それでもアイデアを出さないと、いつまで経っても準備を終えることが出来ない。

 

(う~ん、天理がマジック以外に好きなものは……プチプチか。でも、プチプチをプレゼント……?)

 

 確かにそれはそれで天理は受け取ってくれそうだが、マジックを見せるほど喜んでくれるかというと……うん。

 はぁ……こういう時、原作桂馬の頭脳が羨ましくなる。俺は何でこう頭が悪いのだろうか。

 

「……やっぱりダメだ。マジック以外に思いつかない。仕方ない……マジックのスケールをデカくするしかないか」

 

 結局、俺の残念な脳ではナイスな案を出すことが出来ず、無難なプレゼントを出来る限り昇華させることにした。

 ようし、やるからには全力で盛り上げてみせる! まずはあの道具であぁして、次にあの道具で……

 

 

 

 

 

 

 

(……桂馬君、どうしたんだろう? 急に話があるって……)

 

 桂馬君から『話があるから家に来てほしい』って言われたけど……もしかして、ひみつ道具のことで大変なことになっちゃったのかな? 

 とにかく、私はママに遊びに行って来ると伝えて、桂馬君の家にやって来た。そしていつものように、インターホンを押そうとすると……

 

「……あれ?」

 

 何だか、急に周りが静かになったような……? ひょっとして、桂馬君がまた時間を止めたのかな?

 でも、タンマウォッチなら私が桂馬君に触っていないといけないし……じゃあ、『ウルトラストップウォッチ』?

 そう思ってあちこちを見回したけれど、桂馬君は見当たらない。あ、『石ころぼうし』で見えなくなっているのかも。

 だけど、桂馬君が私を呼んでくれたのに、見えなくなる必要は無いはず……う~ん、考えていても仕方ないよね。

 

(ま、まずはインターホンを……!)

 

ピンポ~ン……

 

 いつものように、私は桂馬君のお家のインターホンを鳴らした。もし、これで桂馬君が出て来てくれなかったら……ど、どうしよう?

 

『よくいらして下さいました! 鮎川天理様ですね!』

 

「ひゃあっ!?」

 

 突然、どこからかは分からないけど……大きな声が響いた。聞いたことが無い声……誰なの……?

 

『桂木桂馬様が特別室でお待ちしています。さぁどうぞ! 中にお入り下さい!』

 

「……!」

 

 ドアがひとりでに開いた。でも、中には誰もいない。ということは……これも桂馬君のひみつ道具?

 

「……お、お邪魔……します……」

 

 ここで立っていると、よく分からない声がまた響いてきそうだから……私は中に入った。すると……いつもの桂馬君のお家とは思えないほど……

 

「な、何これ……!?」

 

(天井に、ミラーボール……!? それに、凄く明るい音楽が……!)

 

 賑やかで、楽しい雰囲気になってる……間違いないよ。桂馬君、新しいひみつ道具を使ったんだ……!

 

『スリッパをお履き下さい!』

 

「あ……」

 

 どこからともなく、スリッパが生き物のように動いて、私の前に現れる。えっと、これ……履いて良いんだよね? じゃ、じゃあ……

 

「……ひゃうっ!?」

 

 スリッパを履いた途端、足が勝手に高く跳び上がる。ど、どうなってるの!? まるでスキップしているみたい……!

 

『おやおや? ここが楽しくてスキップしていらっしゃるんですか。嬉しい限りですねぇ~!』

 

「あ、あわわわ……」

 

 で、でも……確かに、何だか本当に楽しい気分になってきたかも……突然のスキップはびっくりしたけど、今はむしろ……体が跳ねるようで……!

 

『足元にお気をつけてお上がり下さい!』

 

「え? あ、階段……わっ!」

 

 いつものように上がろうとすると、階段が光りながら音を出す。今のは……ドレミの音?

 

『メロディ階段でございます。踏む度にドレミの音が流れますよ』

 

「……本当だ。1段上がるごとに、音が鳴って……!」

 

『でしたら、このようなサービスも致しましょう!』

 

「……!」

 

 壁から、私が知っている曲が流れてくる。それに、どの曲も……明るくて、楽しい曲ばかり。もしかして、桂馬君が使ったひみつ道具って……家の中を、楽しくする道具なのかな……?

 

『こちらの部屋でございます』

 

「……え?」

 

 階段を上がり、桂馬君の部屋に入ろうとすると……その隣に、見覚えの無い『赤いドア』が目に入った。

 あれ? ここって、隣に部屋は無かったはずだけど……ううん、きっと……このドアも、桂馬君のひみつ道具なんだよね?

