「まだまだ他の宇宙に行くんですわー!」
「やだ! 美生のお願いが先ー!」
「う、うららちゃん、美生ちゃん……」
「痛い痛い痛い」
子供というのは遠慮が無いもので、うららも美生も俺の両腕を力一杯引っ張っている。俺自身も3歳児の身体であるせいか割と痛い。叫ぶほどではないが結構痛い。
「……こ、この2人は?」
予想外の事態に連続して直面したせいか、俺は若干震えた声で香夜子に尋ねる。すると香夜子側も予想外だったのか、俺と同じように少し震えた声で事情を話し出した。
「そ、それは……さっきお義父様から――――」
「そういえば、桂馬君はどんなお菓子が好きなのかしら……」
お茶菓子を用意すると言ったは良いものの、肝心の好みを聞き忘れてしまいました。
あの子なら何でも食べてくれそうな気はするけれど、万が一嫌いな物を出してしまっては申し訳ありません。
私達の命の恩人ですし、失礼な真似をする訳にはいきませんから。
「とりあえず、甘いお菓子と辛いお菓子を用意すれば……」
「香夜子さん」
「え? あ、お義父様。どうかなさいました?」
「実は、少し厄介なことになってしまいまして……」
「厄介なこと?」
「……もうすぐ、青山さんと五位堂さんがこちらを訪ねて来ます」
「えっ!?」
よりによって桂馬君がいる今日!? どうしてわざわざ今日なんですかお義父様!?
「あの、どうして……」
「青山さんや五位堂さんが、家で話したいと聞かなくて……まぁ、いきなり『うちの仕事を減らす』等と言えば慌てるのも仕方ありません。
2人とは長い付き合いですし、何より共同で行っている仕事も決して少なくありませんから。
幸い、こちらの要件はある程度飲んでくれることになりましたが、その件についてや他の仕事への影響、色々な摺合せについての話し合いは避けられません」
「そ、それなら青山さんか五位堂さんの所で話を……」
「もちろんそう言いましたが、娘さん方が『うららと遊びたい』とはしゃいでしまったそうです」
「そこで話し合いのついでに、娘さん……美生ちゃんや結ちゃんも連れて来るという話に……?」
「はい。何よりこちらから切り出した話ですし、断れませんでした」
「…………」
確かに、突然無茶なことを言い出したのは私達の方なので、ある程度はこちらも融通を利かせないとまずいとは思います。
ですが流石に今日は……今日だけは避けられなかったのですか!? 桂馬君、自分の力が広く知れ渡ることを嫌がっていましたし……
「正太郎様! 青山家と五位堂家の方々がお見えになりました!」
「えっ、もう!?」
「分かりました。では香夜子さん、仕事の時間は必ず減らしてみせます。ただ……美生ちゃんと結ちゃんが桂馬君と出会わないよう、上手く誤魔化して下さい。お願いします!」
「いや、ちょっと待って下さい! 急に言われても!? お義父様ー!?」
「……それで屋敷に入った途端ダッシュでうららを探した2人を止められなかったと」
「……はい」
誰がそんな可能性を考慮してるというのか。おいおい嘘だと言ってくれ。そんな偶然で美生と結にもひみつ道具……いや超能力がバレたのかよ!?
うららにバレたのも結構ヘコんでたのに、わざわざ追い打ちかけてくるなよ! え? 俺が迂闊で馬鹿なだけ? その通りですごめんなさい!
