「……よし、準備は整った」
今日は俺が『宇宙完全大百科』で調べた、うららの母親に駆け魂が宿る日だ。
もちろん今から助けに行くのだが、馬鹿正直に正面から挑むのではない。その前に色々と
「『ヒミツゲンシュ犬』は……ちゃんと機能してるな」
頼みの綱であるひみつ道具のことが敵にバレれば、間違いなく厄介なことになる。それこそ
そんなことにならない為にも、俺は『ヒミツゲンシュ犬』を使った。秘密にしておきたい内容を紙に書き、この道具に食べさせれば、その秘密は永久に守られる。
仮に秘密を知る者が第三者に密告しようとしたり、秘密を知りたいと思った者が道具使用者の秘密を暴こうとしても、何らかの偶然が重なり、秘密が漏れることはなくなるのだ。
ただし食べさせられる紙の量には限界がある為、あまり沢山の秘密を守らせることは出来ない。
「これで堂々とひみつ道具を使えるはず」
俺は紙にこう書き込み、ヒミツゲンシュ犬に食べさせた。
『俺が持つひみつ道具の存在。ただし俺が信頼に値すると判断し、自ら道具のことを
こうすることで、俺がどれだけ派手にひみつ道具を使ったとしても、恐らくバレることは無いはず。
しかし原作ではのび太が道具に守られた秘密を自らバラそうとしたことは無いので、俺がわざと他人の目の前でひみつ道具を使えばどうなるかは分からない。
念の為『○×占い』で調べてみたが、俺がひみつ道具の存在を正確に話さない限りは、せいぜい『よく分からない力だ。一体何だろう?』としか思わないらしい。
ただ、万が一信用出来る味方……天理やエルシィ達にひみつ道具のことを話す可能性も考え、あえて例外規定を書き込んでおいた。
こうすれば俺が秘密を話した相手は道具の力を正しく認識することが出来る。
「後はどうやって母親を助けるか……」
一応の策は考えてある。部外者の俺がいきなり首を突っ込むのではなく、まずは母親自身から爺さんに訴えかけるというもの。少なくとも、初対面の俺が説得するよりは上手くいく可能性が高い。
もちろんひみつ道具の中には人を思うが儘に操る道具もある。それを使った方が簡単に解決するのかもしれないが、流石にそんな卑劣な手段は出来る限り取りたくない。
この手の道具はどうしようも無くなった時の最終手段だ。ただ、万が一失敗した時に備えて第二の策も用意している。
それでも上手くいかなければ、原作で桂馬が使った『球』の代わりに『逆時計』や『現実ビデオ化機』、『フリダシニモドル』や『後戻りカレンダー』で時間を巻き戻せば、再びやり直すことも出来る。
とは言え、これらも人を操る道具と同じように、可能な限り取りたくない手段だ。一発で成功させるに越したことは無い。
「駆け魂が入った理由を考えれば……この方法がベストだと思いたい」
母親に駆け魂が宿った原因は、確か『白鳥家の柵による息苦しさと義父達がいない寂しさを抱いたから』だったはず。事前に○×占いで調べておいたので間違いないと言えるだろう。
だとすれば、やはり母親の寂しさを爺さんに理解させれば、駆け魂が入ると言う最悪の事態は回避出来ると考えた。
「でも、原作知識の頼り過ぎには気をつけないとな」
正直、いくら俺に原作知識があるとはいえ、隅々まで完璧に把握しているわけでは無い。ひみつ道具と同じく、原作知識も過信しないよう心がけるつもりだ。
「……よし、行くか」
俺は用意していた『道具』を身に付け、ポケットから『どこでもドア』を取り出す。
ヒミツゲンシュ犬が発動している以上、いきなり母親の部屋に移動しても道具の存在がバレることは無いはずだが、必要以上に道具が目立つような真似をするのもアレなので、念の為に移動場所は『白鳥家の敷地内の人目のつかない所』と設定しておく。
「…………」
