桂馬えもん 天理と神のみぞ知るセカイ   作:夢回廊

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第26話

 お兄ちゃんの口から発せられた『転生』という言葉……それはあまりに予想外で、私達2人はどう反応して良いか分からなくなる。

 確かにお兄ちゃんは、超常現象を簡単に引き起こせるひみつ道具(アイテム)を持っている。だからこそ、普通の人間では無いことは予想していた。

 けれど、その正体が『異世界からの転生者』だったのは流石に想定外だよ。いくらお兄ちゃんが話してくれていることでも、それは……

 

「……どういう、こと?」

 

「そのままの意味。俺は元々、こことは違う世界で生まれ育ったんだけど……運悪く死んでしまった。かと思えば、とある神様が目の前に現れて……この世界に再び生を与えてくれたんだ」

 

『とある神様……まさか、ユピテルの姉妹か?』

 

「いえ、違います。この世界に存在する神々とは、全く持って違う異世界にいる神様……だと思います。俺も正確には分からないんですが、少なくともユピテルの姉妹で無いことは確かです」

 

「『…………』」

 

 私達でさえ把握出来ていない、異世界の神……そんな得体の知れない存在が、お兄ちゃんを転生させた……? ますます訳が分からなくなっていく。

 

『……単純に、前世の記憶を保持している……という訳では無いのだな?』

 

 地獄にいる私がお兄ちゃんに投げかけた質問の意味……()()()だからこそ意味が分かる。向こうの私が活動している地獄……冥界では、死者の魂を保管し、浄化した上で天界に送り届けている。

 浄化するとは言っても、稀に浄化が不完全なまま天界に送り込まれてしまうこともある。その魂が、再び人間に与えられると……前世の記憶が残っていたり、何かの拍子で蘇ることがある。

 でも、そんなことは本当にレアケースで……仮にお兄ちゃんが話していることが真実であると仮定したら、魂の浄化不足による前世の記憶保持という前提は崩れ去ってしまう。

 何故なら、前世の記憶を持っているだけなら……『異世界の神から転生させて貰った』等という話が飛び出てくるはずが無い。せいぜい、前世で歩んだ人生の記憶か、冥界や天界で魂を弄られた記憶を持っているだけのはずだから。

 

「……はい」

 

「じゃあ、本当に……別世界の神様の力で……?」

 

「そういうことになる。そして、こっちのドクロウは既に知ってると思うけど、俺が普段使っているひみつ道具も……神様から与えられたものなんだ」

 

「えぇっ!?」

 

 お兄ちゃんの言葉に、私は再び驚愕する。ずっと不思議に思っていた、ひみつ道具の正体が……まさか、こんな形で明らかになるなんて……!

 もしかして、さっきお兄ちゃんが『後で話す』と言っていた秘密って……転生したことと、ひみつ道具の正体についての話だったの……!?

 しかもそれが『神様から与えられた』って……どこまで衝撃的事実を並べれば気が済むの? 私の頭が理解することを諦めそうになってきたんだけど……!?

 

『ひみつ道具?』

 

 地獄にいる私は、唐突にひみつ道具という単語が出てきたせいで首をかしげている。当然と言えば当然。だって、向こうの私にはまだ説明していないから。

 

「あ、すみません。こっちのドクロウには伝えてあるんですけど、そちらのドクロウさんにはまだ話していませんでしたっけ。

 こっちのドクロウにも改めて説明するけど……転生した後、すぐに死んでしまうことが無いように、1つだけ凄い力を与えられました。

 それが今言った『ひみつ道具』で、簡単に言うと色々なことを可能にするアイテムなんです。それこそ、普通の人間には不可能なことでさえ」

 

『……本当なのか? 我が分身よ』

 

「……うん。お兄ちゃんのひみつ道具……本当に凄いよ。今だって、ひみつ道具のお陰で……私達以外の時間が止まってるくらいだから」

 

『……は?』

 

「もしかして、まだ気がついてないの? 試しに部下や駆け魂隊に連絡を取って……いや、外を見て来た方が早いかも」

 

『……す、すぐ戻る!』

 

 地獄の私が渡航機の映像から姿を消した。私やお兄ちゃんが言ったことが本当かどうかを、部屋の外の様子を見て確かめに行ったのだと思う。

 

「……向こうのドクロウ、俺を味方だと信じてくれたら良いんだけど……」

 

「それは大丈夫だと思う。私の記憶と『球』の力が復活した時点で、お兄ちゃんは……向こうの私にとって、信頼に値する人だから。

 万が一、向こうの私がお兄ちゃんを疑うようなら……私も一緒に説得する。だから安心して、お兄ちゃん」

 