 

「……は、入るね? 桂馬君……」

 

(きっと、部屋の中も凄く楽し……あ、あれ?)

 

 恐る恐るドアを開けると……中は真っ暗闇だった。それどころか、音も全く聞こえてこない。

 

(えっと……ここで合ってるよね……?)

 

 前が見えない不安を感じながらも、私は部屋の中を進んで行く。その先に、桂馬君がいるはずだから……でも、その瞬間……

 

バタン……

 

(えっ!? ど、ドアが……な、何も見えないよ……!)

 

 ドアがひとりでに閉まってしまい、私は暗闇の中に置き去りにされてしまう。ど、どうしよう!? 右も左も見えないし、自分の体すら見えないよ! け、桂馬君……どこ……どこなの……!?

 

「~♪」

 

「……?」

 

 見渡す限りの黒い世界で慌てていると、どこからか声が聞こえた。これって……歌? それに、どこかで聞いたような……

 

「~♪ ~♪」

 

「あ……!」

 

(これって……お誕生日の時に歌う曲だ……!)

 

 幼稚園で、皆のお誕生日をお祝いする時に……いつも全員で歌った歌。聞こえてる歌声は、凄く綺麗だけど……どうして急に……

 

「「~♪」」

 

「……?」

 

(あれ? 声が増えた……?)

 

「「「「「「~♪ ~♪」」」」」」

 

「わ、わわっ……!?」

 

(声が沢山……! が、合唱みたい……!)

 

「「「「「「――天理」」」」」」

 

「……!」

 

(い、今……私の名前……!)

 

バッ……!

 

「う……っ!」

 

 辺りが突然輝き出して、思わず眩しさで目を閉じる。しばらくして、恐る恐る目を開けると……

 

「天理! お誕生日おめでとう!」

 

「「「「「おめでとー!」」」」」

 

「け、桂馬く……んううううっ!?」

 

 えええええっ!? ど、どうして桂馬君が6人もいるの!? どうなってるの!? もしかして私、眩しさで目がおかしくなっちゃってるの……!?

 いや、それよりも……この部屋、幼稚園のホールより広いよ!? 桂馬君の家の大きさより広いよね!? それに大きな看板で『天理! お誕生日おめでとう!』って書かれてる!?

 しかも()()()()や私が立っている場所……家の中じゃなくなってる!? ど、どこなの……!? 

 

「驚いた? さっきのコーラス、凄かったでしょ」

 

「け、桂馬君が6人……それに、へ、部屋が……広くて、凄くて……!? あ、あうぅ……」

 

「……これは間違いなくパニックになってる」

「サプライズにしても驚かせ過ぎじゃないのか?」

「普通の幼稚園児なら何も考えずに喜ぶかもしれないけど、天理は頭が良いんだぞ? そりゃ混乱するだろ」

「言ってもそのサプライズを考えたのは俺だけどな」

「確かにそうだけども」

「つまり俺達を生み出したオリジナルが悪いと」

「でも俺達も元は同じ1人の人間じゃないか?」

「ってそんなこと言ってる場合か! まずは天理に説明するのが先だろ!」

「「「「「ハッ!? そうだった!」」」」」

 

「…………」

 

 あ、頭がフラフラするよぅ……桂馬君が、すっごく増えてて……部屋が広がってて……その部屋も、すっごくなってて……

 

「「「「「「天理! ごめん! 実はこれ、天理の誕生日を祝おうと考えたサプライズなんだ!」」」」」」

 

「……え? サプライズ……?」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「……という訳なんです、はい」」」」」」

 

「……そう、だったんだ」

 

 桂馬君が言うには、私の誕生日を祝う為に色々と準備してくれていたらしい。でも、普通に祝うだけだとつまらないから……あえて私に内緒で。

 そして私がこの部屋に入ったのを見計らって、お誕生日の歌とひみつ道具で私を驚かせようとしたら……私が予想以上に慌てて、サプライズどころじゃ無くなったみたい。

 

「ご、ごめんね? その……私のせいで……」

 

「「「「「「そんなことない! 悪いのは俺だよ!」」」」」」

 

「ひゃうっ!?」

 

「「「「「「あっ、ごめん! これだとうるさ……おい! 天理が怖がってるだろ! まず静かに……あぁもう! 同じタイミングで話すなって!」」」」」」

 

「…………」

 

 ろ、6人の桂馬君が一斉に話してる……凄い光景……まるでアニメみたい……これも、ひみつ道具なのかな……?

