天理にドクロウのことを話した翌日、俺達は案の定白鳥家にお呼ばれしていた。もちろんドクロウも一緒だ。
記憶復活後ならともかく、今のドクロウを1人にしておくのは不味い。こうなることを考えて、天理には『ドクロウは俺の親戚で従姉妹』で通すと話しておいた。
もちろんドクロウ本人にも言い聞かせておいた。記憶が無いとはいえ、俺やエルシィのように迂闊な発言や失言はしない……と思う。多分。
「……桂木由梨です」
「へぇ~、ケイちゃんの親戚ですの!」
「わぁ~! 背がおっきい!」
(……大人のお姉さん?)
「あぁ。訳あって一緒に暮らすことになった。仲良くしてあげてほしい」
名前についてはかなり悩んだが、やはり本名を教えるのは不味いと思いドクロウには偽名を名乗ってもらうことにした。その偽名も小一時間考えたが、原作をベースに少しアレンジした『桂木由梨』にした。
いずれドクロウは『二階堂由梨』として、俺のクラスの担任教師となる。ここで偽名の苗字を『二階堂』にしてしまうと、美生や結がドクロウだと気づいてしまう可能性がある。
うららは……多分違う学校だろうし問題無いか。そもそも気づいたところで原作の流れが大きく変わることは無いだろうけど、それでも出来るだけ原作の流れを崩さない方が良いはずだ。
名前が同じなだけで苗字が違えば、流石に『二階堂由梨』と『桂木由梨』が同一人物と気づくことも無いだろう。今のドクロウと比べて見た目や雰囲気は結構違っているし。
仮に美生や結が既視感を覚えたとしても、その時はドクロウに人違いであると誤魔化してもらえば良い。俺や天理に尋ねてきても当然誤魔化す。こうしておけば流石に美生と結も、ドクロウとは別人だと思い込むだろう。
「……桂馬君。ドーちゃんの偽名のこと、桂馬君のパパとママにバレちゃったりしないかな……?」
天理が小声で俺に話しかけてくる。確かにその危険性は俺も考えた。息子の友達が、自分達の子供の名前を間違って覚えていたら、恐らく大抵の両親は訂正するだろう。
「大丈夫。うらら達は俺の両親と直接話す機会はほとんど無いし、香夜子さん達には両親に黙っててもらうようお願いしておくから」
実際にうらら達自身が俺の両親と直接会話することは皆無である。俺と天理を白鳥家に迎えに来る時も、うららは家で待っていることが多いからな。
「それにしても、ケイちゃんの超能力を知ってるなんて!」
「こうしてうらら達と遊ぶ以上、1人だけ除け者にするのは可哀相だからな。それに従姉妹だと隠しててもバレそうだし」
「なるほど!」
「確かにそうかも……」
余計な混乱を防ぐ為にも、うらら達にはドクロウにひみつ道具もとい超能力についてを知らせてあると伝えておいた。
ただしドクロウには予め、うらら達にはひみつ道具のことを正確には伝えておらず、あくまでも超能力と誤魔化していると話しておいた。
でも、いずれは超能力という言い訳も厳しくなってくるかもしれないな……やはり別の言い訳を考えておいた方が良いかもしれない。
「で、今日は何して遊ぶの?」
「お空を飛ぶのも良いけど、たまには違うことをして遊びたいですわ!」
「違うこと……?」
「ケイちゃん! 何か面白い超能力は~?」
(また俺任せかよ! いや、変に無茶振りされるよりはマシだけどさ)
(桂馬君、いつも大変だなぁ……)
「……どうするの? お兄ちゃん」
「そうだな……試しに『アレ』を使ってみるか」
俺は小声でドクロウに話しかけつつポケットから『マッドウォッチ』を取り出し、この部屋以外の時間を止める。
続けてポケットから『見た目が香水のような道具』と『片付けラッカー』を取り出す。ただし天理とドクロウ以外には見えないよう隠しながら。
「片付けラッカーは分かるけど……これって、化粧品……?」
「……何それ?」
「説明するよりまずやってみせるよ」
早速『香水のような道具』に片付けラッカーを吹き付けて見えなくする。そしてラッカーはポケットにしまい、見えなくなった『道具』を床に吹き付ける。
俺の手から薄ピンク色の煙が出ている光景は中々シュールだが、うらら達は特に疑問を抱いているようには見えない。むしろ目を輝かせている。
「これで良し。うらら、ここでジャンプしてみて」
「ジャンプ……? こう? きゃっ!?」
うららがその場でジャンプして着地しようとすると、
「体が飛び跳ねますわ~!?」
「桂馬、これって……」
「床をトランポリンみたいにしたんだ。空を飛ぶのとは、また違った面白さがあると思って」
「あははははっ! 楽しい~!」