「……!」

 

(ドクロウ……)

 

『はぁっはぁっ……!』

 

 お兄ちゃんと話していると、息を切らした地獄の私が渡航機の映像に現れた。どうやら部屋の外を見て回って来たらしい。

 

「おかえり。どうだった?」

 

『……周りの悪魔達が全員止まっていた。声をかけても、体を揺すっても……何1つ反応しなかった。まさか、本当に君が……?』

 

「はい。この『道具』を使って、俺達以外の時間を止めました」

 

『……赤い懐中時計?』

 

「これは『ウルトラストップウォッチ』と言って、周りの時間を完全に止めることが出来る道具です」

 

『…………』

 

 地獄の私が絶句している。記憶を失っていた私でさえ驚いた程だから、地獄の私からしてみれば……頭の中が真っ白になっていると思う。

 

『……わ、我が分身よ』

 

「……何?」

 

『お前……とんでもない少年に助けられたな……』

 

「……うん」

 

 声が震え、話すことさえままらない程に動揺している地獄の私。でも、気持ちは分かる。私だって、事前に知らされていなければ……2人揃ってこうなっていたかもしれない。

 

『……け、桂馬君。どうして、その……時間を止めたのかね……?』

 

「ひみつ道具の情報が外部に漏れないようにする為です。このウルトラストップウォッチだけでも、サテュロスや正統悪魔社(ヴィンテージ)の手に渡ってしまえば……恐らく、あっという間に三界制覇されてしまうでしょう」

 

『っ!? ヴィンテージはおろか、サテュロスや三界制覇のことも知っているのか……』

 

「……はい」

 

「やっぱり、未来の私達から知らされて……」

 

 お兄ちゃんが球を持っている以上、何かしらの形で未来の情報を持っているはず。何故なら、それこそが地獄の私が考えた()()()()だから。

 

「……実は、そのことについても話がある」

 

「『え?』」

 

「俺は……未来から来た訳じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

「……!?」

 

『ど、どういうことだ!? 君はその球を持って、未来から遡って来たのでは無いのか!?』

 

「……神様は俺を、無作為に選んだ世界へ転生させたので……この世界がどんな歴史を辿るのか、最初は分からなかったんです。仮に世紀末のような荒廃した世界だとしたら、転生してすぐに死んでしまう可能性もあります。

 流石にそのような事態は避けたかったので、この世界が辿ることになるであろう未来を、事前にひみつ道具の『タイムテレビ』で調べてみたんです。あ、タイムテレビというのは過去や未来の、どんな場所でも見ることが出来る道具です。

 そして調べている内に分かったんです。サテュロスやヴィンテージが恐ろしい計画を企てていて、このままでは人間界どころか、地獄や天界を含めた世界全体が危機に晒されるということを。

 同時に、新悪魔やユピテルの姉妹等といった、三界制覇を食い止める上で重要となる人々の存在も知ったんです。そして人間界を守る為には、悪魔や女神の方々と協力することが必要不可欠ということも分かりました」

 

(リミュエルの時は転生についてを話せなかったから、不自然な説明になったけど……ドクロウ2人になら、俺が転生した事実を説明に組み込めるから、多少は説得力を持たせることが出来た……と思いたい)

 

『……なら、君が球を持っている理由は?』

 

「こちらのドクロウを保護した日、何故か部屋に置かれていたんです。最初は驚きましたが……恐らく未来の俺かユピテルの姉妹が、球だけをこの時代に送り込んだのだと思います」

 

「……現時点でお兄ちゃんが未来を知っている以上、未来のお兄ちゃんが過去に遡る必要は無い。ひみつ道具や女神の力で球だけを過去に送り込めば済む話……という訳だね」

 

「そういうこと」

 

 転生という言葉だけは未だに驚いているけど、それ以外は納得した。転生したにも関わらず、すぐに死んでしまったら話にならない。

 それに無作為ということなら、お兄ちゃんにとっては……ここは未知の世界で、本当に何が起こるか分からない。だとしたら自分の死を回避しようと動くのは当然と言える。

 でも、私のことだけじゃなく……まさかヴィンテージやサテュロス、それどころかユピテルの姉妹のことも知っていたなんて……

 

『……事情は分かった。正直、まだ理解が追いついていないが……何はともあれ、我が分身を助けてくれてありがとう。一歩遅ければ、こうして君が現れる前に……彼女は消滅していたかもしれぬからな』

 

「いえ……ん? 消滅?」

 

『そうだ。君は既に知っているのだろう? 私の体に染みついた残留魔法のせいで、分身を作り出すことに失敗したことを」

 

「……!?」

 

(えっ、何それ!? そんな設定、原作にあったか!? 初耳だぞ!?)

