俺が『神のみぞ知るセカイ』の主人公・桂木桂馬に転生して3年が過ぎた。
え? 時間が飛び過ぎだって? 何が悲しくて俺が赤ちゃんプレイに耐える数年間を述べなきゃならないんだ。
(……まともに歩けるようになるまでが長かった)
両足で立ち、普通に歩くことがこれほどありがたいことだとは思わなかった。
赤ん坊って、本当に1人では何も出来ないんだな……親の偉大さを改めて知ることが出来た。
……それ以上に恥ずかしさで死にそうだったけどな。
「……改めて現状確認するか。赤ん坊の時は、それすら出来なかったからな……」
原作の過去編が10年前、つまり桂馬達が7歳の時のはずだから、時間的にはまだ余裕がある。
今の内に、この世界のことや俺の転生のことを知っておかないといけない。
「まずは転生時の特典。神様は、有名で応用が効く能力だと言っていたが……」
そう言いながら、ズボンのポケットに手を突っ込む。すると明らかにポケットの容積以上に広い空間が広がっており、俺は『あるアイテム』を掴む。
そのまま手を引っ張り出すと、俺が思い浮かべた『道具』が握られていた。
「……これは確かに有名で応用が効くよな。ありがとう神様」
俺が神様から与えられた能力……それは『ドラえもんのひみつ道具』。
日本人なら誰もが知っている国民的漫画作品で、尚且つ誰もが知っている主人公・ドラえもん。
それでいて彼が取り出す道具の効果は最強クラスと、まさに三拍子が揃っている。
「1歳くらいの時、たまたまポケットに手を突っ込んで『タケコプター』が出てきた時は叫びそうになったな……」
両親、特に原作本編に関わる母親に見られると間違いなく面倒なことになるので、当時はすぐポケットに押し込んだ。
そして今のズボンのポケットでも道具を取り出せることから、服は関係無く、俺が手を突っ込んだポケットが全て『四次元ポケット』になるらしい。
更に、出した道具は頭の中で使い方が自然と思い浮かぶ。必要な道具もポケットがある程度選別してくれるようだ。
「……融通を利かせてくれたのかね、神様は」
子供の頃『ドラえもん』をそれなりに読み込んでいたとはいえ、流石に全ての道具を完璧に把握しているわけでは無い。だからこそ、このポケットの仕様は非常にありがたい。
少なくとも、道具を出したは良いが使い方が分からず慌てている内にやられる、なんて事態は避けられる。
そして今は両親が眠っている深夜。色々なことを試すにはちょうど良い時間帯だ。事前に昼寝をたっぷりしておいたので、眠気も全く無い。
「……まずはこの道具で、俺の認識と事実のズレを修正するか」
俺が取り出した道具は、大長編『竜の騎士』に登場した『○×占い』。この道具に向かって質問をすれば、○か×で答えを出してくれる。
その的中率は100%。もはや占いと言うより事実確認機とでも言った方が良いかもしれない。
ただし質問の仕方によっては答えに違いが出ることもあるので、正確な質問を心がける必要がある。
「それじゃ……この世界は、俺が読んだ漫画作品『神のみぞ知るセカイ』と非常によく似た世界か?」
『ピンポーン!』
「まぁこれは当たり前だよな。俺が桂馬なわけだし。じゃあ次、俺が持つひみつ道具は原作に存在する道具だけか?」
『ブブー!』
「なるほど。じゃあアニメや映画限定のひみつ道具も含まれている?」
『ピンポーン!』
「……バトル漫画の世界ならともかく、この世界だと過剰過ぎる能力だな。よし次。ひみつ道具の効果はこの世界の悪魔や女神、その他の存在に例外なく有効か?」
くどい聞き方ではあるが、しっかり質問して確実な答えを知っておかないと安心出来ない。
道具の効果を過信して油断したところを突かれ、怪我したり殺されるなんてまっぴらごめんだからな。
『ピンポーン!』
「よし次。世界全体に影響を及ぼす道具を人間界で使用した場合、天界や地獄にも影響を及ぼすか?」
『ピンポーン!』
「……仮に『タンマウォッチ』で時間を止めれば、人間界だけじゃなく天界や地獄の時間も止まると?」
『ピンポーン!』
「…………」