「よ、よーし! 美生も……わっ! 本当だ! 跳ねる跳ねる~! 結もやってみたら~!」
「……え、えいっ! きゃっ!? あっ、ひうっ!?」
うららに続き、美生と結も床の上でピョンピョン跳ねていく。これこそが、先程出した道具の効果だ。
「桂馬君。これ……さっきの香水のせい……?」
「その通り。あれは『トランポリンゲン』と言って、吹き付けた物が何でもトランポリンみたいに弾むようになるんだ」
「それでうららちゃん達……あんなに跳ねて……」
『トランポリンゲン』……このスプレーを吹き付けられた物は、床でも壁でもトランポリンのように跳ねるようになる。
今回のように、床に吹き付ければ室内をトランポリンに変えることが出来る。それだけではなく、人間に吹き付けると場所に関わらずどこでも体が弾むようになるのだ。
ちなみに、体がトランポリン状態になっている間は他の物にぶつかっても、あるいは誰かに殴られても痛みは無く、それどころか余計にポンポン跳ねるようになる。
効き目が持続する時間は不明だが、しばらく遊んだ後に『復元光線』を床に当てて元に戻せば解決だ。こういう時は『タイムふろしき』より復元光線の方が手軽で便利だな。
「ケイちゃんも一緒に跳ねよ~!」
「ほら~! 天理も~!」
「ゆ、由梨さんも……ひゃあ!?」
「……うらら達から直々に指名されちゃったし、俺達も遊ぼっか?」
「そうだね……ふふっ」
「うん」
その後、俺達はうらら達の気が済むまで床を跳ね続けた。時間が止まっているお陰で、うらら達は思う存分楽しんでくれたみたいだ。
時間を止めていなければ、定期的に誰かが俺達の様子を覗きに来る。それが香夜子や爺さんならまだしも、柳や使用人達だと面倒なことになりかねない。
そういう意味でも、時間を止めておいた方が安心して遊べる。皆に『石ころぼうし』を被せても良かったが、これだけ激しく跳ねると途中で脱げてしまいそうなので今回はやめておいた。
何はともあれ、この1日でドクロウはうらら達とそれなりに仲良くなった……と思う。特に感想を言ってくれた訳ではないが、嫌そうな顔はしていなかったし。
そんな日々を過ごしていると、あっという間に入学式の日がやって来た。俺や天理、うららが通うのは原作通り『舞島東小学校』だ。
美生と結は流石に違う学校に通うことになった。2人共、俺や天理と同じ学校に通いたかったと言ってくれていたが、こればかりは仕方ない。
幼稚園の時に比べると、少しだけ凛々しくなった子供達が行進している。とはいえ、やはりまだまだあどけない子供だ。ほんの1ヶ月前までは幼稚園児だったもんな。
「桂馬~! 制服姿がイカしてるぞ~!」
「ほら桂馬! こっち向いて~!」
「天理~! こっちよ~!」
「どの娘と比べても天理が1番可愛いな!」
「うららー! こっちだこっちー!」
「うらら……立派になって……」
「…………」
「うらら様! ご立派です!」
「お父様! お母様! お爺様! それに柳まで!」
「……自重しない両親達だな」
「あはは……」
相変わらずのテンションでビデオカメラを掲げている俺達の両親。特に白鳥家は使用人まで駆け付けているせいで、これでもかとばかりに目立ちまくっている。
幸いうららはノリノリで手を振っているので微笑ましい光景になっているが、思春期の娘だったら……かなりキツいよなぁ、これ。
ただし香夜子だけは半泣きでビデオカメラを構えている。卒園式同様、本来なら見ることが叶わなかった光景だと知っているからだろうな。
天理はもう慣れたのか、少し苦笑しているだけだ。俺はそもそも精神年齢がアラサーなので、単に一歩引いた立場で見ることが出来ているだけだが。
「……お兄ちゃん。これ……」
両親達の行動を見ていると、
え? どうしてドクロウが俺達と同じ場所に立っていられるのかって? もちろん、これもドクロウに使った『道具』のお陰だ。
「……ごめん。君が学校にいる時は、常に『それ』を付けていてほしい」
以前『仲間入り線香』で桂木家の家族にしたドクロウだが、両親以外には線香の効力が及ばない。すなわち、ドクロウはこの小学校の新入生とは登録されていないはず。
しかし両親には『子供』と認識されてしまっている。その上、何歳として扱われているかも分からない。そこで『ある道具』を使って対処することにした。
「……桂馬君。他の人からは、ドーちゃんが皆と同い年の子に見えてるんだよね?」
「うん。『なりきりプレート』を首からぶら下げている限りはね」