 

「……お兄ちゃん?」

 

「あ、そ、その……そこまで詳しい事情は知りませんでした。俺が知ってるのは、大まかな歴史や出来事だけなので……」

 

『そうなのか? なら、この際だから話しておこう。君が言っていたように、サテュロスやヴィンテージは三界制覇を実現させることを諦めていない。

 そんな中、私はある情報を得た。ユピテルの姉妹が狙われているという情報だ。この情報については……知っているか?』

 

「はい」

 

(ここは原作通りか……少し安心した)

 

『なら話は早い。情報を得た私は、サテュロスから女神達を守る為の秘策を考えた。それをいつ実行しようかと考えている中、数ヶ月前……奴らが行動を起こすかもしれないという話を聞きつけた。

 私は慌てて秘策を実行し、球と渡航機、番人(ドクロウ)を作り出そうとした。幸い、渡航機は無事に作り上げることが出来たのだが……番人と球は上手くいかなかった。正確には、作り出した時点で問題が起こってしまったのだ』

 

「問題?」

 

「…………」

 

 今の私なら理解できる。地獄の私の失敗……そのせいで、私は生み出された時に記憶喪失になっていた。それどころか、心の中も闇で覆い尽くされていた。

 

『君は……アルマゲマキナという戦争は知っているか?』

 

「……新悪魔と古悪魔(ヴァイス)の大戦争、でしたっけ」

 

『その通り。私はその戦争で、体に強い魔法を浴びてしまった。そのせいで、こんな骨だけの体になってしまったほどだ。元々は、我が分身のように美しく綺麗で……』

 

「……?」

 

(強い魔法? 戦争で骨の体になったのは知ってたけど……もしかして、原作で描かれなかった裏側の事情か?)

 

『っと、話が逸れたな。その魔法は非常に強力で、今でも私の()や地獄の地表に残っているほどだ。そして……その魔法は、分身にまで牙を剥いた』

 

「……!」

 

『私の体に宿っている魔力を使い、分身の肉体を構成しようとしたのだが……残留魔法が混ざってしまい、分身の意識が暴走してしまった。

 それどころか、分身と共に作り出した球にも魔力が宿らず……人間界に生み出した分身と、連絡さえ取れない状態となってしまった……』

 

「……残留魔法のせいで、私の記憶と意識は破壊された状態だった。それどころか、戦争のトラウマだけが刺激されて……生み出された直後の私は、自殺することしか考えていなかった」

 

「……そう、だったのか」

 

(原作でドクロウが全てに絶望して、自殺しようとしてたことには……そんな理由があったのか)

 

『渡航機は私の魔力を使うことなく、純粋に技術だけで作り上げたから無事に完成した。しかし分身と球は、私の魔力を使う必要があった為に……こんなことになってしまった。

 せめて地獄で分身を作り上げていれば、こうなることを回避出来たのかもしれないが……奴らの目を欺く為に、人間界で生み出してしまったことが失敗だったのだ。

 魔力による遠隔操作で、地獄から人間界に私の魔力を供給して分身の肉体を構成しようとしたのだが……それが災いし、私の体に染みついた残留魔法まで流れ込んでしまい、あのような結果となってしまった』

 

「……もう少しで、私は自分で自分の命を絶ち続けて……最期には、私の体そのものが消滅していたかもしれない」

 

「……!」

 

 いくら私の体が頑丈で、膨大な魔力が宿っていたとしても……自殺未遂を繰り返していれば、いずれは朽ち果ててしまう。いや、体より先に精神がやられていたと思う。

 心を破壊し尽くした残留魔法が、今度は私の肉体を食らい尽くし……肉体に注がれていた魔力の全てが失われ、私の肉体を構成出来なくなり……消滅していたかもしれない。

 

『だが、そこに……君が現れた訳だ』

 

「……俺が」

 

「そう。あの時、お兄ちゃんが来てくれたから……私は絶望の闇から抜け出して、正気を取り戻すことが出来た。お兄ちゃんが助けてくれたお陰で、今の私がある」

 

「…………」

 

『……もう一度礼を言わせて欲しい。我が分身を……人間の私を救ってくれて、本当にありがとう』

 

「お兄ちゃん、私を絶望から救い上げてくれて……ありがとう。貴方がいてくれたから、私は……」

 

「……ドクロウ」

 