ドアノブを握り、ゆっくりとドアを開ける。すると目の前には、原作で見た白鳥家の広い敷地が広がっている。
それでいて、周りには人がいない。どこでもドアが俺の入力通り、人がいない場所に上手く繋げてくれたのだろう。
「初めてドラえもんの道具を使った実感が湧いたな……何かもう凄いとしか言いようがないわ、これ……」
人類が長年負い続けている夢の1つであろう瞬間移動……ドラえもんのひみつ道具にかかれば、こんなおもちゃみたいなドアで手軽に実現出来るのだ。
思わず感動して目的を忘れそうになるが、興奮をグッと堪える。モタモタしている時間は無い。うららの不幸が刻一刻と迫っている。
「家に入る前に、まずは『これ』を使って――――」
「…………」
「……やっぱりここにいたか」
俺はうららの母親……名前は忘れたが、とにかく彼女の自室にやって来た。部屋の中央には、いかにも悲しげな表情をした……うららの母親がいる。事前に確認した通りなら、彼女にはまだ駆け魂は入っていないはず。
「それにしても、本当に俺に気づいてないんだな。顔の目の前で喋ってるのに」
頭に被っている帽子……『石ころぼうし』を手でさする。被れば道端の石の如く、誰からも存在を認識されないという効果を持つ。
ただしこの道具は原作でも短編と大長編で効果がかなり違っているのだ。短編でのび太が使った時は、周りの人間に何をしても一切気づかれていなかったが、大長編『魔界大冒険』でドラえもん達が使った時は、声が聞こえたり臭いを嗅がれたりと明らかに弱体化していた。
予め○×占いで調べたところ、短編と同様の効果であることが分かり、念には念を入れて更に調べると、声も足音も臭いも、本人の存在を示すものは何もかもが無視されるということが分かった。
単に姿を見えなくするだけの『透明マント』より優秀だな……これさえ被っておけば絶対に見つからないもんな。
「さて、まずは母親と爺さんで話し合ってもらわないと」
俺は既に起動させておいた『カムカムキャット』を見る。招きたい人の名前を言いながら起動させると、その人物を呼び寄せることが出来る道具だ。
原作ではドラえもんとドラミがそれぞれ使用しているが、効果がかなり違っていた。
前者は呼び寄せたい人の体を操り強引に引き寄せていたが、後者は偶然の積み重ねで呼び寄せたい人物がこちらにやって来る状況を作り出していた。
○×占いで調べると、パワーの強弱で効果を調整出来るとのことなので、今回はパワーを弱め、爺さんが偶然早く帰って来る状況を作ることにした。
『取り寄せバッグ』や『呼びつけブザー』で強引に連れて来ても良かったが、母親の説得が終わった後の処理が面倒なことになりそうなので、あえてこの道具を選んだ。
「さて、爺さんはいつ頃帰って……ん? この音は……」
廊下から足音が聞こえ、外を覗くと爺さんがこちらに向かって来ていた。正直、爺さんが帰って来るのはもう少し先の時間だと思っていたが、どうやらカムカムキャットが融通を効かせて、最速で引き寄せてくれたらしい。
「ただいま戻りました、香夜子さん」
「……お義父様」
「今日は思ったよりも仕事が早く片付きまして……日付が変わる前に帰宅出来たのは久しぶりですね。尤も、正晴は別件でもう少し時間がかかると言っていましたが……」
「…………」
母親……香夜子は一瞬だけ嬉しそうな顔をしたように見えたが、すぐに切なげな表情に戻った。
今日は都合良く爺さんに会えただけで、どうせ明日以降はまた孤独……なんて考えているのかもしれない。
本当は爺さんの仕事が休みの日を狙い、ゆっくり話し合う時間を設けた方が良かったのかもしれないが、俺はあえて今日を選んだ。母親……香夜子の心のスキマを埋めるだけでなく……
「……香夜子やうららに憑りつくはずだった駆け魂も、何とかしないといけないからな」