 

(とりあえず、まずは1人に戻ろう。このままだと、天理も話しづらいだろうし……)

 

「……ほいほいっと」

 

「あ……」

 

 1人の桂馬君が『小さいとんかち』を出して、他の桂馬君達を叩いたら……桂馬君達が、1人の桂馬君の中に入っちゃった。

 

「えっと、今使ったのは『分身ハンマー』と言って、これで頭をコツンと叩けば、自分の分身を作り出すことが出来るんだ」

 

「分身ハンマー……それで桂馬君が6人に……あれ? じゃあ今、他の桂馬君達が1人に合体したのは……」

 

「生み出した分身を元に戻したんだ。分身をこのハンマーで叩けば、自分の中に戻すことが出来るんだよ」

 

(……うん。分身が元通りになっても、やっぱり分身が経験した記憶までは引き継がれないか。その点は記憶の共有が出来る『コピーロボット』の方が上だな。

 でも他の道具と違って、生み出された自分が命令や指示を絶対に聞いてくれるところは分身ハンマーの方が使いやすいけど)

 

「す、凄いね……」

 

 これを使えば、大変なお仕事でも……自分同士で手分けしてこなせるかも。パパやママが欲しがりそう……

 

「じゃあ、さっきの歌声も桂馬君……なんだよね? 凄く上手かったけど……」

 

「うん。それはこの『能力カセット』を使ったからなんだ。このカセットには、マラソン選手や数学者、その他色々な仕事の名前が書かれてるんだけど……

 カセットをお腹に差し込むだけで、そのカセットに書かれた仕事の能力をそのまま身に付けることが出来る。今回は『歌手』のカセットを使って、プロ並みの声を聴いてもらおうと思ってね。

 でも、それだけだと面白味が無いから……分身ハンマーで俺を増やしてコーラスっぽくしてみようと思ったんだ。その結果がご覧の有様だったけど」

 

(アニメの桂馬は歌が下手だったからな。俺までそうなのかは分からないけど……どうせなら、天理には上手な歌を聞いてほしかったし……)

 

「それで……さっきは、びっくりしちゃったけど……桂馬君、凄く上手だったよ……!」

 

 本当に、さっきまでの桂馬君の歌声は……幼稚園の先生よりも綺麗だった。お店で流れる、歌手の人の歌よりも……!

 

「あはは……ありがとう、驚かせちゃったのは申し訳ないけど、歌を喜んでもらえたのは良かったよ」

 

「……うん。それと、さっきまで家の中が不思議なことになってたり……この広い部屋も……やっぱり、ひみつ道具だよね……?」

 

「うん。俺が用意したサプライズ。家の中は『家の感じ変換機』という道具を使ったんだ。これを使うと、家の中を色々な雰囲気に変えることが出来るんだよ。今回は天理の誕生日をお祝いしようと思ったから、『楽しい家』にしたんだ」

 

「楽しい家……だから、あんなに……」

 

「部屋は『ナイヘヤドア』という道具のお陰。見た目はただの赤いドアなんだけど、これを壁に貼り付けると、その中に新しい部屋が出来るんだ。

 でも、それだけだと俺の部屋と同じ見た目の部屋が出来上がるだけだから……別の道具を使って、部屋を思いっきり広げたんだよ」

 

「新しい部屋……? 広げる……?」

 

「この『次元ローラー』を壁に向けて転がすだけで、部屋をいくらでも広げることが出来るんだ。しかも外から見ても、家の大きさは変わらないままでね。

 そして広げた部屋に『万能舞台装置』を使ったんだ。ほら、向こうにオレンジ色の光ってる機械があるでしょ?」

 

「え? あ……本当だ……」

 

「あの道具が、この部屋を誕生日パーティ向けに作り変えてくれたんだ。これを使うと、部屋の中を自由自在に変えられる。俺が着ている衣装も、この道具が用意してくれたんだよ。

 それだけじゃなく、元々は劇をする時に使う道具だから、服だけじゃなくて色々なセットや道具、その他に必要な物も全部出してくれるんだ」

 

「…………」

 

 驚き過ぎて声が出ない。やっぱり桂馬君は凄いよ……! こんな不思議なことを、簡単にやっちゃうんだもん……!