(感謝されること自体は、凄く嬉しい……でも、その言葉を素直に受け止められない。俺がドクロウを助けたのは、原作の桂馬が助けたキャラクターだからに過ぎない。

 だから、俺は感謝されるような存在じゃない……けれど、それを伝える訳にはいかない。『原作』のことは、現時点でのドクロウ達には……まだ話すことは出来ない。

 でも、全てが終わってから……原作の事件を解決したら、何もかもを打ち明けると決めている。ドクロウには幻滅されてしまうかもしれないけど……それでも、俺は向き合わないといけない。

 望んでいたことでは無いにしろ、俺は原作桂馬の人生全てを奪う形で転生してしまっている。だからこそ、それくらいの罰は……受けて当たり前だと思うから)

 

『……私は、君の話を全面的に信じようと決めた。君は……桂馬君は、秘策を抜きにしても、我が分身の命の恩人だ。そのような人を信用出来ないようでは、新悪魔失格だろう』

 

「……!」

 

『何か困ったことや、して欲しいことがあれば……遠慮無く申し出て欲しい。全身全霊をかけて、君に協力すると約束しよう』

 

「……私も。お兄ちゃんはひみつ道具を使えるから、困ることは無いかもしれないけど……私に出来ることなら、何でも力になるから」

 

「……ありがとう。俺も、こうして関わったからには……人間界はもちろん、地獄や天界を救う為に……全力を尽くす」

 

 地獄の私は、お兄ちゃんを味方だと信じてくれた。それどころか、全面的に協力すると約束してくれた。良かった……お兄ちゃんが困るような事態にならなくて。

 もちろん私は、記憶を取り戻した時からお兄ちゃんの為に行動すると決めている。命を救ってくれた人に協力を惜しまないのは、当然のことだと思うから。

 

『ただ、こんなことを言うのは厚かましくて恐縮なのだが、球を持つ者である以上……桂馬君には、何としてでも女神を守ってもらいたい』

 

「分かってます。そのことも踏まえて、俺はこうして貴女達にひみつ道具や転生のことを打ち明けましたから」

 

『……そうか。本当に感謝してもし切れないよ。ところで、桂馬君が与えられたひみつ道具についてだが……具体的には、どのようなことが出来る?』

 

(時間を止める等という出鱈目なことを実現させているとなると……最低でも、ユピテルの姉妹が起こす奇跡と同等の現象を引き起こすことは出来そうだが……)

 

 確かに、それは私も気になっている。お兄ちゃんは『どこでもドア』や『取り寄せバッグ』といった空間に干渉する道具や、ウルトラストップウォッチのような時間に干渉する道具を持っている。

 お兄ちゃんがひみつ道具を本気で使ったとしたら、一体どれほどの超常現象を引き起こすことが出来るのかは、私もまだ知らない。どんなことを言われても驚かないよう、心の準備だけは……

 

「……その気になれば、何でも出来ます」

 

『……は?』

 

「何でも……?」

 

「うん。ドクロウにも、まだ見せたことが無い道具が一杯あるんだけど……ひみつ道具の中には無害で便利な物もあれば、そもそもが危険な道具、そして普通に使えば便利でも、使い方を間違えると危険な道具といった感じで、数や種類が沢山あるんだ」

 

『た、例えば……?』

 

「そうですね……まずは無害で便利な物から。『これ』です」

 

「あ、知ってる。『グルメテーブルかけ』だよね」

 

『グルメテーブルかけ?』

 

「このテーブルかけに食べたい物を注文するだけで、何でも作って出してくれるんです。味も絶品で、この道具さえあれば食べて生きていくことには困りません。それに美味しい食べ物を出すだけなので、むしろ悪用する方が難しい道具と言えます」

 

「うん。この前食べたご馳走も凄く美味しかった」

 

『……材料も何も無しに食料を生み出す技術は凄まじいが、確かに平和利用しか出来ない道具だな』

 

「次にそもそもが危険な道具を見せます。俺自身、絶対に使うつもりは無いんですが……『この道具』は特に危険ですね」

 

 お兄ちゃんはポケットから、『黒くて丸い物体』を取り出した。一見、ただの黒いボールにしか見えないけど……お兄ちゃんの道具だから、きっと凄まじい効果があるのかも。

 

『何だそれは?』

 

「これは『超高性能爆弾』と言って、スイッチを押すと惑星1つが木端微塵になる程の大爆発を起こします」

 

(声優交代後の『ドラえもん』に登場したアニメオリジナルの道具だけど、こんな危険物、本当なら出すだけでもヤバい代物だよなぁ……普段なら絶対に出さない道具だ。

 アニメでは一応『地球に隕石が迫って来た時、その隕石を破壊する為の道具』と説明されてるけど、そもそもこの爆弾、ドラえもんが出した道具じゃないんだよな。

 確か時間犯罪者が盗んで来た道具だったはず。なのにポケットに入ってると分かった時は、本当にびっくりしたよ……もちろんこんな物騒な道具、死んでも使わないつもりだが)

 

「えっ!?」

『何っ!?』

 

 思った以上に危険な道具だった!? あ、危ないよお兄ちゃん!? 早くしまって! それをポケットにしまって!? お願いだから!!