俺は事前に用意しておいた『なりきりプレート』をドクロウに付けてもらっておいた。プレートには『舞島東小学校の1年生』と書かれている。
このプレートに、誰かなりきりたい者の名前を書いて首から掲げていると、書かれた者になりきることが出来る。
より正確に言えばプレートを掲げている者が、周囲の人間からはプレートに書かれた名前の者として扱われるようになる。
ただしなりきるとは言っても周りからの認識が変わるだけなので、書かれた者の能力までは身に付かない。例えばプレートに『スーパーマン』と書いた場合、悪人を怖がらせることは出来ても、プレートを掲げている本人の身体能力は普段と変わらないといった感じだ。
こうしておくことで、ドクロウは両親からはもちろん他の人々からも『舞島東小学校の1年生』として扱ってもらえるようになる。言わば俺達の中に溶け込めるのだ。
普段の学校生活はもちろんのこと、参観日や学校行事の時でも誰1人違和感を覚えることなくドクロウが俺の傍に付いていることが出来る。
本当はプレートを片付けラッカーで見えなくしておきたかったが、それだとプレートの効果が無くなりそうなのでやめておいた。
一応、周りの人々がプレートの存在を認識することは無いので、大丈夫と言えば大丈夫だが……ちなみにプレートのことを話しておいた天理には効果が無い為、ドクロウへの認識はいつも通りのままだ。逆に事情を知らないうららはドクロウだと全く気がついていないみたいだが。
(……流石に香織はいないか。恐らく顔を合わせるのは初登校の日だろうな)
軽く周りを見渡してみると、目に入るのは校長先生や教職員、俺達のような新入生と保護者ばかりで、在校生の姿は見当たらない。
中学校なら生徒会役員の子供達が出席しているだろうけど、まだ小学生の子供に生徒会の仕事は難しいもんな。在校生達は普通に春休み満喫中らしい。
「この度は皆さん、入学おめでとうございます。さて、今日から皆さんは晴れて小学生となり……」
最早お約束とも言える校長先生や他の人々の長い話を聞き流しつつ、俺は天理との『約束』について考える。
天理やドクロウ達には転生してきたことを伝えるつもりではあるが、問題は
異世界の神様からひみつ道具を与えてもらい転生したことは話しても問題無い……いや、ある意味問題だらけだが、天理達に話せない内容では無いだろう。
だが、ひみつ道具や転生以上に……安易に伝えるのは危険な情報がある。俺が持っている
『原作』についてを話せば、間違いなく原作の歴史が大きく変わってしまうと断言しても良い。すなわち、俺が最も恐れている事態……原作知識が役に立たなくなるほどの原作崩壊を引き起こしてしまう。
もちろん、ドクロウ達には黙っていてもバレないだろうし、リミュエルの時のように『タイムテレビ』で未来を見た等と言っておけば一応誤魔化すことは出来る。
しかし……天理にも同じ嘘をつくのか? 全てを話そうと誓い、約束まで交わした天理に……嘘をつくのか? いや、ダメだ。約束したからには、しっかり全てを話すべきだ。
だが、天理に話すということは……ほぼ確実にディアナにも伝わってしまう。だからといって、まさか今から天理に『原作』のことを話す訳にもいかない。
やはり伝えるとすれば地獄や天界、新悪魔についてを説明した後になる。ディアナは……何とか説得して、俺の方針を理解してもらうしかない。
ドクロウやエルシィ達には、全てが終わってから……原作で起こるはずの事件を全て解決してから話すことにしよう。そうすれば原作の流れを崩壊させてしまうことは無い。
「では、新入生の皆さんはこちらに! 教室へ案内しますね!」
(おっ、長々と考えている内に話が終わったらしい)
「はぁ……先生の話、長すぎますわ……」
「気持ちは分かるぞ、うらら」
「け、桂馬君……うららちゃんも……」
(先生……先生って、何……?)
俺や天理、ドクロウやうらら達は先生の指示に従って体育館を出て行った。後は教室で色々なプリントや道具を貰って終了だな。
入学式はなんてことない。問題は登校し始めてからだ。恐らく7月までは何も起こらないと思うが、香織の動向には警戒しておかないと。
彼女がいつ、どこで悪魔と契約を結ぶか分からない。よりによって彼女にひみつ道具の存在がバレてしまえば、それこそとんでもなく面倒なことになる。
それでいて彼女は頭が良い。あの原作桂馬ですら苦戦した相手だ。隙を見せてしまわないよう、学校でひみつ道具を使う時は徹底的に対策しておいた方が良さそうだ。