ひみつ道具ヤバ過ぎ。使い方を間違えると簡単に世界が滅びるな。原作みたいに悪魔の暴走で世界が危機に陥るならまだしも、俺のせいで世界滅亡とか冗談じゃない。
「次。俺が平凡な日常を過ごすと人間界は滅亡するか?」
『ピンポーン!』
だろうな。俺が一般人ならともかく、原作主人公の桂馬となるとそうはいかない。
原作で桂馬がやったことを俺がしなければ、間違いなくサテュロスの兵器召喚からの人類滅亡まっしぐらだろうし。
例え兵器の正体が原作通り人畜無害なエルシィだとしても、あれは桂馬と触れ合ったからこそのエンディングだ。
俺が何もしないままでは、エルシィが我を失って暴走する可能性も無いとは言い切れない。
「俺が何もしないままでは、原作のキャラクター達は原作以上に不幸になるか?」
『ピンポーン!』
「……俺が問題解決に動けば、人間界滅亡を防げるか?」
『ピンポーン!』
「俺が動けば原作キャラを不幸から救える?」
『ピンポーン!』
「人間界を守る為には、俺が動くしかない?」
『ピンポーン!』
「地獄や天界を守る為には、俺が動くことが必要?」
『ピンポーン!』
「…………」
やっぱり俺が原作に介入することは必須か……でも、意図していなかったとはいえ、桂馬の体を乗っ取ったことになるわけだし……
一般人なら『俺は関係無い』の一言で済ませられたかもしれないが、今の俺だとそうはいかない。流石に俺の我儘で原作キャラが不幸になるのは……嫌だ。
「……よし、次。この世界は俺が原作の桂馬と同じ方法で問題を解決すれば、原作と同じ歴史になるか?」
『ブブー!』
「うっ、じゃあ俺の原作知識はこの世界だと全く役に立たない?」
『ブブー!』
「俺が原作知識を使って行動すれば、この世界の原作キャラ達の問題を解決出来る?」
『ピンポーン!』
「……原作の桂馬ですらどうしようも無かった不幸も、ひみつ道具で救うことが出来る?」
『ピンポーン!』
「…………」
これは……完全に原作通りとはいかないが、原作知識とひみつ道具を上手く組み合わせれば何とかなるということか? 思った以上に責任重大だぞ……プレッシャーに耐えられるか、俺……
「……それでも、やるしかないか」
エルシィ達はもちろん、何より天理が不幸になるのは絶対にダメだ。
俺が一般人として転生したなら、桂馬と天理が結ばれることを細々と応援するだけのつもりだったが……
桂馬に転生してしまった以上は、天理のことを何が何でも守ってみせる。1番好きなキャラだし。
ただ、俺は原作の桂馬ほど頭は良くないし、ゲームの知識もあまり無い。それでも、ひみつ道具と原作知識を活かせば何とかなることは○×占いが保証してくれた。これほど心強いものは無い。
「って、まずは天理と仲良くなることから始めないとだよな」
俺はまだ3歳。過去編が始まるのは4年も先だ。原作では確か、桂馬と天理は幼稚園時代からの幼馴染だったはずだが、この世界でも同じ幼稚園とは限らない。とはいえ、最低でも小学校時代からは友達になっておきたい。
……少なからず下心があることは否定しない。でも、天理を守りたいという気持ちは紛れも無く本物だ。
「よし。天理はいずれ顔を合わせるとして……最初にどうにかしないといけないのは
俺は○×占いをポケットにしまい、代わりに別の『道具』を取り出す。手に握られているのは、分厚い辞書のような道具。しかし中身は紙では無く、色々なボタンが付いた機械。
その名は『宇宙完全大百科』。この世全ての情報が詰め込まれた、言わばアカシックレコードのような道具だ。
知りたい情報を入力するだけで、単語の意味から個人の人生まで、何から何まで教えてくれる。
プライバシー保護の概念などありもしない道具だが、悪用する気は無いので問題無い……多分。
「……白鳥うららの母親が駆け魂に狙われるのはいつ?」
俺の質問を感知した大百科が、即座に情報を画面に映し出す。多大な量の情報なら紙に印刷することも出来るが、今回は画面に表示される情報だけで十分だ。何せ、俺が求めているのは……
『200×年 ○月○日 ×時×分×秒』
うららの不幸を回避出来る日付と時刻だけなのだから。
出来る限りマニアックなひみつ道具を出していく予定です。