 

「ちなみに、この道具と全く同じ効果の『地球破壊爆弾(22世紀のネズミ捕り)』もあります。危険過ぎて使い道がありませんが」

 

「絶対出さないで!?」

『絶対に出すなよ!?』

 

「もちろん分かってます。先程の超高性能爆弾も、あくまでも説明の為に出しただけですから」

 

(そもそも、こんな物騒な道具を普通に購入して持ってるドラえもんがおかしい)

 

『はぁはぁ……ま、まさかひみつ道具というのは、それほどに危険な物ばかりなのか……?』

 

「いえ、そういう訳では無いんですが……最後は普通に使えば便利でも、使い方を間違えれば大変なことになる道具を見せます。さっき説明したウルトラストップウォッチも当てはまりますが……『この道具』を見て下さい」

 

「……時計模様の布?」

 

「これは『タイムふろしき』と言って、包んだ物や被せた物の時間を進行させたり、逆行させることが出来る道具なんだ」

 

『……進行は良いとして、逆行?』

 

「はい。本来は、壊れてしまった物の時間を戻して新品にしたり、植物の種の時間を進めて瞬時に花を咲かせる等といった、無害な目的で利用する道具です。他にも、瀕死の重傷を負った人間の時間を戻すことで、元気な状態にまで回復させることも出来ます」

 

「今の説明だけを聞けば、かなり便利な道具だけど……何か裏があるの?」

 

「裏と言うより、特殊な使い方だな。この道具を使えば、人間の年齢を操作することも出来る。しかも人間や動物の場合、時間を操作しても記憶や精神には一切の影響を与えず、風呂敷を被る前の記憶が保持されるんだ。この性質を利用すれば、誰でも簡単に不老不死の肉体を手に入れることが出来てしまう」

 

「『……え?』」

 

 不老不死……まさかの単語に、私達は再び驚愕する。地獄や天界でも、その方法を確立させることは禁句とされてきたのに……お兄ちゃんは、それを風呂敷1枚で……!?

 

「それだけじゃない。この道具の恐ろしい所は……遺体に被せて時間を巻き戻せば、死者蘇生すら可能にしてしまう所だ。それどころか、生きている人間に被せて時間を進行させることで、瞬時に遺体にするといった人の命を奪う殺傷武器にもなり得る」

 

「『なっ……!?』」

 

「極めつけは、生きている人間の時間を()()()()()()()……()()()()()()()()()、すなわち()()()()まで戻し、()()()()()()()()ことも出来てしまう。こうなると、人の命を奪った証拠すら残らない。いや、それどころか、単純な殺害よりも残酷な方法で人を葬る恐ろしい兵器と言えるかもしれない」

 

「『…………』」

 

 私達は再び絶句する。不老不死を可能にするだけでも凄まじいことなのに、挙句の果てには死者蘇生、それに存在の末梢まで……頭の中が真っ白になる。

 お兄ちゃんのひみつ道具は、間違いなくユピテルの姉妹が起こす奇跡を超えている。こんなこと、いくら女神達の力を持ってしても……不可能では無さそうだけど、そう簡単に実現出来ることでは無い。

 増してお兄ちゃんの場合、それほどの奇跡をリスク無しで、代償等を一切必要とせず、まるで日常品を使う感覚で手軽に実現出来てしまう。もう、どこから突っ込めば良いか分からない。

 

「尤も、使い方次第で危険な道具になるというのは、何もひみつ道具に限った話ではありませんが。例えばダイナマイトは、正しく使えば穴を掘って道を作る道具として使えますが、戦争では人の命を奪う武器として使われてしまいました。

 先程も言いましたが、タイムふろしきも本来の用途は壊れた物の修復ですし、人命を救う道具として活用することが出来ます」

 

「『…………』」

 

 ……確かに、開発したことが罪と言えるほどの危険物でも無い限り、技術そのものに善悪は無い。技術というものは、使う人次第で不可能を切り開く画期的な手段にもなれば、多くの生命を殺める殺戮兵器にもなる。

 これは人間界でも、悪魔達が暮らしている地獄でも揺るがない事実。だけど、それを踏まえた上でも……お兄ちゃんが出す道具は、使い方を間違えた場合の効果が常識を覆し過ぎているような気がする。

 