 

「……でも、どうして新しい部屋を作ったの? 桂馬君の部屋を、そのまま広げれば……」

 

(うん、流石天理だ。普通の子供なら『そうなんだ! すごーい!』って流しそうなもんだけど、しっかり疑問を突いて来るな)

 

「実はね? この次元ローラーで広げた部屋を元に戻すと、広げる前より部屋が縮んでしまうんだ」

 

「そ、そうなの……!?」

 

「うん。だからこそ、こうやって新しい部屋を作っておけば……」

 

「あっ……いくら広げても、そして後で戻した時に縮んでも……他の部屋は大丈夫ってこと?」

 

「その通り! 天理は賢いなぁ!」

 

「……えへへ」

 

 け、桂馬君に褒められちゃった……! でも、私からすれば、桂馬君の方がよっぽど凄いんだけど……あ、それより……まだ聞きたいことがあったんだっけ。

 

「……そういえば、どうやって時間を止めたの? さっき私が家に入る前、急に周りが静かになったから、時間が止まったのは分かったけど……

 タンマウォッチだと私が桂馬君に触らないといけないし、ウルトラストップウォッチでも桂馬君の近くにいないとダメなんだよね?」

 

「…………」

 

(……天理が家に来たのを見計らって時間を止めたとはいえ、そこまで見抜いてたとは。4歳でこの洞察力って凄すぎない?)

 

「……す、鋭いね。確かに俺は時間を止めたよ。家をこんな派手にする訳だから、両親に見つかると大変なことになるし。だけど……実は今回、別の道具を使って時間を止めたんだ。ほら、これ」

 

「ピンク色の時計……?」

 

「うん。これは『狂時機(マッドウォッチ)』といって、時間を早くしたり遅くしたり、そして止めることが出来るんだ。

 いつもなら天理が言う通りタンマウォッチやウルトラストップウォッチを使うんだけど、今回は天理が俺の傍にいない状態で時間を止める必要があったからね。

 だからあえて、このマッドウォッチを使ったんだ。これはタンマウォッチやウルトラストップウォッチと違って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのお陰で俺と天理の距離が離れていても、俺達以外の時間を止めることが出来たんだ。時間を止める時に『俺と天理の時間は止まらないように』って決めておいたからね」

 

(この道具は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()からな。今回みたいな状況で時間を止めるには持ってこいだ。

 それだけじゃなく、天理を誘う時は両親がちょうどリビングでくつろいでいることをしっかり確認しておいた。家から追い出す訳にもいかないし、いくら時間を止めるとはいえ、仮に微動だにしない両親が廊下で佇んでいたら不気味だしなぁ)

 

「あ、それで……あれ? じゃあ、普段からタンマウォッチやウルトラストップウォッチじゃなくて、そのマッドウォッチを使えば良かったんじゃ……」

 

「え? あっ……」

 

「……桂馬君?」

 

「……ごめん。うっかりしてた」

 

「…………」

 

(あ、これはまた天理に呆れられたな……死にたい)

 

 ……ふふっ。そういうところもあるから、桂馬君と話しやすいのかも。きっと、桂馬君が何もかも完璧な人だったら……私、上手く話せなかったと思う。

 けど……そんな桂馬君でも、きっと……強くて、かっこ良いと思ったかもしれない。何となく、だけど……

 

「……え、えっと。じゃあ気を取り直して、天理に送るサプライズ誕生日パーティを続けたいと思います!」

 

「わ、わぁ~……!」

 

 桂馬君が舞台に上がろうとしているところを見て、私は拍手を送る。それにしても、凄い舞台……幼稚園の皆が全員集まっても、全然狭くなさそう。

 

「それではこれから私、桂木桂馬によるスーパーマジックショーをお送りします!」

 

「……!?」

 

 桂馬君の服装が、一瞬の内に変わっちゃった……! さっきまでは、歌手の人が着ているようなキラキラした服だったけど……今は黒い服に帽子……まるで、本物のマジシャンみたいな……

 

「それでは見ていただきましょう! 何と! 人が箱の中から瞬間移動してしまう!? そんな驚きのマジックです!」

 

パチパチパチパチパチ……!

 

「あ……!」

 

 部屋のあちこちから、拍手とかけ声が……もしかして、さっき桂馬君が教えてくれた家の感じ変換機のせい……?

 

「ではまず、こちらの箱をご覧下さい! どこをどう見ても、ただの箱にしか見えませんよね?」

 

「う、うん……」

 

「それでは、この中に私が入りましょう。そしてこの箱がナイフや刀で串刺しにされてしまいますが、見事脱出してみせます!」

 

「え……!?」

 

 桂馬君がそう言うと、沢山の刃物が浮かびながら箱の周りに現れた。それどころか、テレビでマジックをする時に流れる音楽が流れてくる。

 多分、万能舞台装置の効果だとは思うんだけど……ほ、本当に大丈夫なのかな……? 桂馬君、怪我したりしないよね……? いくら『お医者さんカバン』で治せるとしても、痛かったり苦しいことに変わりないもん……

 

「よいしょっと……これで準備完了。では箱を閉め、更に厳重に鍵をかけます!」

 

ジャラジャラジャラ……!

 

 桂馬君が箱に入って蓋を閉めた途端、どこからともなく鎖が巻き付いて、何重もの鍵がかけられた。そして同時に、フワフワ浮かんでいた刃物が箱を狙って……ま、まさか……!

