俺は手に握っていた『正直電波(新型)』を香夜子に向ける。電波を浴びせた人の心を揺さぶり、思っていることを話さずにはいられなくする道具だ。
これだと自白剤のような道具と捉えられそうだが、実際には照れくさくて言いづらいようなことでも、相手に伝える勇気を生み出す道具と言った方が良いかもしれない。
「これで香夜子が抱える寂しさを爺さんに聞かせてやれば……」
ピピピピピ……
「……っ!」
電波を浴びせられた途端、香夜子はみるみる内に何かを堪えるような表情になる。恐らく電波の影響で、普段は抑え込んでいた寂しさや悲しさが溢れそうになっているのだろう。
まさに俺の狙い通りの反応だ。ここから先は爺さんの対応次第だが、念には念を入れて第二の策の準備もしておく。
「香夜子さん……?」
「……寂しかった」
「え……?」
「ずっと孤独で……正晴さんもお義父様も帰ってこず、私のことを見ていなかった……」
「な、何を……」
「ずっと黙っていました……この立派な世界に、私が波風を立ててはいけないと……舞島を守る名家に嫁いだ身として、自分勝手なことを言ってはいけないと……誰にも心の内を話さず、ただひたすら……耐え続けました……」
「…………」
「……でも、もう限界なんです」
「……!」
「私が我儘を言っていることは分かっています。私の心が弱いことも、分かっています……でも……でも……! もう、孤独は嫌なんです……! 寂しいんです……! お義父様……正晴さん……私を、1人にしないで……!」
「……香夜子、さん」
「……原作では、この心のスキマを駆け魂に狙われたんだよな」
香夜子は目に涙を溜めこみながら、爺さんに本音を打ち明けた。正直電波の力とはいえ、ずっと爺さんに伝えたかった気持ちには違いないはずだ。後は爺さんが香夜子の心情を理解して、行動を改めてくれれば……
「……申し訳ございません。私は……いえ、私達は、貴女を苦しめていたのですね」
「…………」
「ですが、みんな香夜子さんを愛しています! 正晴はもちろん、私も……!」
「……お義父、様」
「よし、このまま上手くいけば……」
「ただ、仕事の関係上……ずっと家に居続けるということは出来ません」
「ん?」
「香夜子さんのお気持ちは分かりました。ですが……私も正晴も多忙の身。どうしても、長期間家を空けてしまうことは避けられないでしょう」
「おい爺さん……」
「どうか、お許し下さい……私達が家に戻らない間は、柳を含む家の者を傍に……」
そうじゃない。そうじゃないんだって。香夜子は爺さんや旦那にいてほしいって言ってただろ。いや、言わせたのは俺だけど。
でも今のが香夜子の本音なんだよ。それは正直電波がたった今証明した。もちろん、爺さんが何もかも悪いと言うつもりは無い。爺さんには爺さんの都合もあるんだろうけど……
だからって、この状況で相手の心情を否定するようなことを言ったら……
「……ぐすっ」
「っ!?」
「うぅっ……」
「か、香夜子さん……」
ほら泣いた。そりゃ泣くよな。『一緒にいて』って言ったら『ごめん無理』って返されたようなものだからな。
これはダメだ。香夜子に爺さんを説得させる作戦は失敗だな。仕方ない……用意していた第二の策でいくしかないか。原作の桂馬がうららに対して行った作戦を、俺なりにアレンジしただけだけど。
爺さんは原作でも桂馬の突拍子もない話を信じていたし、多少飛躍した方法でも上手くいくはずだと思って考えた策だ。
俺は爺さん達から少し離れた位置に立った後、用意していた『透明マント』を被り、あえて『石ころぼうし』を脱ぐ。ここから先は俺が爺さん達と会話する必要があるからな。
「あ~あ、泣かせたな爺さん」
「だ、誰だ!?」
「……え?」
「折角香夜子さんが頑張って胸の内を曝け出したのに……」
「声だけが……ど、どこだ! 出て来い!」
「…………」
「ここだよ」
俺は透明マントを脱ぎ、すかさずポケットにしまう。こうして不思議な現象を目の前で見せておけば、少なくとも『ただの迷い込んだ子供』と思われることは無いはずだ。
「っ!? い、いつからそこに……!」
「ついさっき。香夜子さんが『寂しい』って言ったところからだ」
「……!」
「……私が部屋に入ったところからか」
もちろん姿を現した途端に襲われたらひとたまりもないので、予め腹に『厄除けシール』を貼っておいた。このシールを体に貼っておけば、あらゆる災難から逃れられる。
原作でもドラえもんがこの道具の性能を証明する為に、のび太にわざと災難を起こそうとしたが、偶然を積み重ねることでのび太を災難から守りきるほどの性能だ。
すなわち、このシールを貼っている限りは俺の安全が約束された状態となる。実際に爺さんが不審者である俺に攻撃してこないのも、多分シールのお陰だろうな。もしくは俺がどう見ても3歳児だから、無意識の内に油断してるだけかもしれないが。
「あ、貴方は一体……」
「…………」
(……落ち着け。狼狽えるな……突然目の前に姿を現したんだ。少なくとも、ただの子供では無いだろう……ここは冷静に……)
「……目的は何だ? 何を企んでいる?」
「気になるか?」
「「…………」」
「沈黙は肯定と受け取る。そうだな……まずはこれを見てほしい」
そう言いながら、俺は予め『透明ペンキ』で透明にしておいた『タイムテレビ』に触れる。最初は『片付けラッカー』を使おうと考えたが、こちらは4時間で効果が無くなるので透明ペンキを選んだ。いくら何でも説得に4時間以上かかるとは思えないが、リスクは少ない方が良い。
とは言え、透明ペンキは効果が永続する代わりに水で洗えばすぐに落ちるという弱点もある。だけど流石にこの部屋が水で溢れるなんて超展開にはならないだろ、うん。厄除けシールも貼っているし。
『ヒミツゲンシュ犬』を使っているとはいえ、必要以上にひみつ道具を見せつけることは避けたい。原作で桂馬の味方だった爺さんはまだしも、香夜子が信用出来るとは限らない。
念には念をとタイムテレビを見えなくすることで、今から見せる映像の仕組みや、さっき透明マントを脱いで爺さん達の目の前に突然現れたことを突っ込まれても上手く誤魔化せるようにした。
「今から映し出す映像は、爺さん達が辿るであろう未来だ。かなり凄惨な内容だから、覚悟して見てほしい。そして、その映像こそが……俺がここにやって来た理由でもある」
「未来……?」
「あの、どういう……」
タイムテレビは、単純にこれから先に起こる出来事……俺達が歩むことになる未来を見るだけでなく、
ただし、普通に映し出すだけでは小さな四角い画面が浮き出るというシュールな光景になってしまう。そこで説得力……と言う名の迫力を持たせる為、立体映像方式に切り替えておいた。
これで爺さん達の目の前に、駆け魂が宿った香夜子が暴れ回る場面や、爺さんが悪魔との死闘で下半身をもがれる場面が立体映像で鮮明に映し出される。
多少強引な手段ではあるが、ここまですれば流石に爺さんも香夜子の言う通りにしてくれるはず……
ストックはここまでです。思った以上に展開を進めるのが難しい……!