「他にも、正しく使えば無害でも、使い方を間違えると危険な道具が……」

 

『ま、まだあるのか!? 分かった! 十分に理解したからもう勘弁してくれ!』

「お、お兄ちゃん! それ以上はやめて! 理解が追いつかなくなるから!」

 

「え? は、はい……すみません」

 

(本当はもっとヤバい道具が沢山あるけど、これ以上言うのは止めておいた方が良さそうだ。ドクロウ達がパニックを起こしかけてるし……)

 

『……け、桂馬君が時間を止めてまでひみつ道具の存在を隠蔽する理由が分かった。確かに危険過ぎる……他者にその情報が漏れれば、本当に洒落にならないことになる……!』

 

「……傍で見てる時は、凄い道具くらいの認識だったけど……まさか、そこまで……」

 

(本当に、お兄ちゃんが味方でいてくれて良かった……! もし敵だったらと思うとゾッとする……)

(本当に、桂馬君が味方でいてくれて助かった……! 万が一、我々の敵に回っていたとしたら、新地獄は確実に詰んでいた……!)

 

『そ、それにしても……桂馬君は、それほどに強力な道具を悪用しようと思わなかったのか?』

 

「……!」

 

「……地獄の私。お兄ちゃんのこと、信頼したんじゃなかったの?」

 

『いや、それはそうだが……転生し、異世界の神から強力な力を与えられたとなると……普通の人間なら、その力に溺れてしまってもおかしくない。

 だが桂馬君からは、どうもそのような悪意を感じない。だからこそ、逆に気になった。桂馬君、君は……どうして、ひみつ道具を悪用しようとしなかったんだ?』

 

「……そんなこと、出来る訳がありません。俺は……」

 

(望んでいなかったとはいえ、原作桂馬の人生を横取りする形で転生してるんだぞ? ただでさえ俺は外道と言われても仕方ない存在なのに……

 神様から与えられただけに過ぎない力を振りかざして、原作キャラに迷惑をかけるだなんて……そんなこと、出来る訳が無い。

 それに、俺が原作キャラを救う為に行動しなければ……いずれ世界が破滅してしまうことは『○×占い』が証明している。

 だからこそ、償いとして……この世界で起こる事件を、桂馬の代わりに解決しなければならない。それが俺に出来る、桂馬への……せめてもの手向けだから……)

 

「……っ、いえ、人間界が狙われると知ってしまった以上、道具を悪用なんかせず、自分の命や世界を守る為に使おうと考えたからです」

 

『……そうか』

 

(転生したということは、彼は見た目より年齢を重ねているはず……だとしても欲に負けず、ひみつ道具(超人的な力)に溺れていないとは……何と素晴らしい! 今時、このような人間がいたとは……!)

 

「お兄ちゃん……」

 

(理由を説明した時の、お兄ちゃんの表情……一瞬だけ、暗くなったような……)

 

「…………」

 

(本当は、こんな模範的な理由じゃない。だけど、ドクロウ達にはまだ『原作』のことを話さないとなると……自分でも綺麗事だと思うけど、こう答えるしか無い。

 でも、原作の事件を全て解決してからは……さっきも考えたが、ドクロウ達に全てを打ち明けるつもりだ。俺が桂馬の人生を奪ってしまったことを……桂馬の代わりに動いていたに過ぎないことを……)

 

『……一応聞いておくが、現時点で桂馬君のひみつ道具を使って、サテュロスやヴィンテージを何とかすることは……』

 

「……可能ですが、あえてやりません。俺がタイムテレビで見た未来はデリケートで、少しでも変な行動を取ると……歴史が大きく捻じ曲がる可能性があるんです。

 少なくとも、以前確認した未来ではサテュロスやヴィンテージは健在でした。つまり、この時点で彼らを拘束することは……危険が伴います」

 

『やはりそうか……』

 

(もしそれが出来れば、桂馬君もわざわざ奴らを泳がせるようなことはしないか……そもそも、私の秘策の内容も今まさに桂馬君が言ったことが当てはまるからな……)

 

「…………」

 

(本当は原作の流れを崩したくないからだけど、そのことはまだ言えないし……結局はリミュエルの時と同じ説明をすることになっちゃったな。原作通りなら、一応サテュロスやヴィンテージは10年後も健在のはずだし、嘘にはならない……よな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お兄ちゃん、ごめんね?」

 

「え?」

 

 俺とドクロウはドクロウ(骨)との通信を終わり、どこでもドアで自宅に戻っていた。時間停止を解除しようとしたところに、ドクロウが話しかけてきた。

 

「お兄ちゃんを……人間界を、地獄のいざこざに巻き込んじゃって」

 