 

グサグサグサグサグサッ!

 

「……っ!」

 

 全ての刃物が箱に刺さった。四方八方から、まるで箱というよりも桂馬君を狙っていたかのように。

 

「け、桂馬君……!」

 

 大丈夫。これはマジック。仮に本当にそんなことになっても、桂馬君なら絶対に大丈夫……頭ではそう考えていても、どうしても不安は消えない。

 ドキドキしながら、刃物が貫かれた箱を眺めていると……箱の後ろから、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「バァ~ッ! はい! 見事に脱出してみせました!」

 

「あ……! よ、良かったぁ……!」

 

パチパチパチパチパチ……!

 

 私が桂馬君の姿を見て安心した瞬間、周りから大拍手と明るい音楽が聞こえてくる。急に緊張と不安が無くなったせいか、体から力が抜けていく。

 それと同時に、桂馬君がやってみせてくれたマジックの凄さに興奮して……思わず周りに負けないくらいの拍手を送った。

 

「どう見ても、箱は鍵と鎖でガチガチに固められていますね? そして出入り口も、上の蓋しかありません。ご覧の通り、種も仕掛けもございません!」

 

「……す、凄い! 凄いよ桂馬君……!」

 

 きっと、ひみつ道具の力なんだろうけど……でも、見ていて楽しいことに代わりない。桂馬君が最初に見せてくれた、手品ふろしきを使ったマジックよりも……もっと感動したよ……!

 

(箱の中には刃物が貫通せず、尚且つ後ろに抜け穴が空くなんて……万能舞台装置、俺みたいな手品初心者でも何とかなるようにしてくれてるなぁ)

 

「沢山の拍手と喝采! いや~ありがとうございます! お礼にこんなマジックもプレゼントしましょう! それっ!」

 

「わぁ……!」

 

 そう言いながら、桂馬君は被っていた帽子を取り出して……勢い良く振りかざすと、中から鳩さん達が沢山飛び出してきた。パタパタと白い羽を羽ばたかせながら、部屋の中を飛び回っている。

 

「まだまだこんなものじゃありません! 続いては……えい!」

 

「わ、わぁぁぁ……っ!」

 

パチパチパチ……!

 

 桂馬君が帽子から杖を取り出したかと思うと、それを振るだけで綺麗な花に変えてみせた。思わず立ち上がって、桂馬君に力一杯拍手を送る。

 マジックって、やっぱり……凄い。こんなにも、見ている人を楽しませることが出来るんだ……! ううん、それだけじゃない。

 桂馬君は、私の為に……私の誕生日をお祝いしてくれる為に、ここまで……! 嬉しい……パパとママにお祝いしてもらうより、凄く嬉しいよ……!

 

「ふっふっふ。お楽しみはこれだけではありませんよ? 最後はこちら!」

 

「わ……! て、テーブル?」

 

 私の目の前に、一見普通のテーブルが現れる。でも、よく見ると『虹色のテーブルかけ』が敷かれている。

 

「これはマジックじゃなくて、ひみつ道具を使ったプレゼントだけど……天理。お父さん達から、誕生日ケーキは食べさせてもらった?」

 

「え? う、ううん。2歳や3歳の時に大きなケーキを買って来てくれたけど、3人じゃ食べ切れなかったから……今年は、買わないって……」

 

 パパとママからは、朝から誕生日を祝ってもらったけど……プレゼントを貰っただけで、ケーキは無かった。でも、それは私も分かってるんだ。大きなケーキを買って来てくれるのは嬉しいけど……本当に、食べ切れないから……

 

「そっか。なら安心だね。よーうし……天理のバースデーケーキ!」

 

ポンッ!

 

「きゃっ! え、あ、あれ……? ケーキが……!」

 

 桂馬君が叫んだと思うと、私の目の前に……ろうそくが刺さった、大きなケーキが置かれていた。でも、ついさっきまでは無かったのに……

 

「ふふ……そのテーブルに敷いてあるのは『グルメテーブルかけ』と言って、食べたい物や飲みたい物を注文するだけで、何でも出してくれるんだ。しかもどんなに高い料理をどれだけ出しても無料(タダ)! おまけに味も絶品!」

 

「…………」

 

 確かに、目の前のケーキは出来たてなのか、物凄く美味しそう……それに、ちゃんとろうそくが4本刺さっている。これって、私の歳だよね……?