「……!」

 

 そうか……ドクロウは、室長としての責任を感じているのか。無理も無い。俺もドクロウの立場なら、人間界や天界が巻き込まれそうになっている現状をどうするかで頭を悩ませていると思うし。

 

「……気にしなくて良い。ドクロウのせいじゃ無いんだから」

 

「でも……」

 

「悪いのはサテュロスやヴィンテージだし、ドクロウが気に病む必要は無いって。世界を守るって言ったからには、俺も力になるからさ」

 

「……お兄ちゃん」

 

 ドクロウ(骨)が味方についてくれたお陰で、地獄に対する行動はかなり取りやすくなったと言えるだろう。俺が多少ミスをしでかしても、ドクロウ(骨)がフォローしてくれる。

 それと同時に、俺もドクロウ(骨)に協力しやすい立場となった。ひみつ道具の存在を知ってくれている味方というだけでも、俺にとっては非常に心強い存在なのだ。

 

「……ところでお兄ちゃん。お姉ちゃんには、どう振る舞えば良い?」

 

「……え?」

 

「だって、私は今まで記憶を失っていたから……色々と怪しまれないよう、記憶を失ってるフリをした方が……」

 

(……なるほど)

 

 ドクロウからすると、天理は記憶を失っている時に出来た友達で……悪魔としての自覚を取り戻した今は、どう接すれば良いか分からない訳か。

 でも、それはむしろ俺の狙い通りだ。そもそも俺は天理に、ドクロウが特殊な人間であることは既に伝えている。理由はもちろん、天理に全てを打ち明ける時、スムーズに理解してもらう為だ。

 しかし現時点で話すのは早過ぎる。天理に何もかもを打ち明けるのは女神(ディアナ)が宿ってからだと決めている以上、ドクロウにはしばらく黙っていてもらう必要がある。

 

「……とりあえず、しばらくは天理に対して、記憶が戻ってないフリをしていて欲しい」

 

「……うん、分かった」

 

 記憶を取り戻したドクロウなら、俺なんかとは違って変なポカをやらかす心配は無いだろう。頭の良い天理でも気づかないほど自然な演技をしてくれると信じている。

 本当なら、ドクロウには事前に香織編で起こる事件のことを伝えておいた方が良いのかもしれない。しかし、相手はあの香織だ。例えドクロウが優秀でも、少しでも怪しまれれば厄介なことになりかねない。

 となると『敵を欺くにはまず味方から』理論で、天理とドクロウには香織が事件を起こすことを、まだ伝えない方が良い……と思う。本当に、隙を見せたら最後と考えておいた方が良いはずだ。

 それにしても、もう少しで天理に女神(ディアナ)が宿ることになるんだよな……その時はどうやって説明しよう。女神(ディアナ)が駆け魂と共に、心に入り込むと説明するのも……ん? ()()()

 

「あ、忘れてた」

 

「どうしたの?」

 

駆け魂(これ)、向こうのドクロウに処理してもらおうと思ってたのに……」

 

 俺はポケットから『四次元ペットボトル』を取り出す。中には香夜子に憑りつくはずだった駆け魂が保管されている。

 

「……駆け魂?」

 

「数年前、うららの母親に憑りつこうとしてたところを確保したんだけど……俺が勝手に地獄に送り届ける訳にもいかなかったから、こうしてずっとポケットにしまってたのを忘れてて……」

 

「…………」

 

(お、お兄ちゃん……駆け魂隊でも無いのに、ひみつ道具で駆け魂を勾留してたんだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……新悪魔達や天界の様子はどうだ?」

 

「見事に()()()()計画を我々の計画だと誤解しています」

 

「そうか。()()計画さえ知られなければ、奴らを欺くのは容易い。だが、欺くのは新悪魔だけでは無いことは分かっているな?」

 

「それはもちろん。しかし、どうします? 奴らが表向きの計画を疑わないようにするには、やはりヴァイスの隠れ処を用意しなければなりません。

 人間界の少女をターゲットにするのがベストですが……如何せん、人間界にも警戒すべき存在が潜んでいるらしいですし……」

 

「……仮に脱走地点から比較的近い位置で行動を起こそうにも、派手な動きは出来ないか」

 

「えぇ。その存在に悟られれば、いくら我々の力を持ってしても……」

 

「……相手は異空間を作り出せるかもしれない奴だ。となると、常識では考えられない力を持っていることも考慮しておかねばならん」

 

「となると、迂闊なことは出来ませんね……増してどこにいるか分からないとなると、こちらも動きづらくて仕方ない……」

 