 

「余りそうだとか食べ切れないだとか、その心配もいらないよ。いざとなれば俺が全部食べるから」

 

「え? でも、それは……」

 

「味に飽きたなら『味のもとのもと』をかければ良いし、満腹になっても『腹ペコおにぎり』を食べれば、いくらでもお腹に入るから大丈夫」

 

「腹ペコおにぎり……?」

 

 味のもとのもとは覚えているけど、腹ペコおにぎりは初めて聞いたよ?

 

「どれだけお腹が一杯になっていたとしても、そのおにぎりを一口食べるだけで、みるみる内にお腹が空いて……ご飯が食べたくて仕方なくなるんだ。これさえあれば、大食い大会でも優勝出来ると断言して良いくらいだよ」

 

(声優交代前の『ドラえもん』に登場したアニメオリジナルの道具だけど、このおにぎり、少し食べるだけでどんなに不味い物でも必死にガツガツ食べて『美味しい!』と叫ぶほど空腹になるからな。このケーキなら、恐らく5分もしない内に完食出来ると思う)

 

「そ、そうなんだ……じゃあ、安心……なのかな……?」

 

「そうそう。じゃ、天理。明かりを消すから、ろうそくを消して?」

 

 桂馬君がそう言った瞬間、私がこの部屋に入って来た時のように周りが暗くなった。でも、今はケーキに刺さったろうそくのお陰で、桂馬君の顔が見えるから……怖くない。

 

「……ふぅ~っ」

 

 ろうそくの火が消えて、辺りは暗闇に……なったと思ったら、すぐにまた明るくなった。きっと、桂馬君が電気を付けてくれたんだと思う。

 

「改めて……4歳の誕生日おめでとう、天理!」

 

「……ありがとう、桂馬君。私……すっごく、嬉しいよ……!」

 

(天理が笑顔になってくれた……! そうだよ、この笑顔が見たかったんだよ……! 喜んでくれて、本当に良かった……!)

 

 私と桂馬君はその後、2人で一緒にケーキを食べた。桂馬君が出してくれたケーキは、今まで食べたケーキの中で……1番美味しかった。

 桂馬君は『グルメテーブルかけが作ったケーキだから』と言っていたけど、それだけじゃない。きっと、桂馬君が私の為に用意してくれたケーキだから……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天理の誕生日を初めて祝ったあの日から、もう3年が過ぎた。あっという間だと思っていたら、本当に気がつかない内に幼稚園卒業の日になっていた。

 俺達は現在、幼稚園の卒園式に出ている。もちろんそれぞれの両親も参加しており、特に香夜子は誰が見ても分かるほど号泣している。まぁ、当然と言えば当然か。

 香夜子はかつて俺から未来を聞かされている。つまり、原作(本来)なら自分が(うらら)の晴れ姿を見ることさえ叶わなかったことを知っている。

 だからこそ、こうして(うらら)の卒園式に出席出来たことが……心の底から嬉しいんだと思う。俺も香夜子の立場なら号泣している自信がある。

 

『桂木桂馬君』

 

「はい」

 

 先生に呼ばれ、卒園証書を受け取りに行く。前世では……どうだったっけかな。現在と合わせて30年近く前になるので、はっきり覚えていない。

 せめて小学校の卒業式なら、今でも鮮明に覚えているのだが……おっと、感傷に浸るのは卒園証書を受け取ってからにしよう。ここで俺の歩みが止まって、うらら達に迷惑をかける訳にはいかない。

 

「ご卒園、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 幼稚園の卒園式を、ここまで自我が明確な状態で行うというのも……貴重な経験なんだろうな。普通の子供なら、余程強く印象に残るような出来事が無ければ……覚えていないだろう。実際に、俺がそうだから。

 

「桂馬……立派になっちゃって……!」

 

「流石は俺達の息子だ……!」

 

 両親がビデオカメラを構えながら、俺を録画し続けている。麻里はともかく、桂一がしっかり参加しているというのが……少し不思議な気分だ。

 原作ではほとんど姿を見せていなかった桂一だが、この世界では基本的に休日は家にいるし、行事も平日で無ければ必ず来てくれている。

 これも神様が言っていたパラレルワールドによる違いなのだろうか? まぁ、この程度なら原作の流れが極端に変わることは無いだろうけど。

 

「……ほ、ほらママ! 写真もしっかり!」

 

「もちろんよ……ぐすっ……桂馬の勇姿、しっかり残しておかないとね!」

 

 カメラで隠しているつもりだろうけど、俺は既に見抜いている。両親が俺を見ながら、少し涙目になっていることを。

 ……原作の桂馬も、これくらい両親から愛を注いでもらっていたのだろうか。そう考えると、何だか微笑ましくなってくる。

 それと同時に……前世の世界に残して来てしまった、()()()両親のことを思い出してしまう。前世の両親も、俺のことを……今の両親のように、大切にしてくれていたのだと思うと……うぅっ、出来るだけ思い出さないようにしていたのに……!