「仮にそいつが新悪魔なら、こちらの動き方次第で騙すくらいのことは出来るだろう。しかし、人間界にいる存在ではな……」

 

「とりあえず、理想を言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、尚且つ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()必要があります」

 

「かなり厳しいが……不可能では無いな」

 

「何か名案が?」

 

「既に行っているが、技術の強化を進めることだ。新悪魔のような腑抜け共を上回る技術を確立し、同時に隠蔽技術にも力を注がなければならない。新悪魔だけでなく、人間共にも気づかれないようにせねば」

 

「地獄のエネルギーは、我々が裁量を握っていると言っても過言ではありませんからねぇ。そのお陰で……」

 

「口を滑らせるなよ? 防音結界を張っているとはいえ、誰が聞いているか分からないからな」

 

「もちろんですとも。ところで、少女の中にはスキマだけでなく……闇を抱えた奴もいるでしょう。どうせなら、そいつを()()()()と言うのは?」

 

「ふむ……やるとしたら、しばらくの観察は必要だろうな。その相手が警戒すべき存在で、こちらの目的が知られれば厄介なことになる」

 

「確かに気をつけないといけませんねぇ。表向きの計画の実行より少し前から、()()でも探しておきましょうか」

 

「あぁ。そして、以前から言っているように……この表向きの計画の情報を、地獄にそれとなく流し続けろ。決して真の計画を悟られるな」

 

「分かりました。ですが、やり過ぎれば表向きの計画が邪魔されるのでは?」

 

「構わん。封印さえ解いてしまえば、後はこちらのものだ。我々が手を出さず、どこかに脱走したヴァイスは放っておいても適当な少女の心に潜む。そいつらが勝手に暴れてくれれば我々としても好都合だ。それだけじゃない。真の計画のカモフラージュとして……そして、少女の中で育った強力なヴァイスを……」

 

「なるほど……ですが、そういうことなら封印解除だけは何としても邪魔される訳にはいきませんね」

 

「あぁ。しかし、リスクだけでなくメリットもある。地獄に情報を流した上で、我々の表向きの計画が少しでも()()()()()()()に邪魔されたとすれば……その地区に、警戒すべき存在がいることが確定する」

 

「……そいつの居場所をある程度絞れるという訳ですね」

 

「そうだ。もちろん無駄な警戒で終わる可能性もあるし、そいつに表向きの計画がバレるリスクはある。だが、そいつの居場所を絞ることが出来た場合のリターンも決して無視出来るものでは無い。最低でも、封印さえ邪魔されなければ良い。仮にそいつが近くにいることを確認出来た場合、即座に指令を出し封印を解除すれば……」

 

「まぁ、どうせそいつの妨害により仲間が数人犠牲になったところで、いくらでも()()()()()()()な」

 

「……表向きの計画として、隠れ処にする少女の人数は最低限に抑えておく。精々6人が限界だろう。理想を言えば()()()()()()()()()()()()()()し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だが……

 流石に女神は封印解除後にどうなるか分からない。得体の知れない場所に転移するか、我々でも発見出来ないほど弱った状態で眠り続けるか……そういう意味でも、やはりヴィンテージの存在は必要だ」

 

「……女神について確かなのは、ヴァイス達と共に眠っていることだけですね」

 

「その女神も封印で弱っているのは間違いないだろう。最悪、女神は後回しでも良い。何よりも、そいつに真の計画を悟られず、尚且つ表向きの計画を遂行し……あわよくば、奴の居場所を絞ることだ」




 ドクロウについての補足ですが、『ドクロウ(骨)に残留魔法が染みついていて、分身生成と球生成に失敗した』というのは完全に独自設定です。
 原作ではドクロウ(人間)が桂馬と出会ったばかりの時、彼女が持っていた球が機能せず、彼女自身も記憶喪失で全てに絶望していた理由は不明……だったと思います。見落としていたらすみません。
 そこでドクロウ(人間)が記憶喪失になっていた理由を『ドクロウ(骨)の体に残留魔法が残っており、分身に悪影響を及ぼしてしまった』という設定にしました。
 また、ドクロウ(人間)は原作で『球は2人で作った』と言っていますが、初期状態のドクロウ(人間)だと球を作る以前の問題だと思ったので、球についても『ドクロウ(骨)に染みついた残留魔法の影響で失敗した』という設定にしました。

 冥界と天界による魂と前世の記憶についての話も独自設定です。
 原作では冥界が『魂の浄化及び保管場所』で、天界が『魂を再び人間に与える場所』とされていますが、もしかすると何かの手違いで前世の記憶が消し切れなかったりすることもあるのではと思い、主人公に合わせてこのような設定にしてみました。
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