 

「……っ」

 

 麻里と桂一だって、今の俺にとっては大切な両親だ。心からそう思っている。精神年齢では、桂一はともかく麻里は俺より年下なのだが……それでも、育てて来てくれた親に変わりない。

 だが、今の俺がここに存在出来るのは……かつて前世で俺を産み、育ててくれた()()()両親がいたからだ。でも、もう会うことは出来ない。向こうの世界では、俺は……死んでしまっているのだから。

 

(……乗り越えなきゃダメだ。神様も言ってたじゃないか。元の世界には蘇生出来ないって)

 

 こうして第二の人生を歩むことが出来るだけでも、俺は非常に恵まれていると言えるだろう……それが例え、神様の気まぐれだとしても。

 だからこそ、俺はこの世界の人生を真剣に歩まなければならない。前世に未練を抱き続けるのは、神様が用意してくれた()()()()や……この世界の人々に対して失礼だ。

 何より、原作の桂馬が歩むはずだった人生を……望んでいなかったとはいえ、俺は横取りしてしまっている。だとしたら、せめて真っ当に生きなければ……原作の桂馬に合わせる顔が無い。

 

 

 

 

 

 

 

「……今日からこことも、お別れですのね」

 

「……そう、だな」

 

「寂しい、よね……」

 

 式を終え、俺達は3年間通い続けた幼稚園を眺めている。そういえば、最初に天理と会った時も……こんな感じだったな。

 桜が満開で、春の暖かな風が吹いていて……当時は新たに加わる者だったが、今は去って行く者の立場か……

 ちなみに俺達の両親は、向こうで子供の思い出話に花を咲かせている。もしくは、子供同士で話したいことがあるだろうと配慮してくれたのかもしれない。

 

「でも、うらら達は離ればなれになりませんわ。同じ小学校ですもの」

 

「……うん」

 

(まぁ、そこは原作通りだよな。うららが幼稚園時代から親しかった幼馴染っていうのは原作から盛大にズレてるけど)

 

「…………」

 

「…………」

 

 天理もうららも、お別れすることになった幼稚園を切なげに見つめている。名残惜しいんだろうな……2人共、毎日楽しそうだったし。

 

「……ケイちゃん」

 

「ん?」

 

「写真やビデオでも、今までの思い出は見られるけど……その中に、残ってない……楽しい思い出も、あったよね……?」

 

「……あぁ」

 

「だから……ケイちゃん。また、いつか……超能力で、うらら達の楽しかった時のことを……見せてくれる……?」

 

「……うららちゃん」

 

「…………」

 

 うららはきっと、ビデオや写真にさえ残っていない……普段の日常での思い出を、忘れないようにしたい……そう言いたいのだろう。

 

「……言ってくれれば、いつでも見せるさ」

 

 『後からアルバム』、『オモイデコロン』、『思い出再現機』、『タマシイムマシン』、『タイムテレビ』……思い出を懐かしむ道具なら沢山ある。

 もちろん、過去に囚われ続けることは良くないが……時には思い出に浸りたいと考えることは、誰にだってあるはずだ。俺だって、正にさっき……いや、考えるな。また泣きそうになるぞ、俺。

 だからこそ、天理やうららが望むのであれば……昔の思い出くらい、何度でも蘇らせる。俺にとっても、忘れたくない……()()()()()()大切な思い出だから。

 

「ありがとう……ケイちゃん」

 

「……ありがとう、桂馬君」

 

「……うん」

 

「……さて! 悲しい気分はもうおしまい! 今度は小学校に入ってから、どんなことをして遊ぶか考えますわ!」

 

「……いつもながら切り替え早いな」

 

「だってうらら、楽しいことが大好きだもん! いつまでも悲しい気分でいたら、お母様達に心配されちゃうもの!」

 

「……あははっ、そうだな。うららはいつも、どんな時もそんな感じだったよな」

 

「……くすっ」

 

 こういう時は、うららの天真爛漫振りに助けられるな。俺と天理だけなら、きっと家に着くまで……良くも悪くも、切ない雰囲気のままだっただろうし。

 俺達はそのまましばらく3人で話し続け、うららが車で帰ったことをきっかけに解散し、帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

「……桂馬君」

 

「ん?」

 

 お互いの両親が世間話をしている中、俺と天理は手を繋いで帰っている。あぁ、幸せだなぁ……

 天理と一緒にいられる幸福なひと時を過ごせるお陰で、俺は前世に対する悲しみを乗り越えられると言っても過言では無い。

 

「私達、小学生になるんだよね……」

 

「……うん」

 

「……()()()、言ってくれたこと……話してくれるの?」

 

「…………」

 

 ……忘れるはずが無い。4年前に、天理にひみつ道具のことを話し……同時に結んだ『約束』のことだ。

 

「……まだ」

 

「え……?」

 

「確かに、小学生になったら話すと言ったっけ。実際に俺も、1年生になったら……天理に話すつもりだよ。でも……入学式を終えてすぐ話す、という訳にもいかないんだ」

 

「……そう、なの?」

 

「……ごめん。でも、約束は絶対に守るから。多分……夏頃には、話せるようになると思う」

 

 そう。実際にドクロウを保護することになるのは……確か夏のキャンプの数日前だったはず。それまでは、まだ天理に打ち明けることは出来ない。

 ディアナとドクロウに俺の秘密を全て話し、理解してもらってから……3人で、天理に理解しやすく整理した形で伝えたいのだ。

 

「……うん、分かったよ。それまで……待ってるね?」

 

「……ありがとう」

 

「ううん、こちらこそ……」

 

 そんな話をしている内に、俺達は自宅に着いた。俺と天理は軽く挨拶をして、俺はまだ半泣きの両親と共に家に入った。

 両親から卒園祝いの言葉をかけられたり、卒園証書を見て泣かれたりしたが……それもある意味、思い出に残る出来事だ。

 

(……いよいよ原作に本格的に介入することになるのか)

 

 階段を上がりながら、俺は原作の過去編について考える。まず発生する事件……事件? 原作桂馬ではないが、ここはイベントと言った方が良いかもしれない。

 最初に発生するイベントは当然『ドクロウの保護』だ。そして本来は『うらら編』に突入するが……それは事前に解決しておいたので、いきなり『香織編』突入か。

 正直、香織についてはどう対処しようか迷っている。原作で桂馬が助けた以上、見捨てることは絶対にしないが……あいつ、桂馬に助けられても更生していなかったよな。

 それに話が通じる相手でも無いので、恐らく説得も無理だろう。ひみつ道具を使えば別だが、人の心を操るような道具は極力使いたくない。

 

(まぁ、そのことはゆっくり考えるとするか。ドクロウの保護も香織編も、4ヶ月近く先のことだし……ん?)

 

 ちょっと待てよ? 原作だと桂馬は()()()()()()()()()()()()よな? じゃあ俺はどうなるんだ?

 原作と違って、俺は生まれた時から未来の出来事を知りながら動いている訳で……まさか、10年後の俺が意識だけ遡ってくるのか?

 いやでも、そんなことする必要無いよな? 俺は元々原作知識があるし、過去編の出来事を()()()()()()として処理することが出来る。つまり『球』さえあれば良い訳で……

 だけど、未来の俺が遡って来ないのだとすると球はどうなるんだ? あの球が無いと、原作の未来に繋がらないんじゃ……

 俺は汗を流しながら、心の中で膨れ上がる不安を押し込みつつ、部屋に繋がるドアを開いた。すると……そこには、今抱いていた疑問を吹き飛ばす『物』が存在していた。

 

「……へ?」

 

 ちょ、え? あれって球だよな? 原作で桂馬が持たされた球だよな? 魔力で時間を戻すあの球だよな? 

 何でベッドにちょこんと置かれてるの? いや、置かれてるのはまだ良い。恐らく未来の俺が『タイムホール』とか『タイムマシン』を使ってここに置いたと考えればおかしくはない。

 もしくは未来のドクロウやディアナが上手いこと女神達を誘導して、球だけをこの場に送り込んだと考えることも出来る。

 でも待って。ちょっと待って。ドクロウの保護って夏だよな? 今まだ春だよ? 俺、小学生にすらなってないんだけど? 卒園したばっかなんだけど!?

 

ピカッ……!

 

「あ……光で行き先を指してる……」

 

 えーっと、つまりアレか? 俺は今から球に従ってドクロウを保護しに行くと? いや、保護は良いんだけどさ、時期が早すぎない!?

 

「……でも、球がここにあるってことは……今からやるしかない、のか?」

 

 とにかく、こうして球を発見してしまった以上、無視する訳にはいかない。俺はポケットから石ころぼうしと『タケコプター』を取り出し、すかさず装着する。

 そして球を握りつつ窓から飛び立ち、光で示された場所へ向かう。どうか……どうか原作からかけ離れた異常事態じゃありませんように……!




 次回から原作の過去編もとい小学校編がスタートです。
 天理の父親の性格・口調は捏造です。あの優しい天理の父親ですし、やっぱり穏やかな性格かなと。
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