「宇宙ー!」
「背を伸ばしてー!」
「あーもう! とりあえず腕を離してくれ! そして一旦落ち着いてくれ! 話はそれからだ!」
「「やだ!」」
「強情!?」
「う、うらら! 我儘を言ってはダメよ! 美生ちゃんも、桂馬君が痛がってるから離してあげて?」
「……分かりましたわ」
「……は~い」
香夜子が叱ったら2人とも素直に言うことを聞いた。俺だって精神年齢では香夜子と良い勝負なんだけどなぁ……やっぱり子供の身体は不便だ。
「……はぁ。で、うららは良いとして、美生は何が望みなんだ」
ここまで来たら、もう2人の希望を叶えた方が早いだろう……気は進まないけど。誤魔化そうとしたら返って泥沼にはまりそうだし……俺のことだから、どうせどこかでボロが出そうだ。
本音を言うと『ツモリガン』を使いたいが、流石に可哀相なのでやめておいた。元はといえば俺が迂闊だったのが原因な訳だし。
あんな部屋を見せられたら2人が騒ぐのも無理は無い。多分大人でもパニックになると思う。
「おっきくなりたい!」
「別に小さくは無いと思いますわ」
「そんなことないもん! 公園で遊んでたら、いっつも男の子に『チビ』って言われるもん!」
「そ、そうかな……? 結も美生ちゃん、ちっちゃくないと思うけど……」
「そんなことないもん!」
これはダメだ。本人が『小さい』と思い込んでる以上、何を言っても無駄だな。増して子供なら尚更だ。
悲しいことに原作通りなら、美生は同年代の中でも割とちんまいことが確定してるし……まぁ下には下がいるけど。
「じゃあ、他の人に見られたら大変だし……少しの間だけな?」
「ほんと!?」
渋々俺はポケットから『ある道具』を取り出す。簡単に美生の願いを叶え、尚且つ簡単に元に戻せる道具だ。
「よし、美生。目をつぶれ。皆も美生を見てろよ?」
「うん!」
「「「…………」」」
全員の視線を美生に集中させておき、今の内に俺が出した道具を片付けラッカーで見えなくしておく。
正直ここまでバレていると隠すだけ無意味な気もするが、これ以上他の人間にバレるのは非常にまずいので、念には念を入れておく。
「……高校生の青山美生」
俺は小声でそう呟き、用意した道具を美生に
「あ、あれ? うらら達、小さくなった?」
「……み、美生ちゃんが大きくなっちゃいましたわ!?」
「……!?」
(……こんな無茶な願いをあっさり叶えてしまうなんて。本当に凄いわね、桂馬君の超能力は)
『神のみ』原作1巻で見たことのある、現代の姿……高校生の美生がそこに立っていた。
俺が使ったのは『モドキスプレー』。原作には存在せず、声優交代後の『ドラえもん』に登場したアニメオリジナルのひみつ道具だ。
このスプレーを吹き付けると、見た目だけ別の物や姿に変えることが出来る。元に戻す時は『モドリスプレー』を吹き付ければ良い。
ただし中身は変わらないので、この美生は見た目は大人(?)、頭脳は子供という某少年探偵と真逆の存在である。
大きくするだけなら様々な道具があるが、姿を変えるにしても戻すにしてもスプレーを吹き付けるだけなので、この道具が一番手軽だ。
ちなみにこの道具、初登場した話ではドラえもんとのび太がタラバガニの姿になるというとんでもない展開だった。当時、偶然テレビで見かけて吹き出したのを覚えている。
「ほら、鏡見て!」
「……えっ!? これ、美生!? 嘘!?」
「本当だ。今の美生は俺達の中で一番大きいぞ」
(ただし香夜子を除く)
「やったぁー! 美生、ほんとにおっきくなったんだー! これでもう馬鹿にされないもんねー!」
美生が高校生の姿で思う存分はしゃいでいる。元々の身長がそれほど高くない上に、年齢上は高校生なので微笑ましく見える。これが成人女性だと少々落ち着きが無い人と思われそうだ。増して年齢がアラ……いや、何でもない。
「これでパパに会ったらびっくり……」
「おっと、その姿で外に出るなよ? 大騒ぎになるからな」
「えー!? どうしてもダメー?」
「どうしても!」
「ぶぅ~」
ふくれっ面してるけど、ここはどうしても我慢してもらわないといけない。こんな状態で父親の前に現れでもしたら、間違いなく厄介なことになる。最悪、勝手に部屋を出ようとしたらすぐ元の姿に戻すしかない。
「凄いですわケイちゃん! こんなことも出来るなんて!」
「……うん。美生ちゃん、嬉しそう」
「…………」
俺自身の力では無い。あくまでもひみつ道具が凄いだけだ。だからこそ、こうして尊敬の眼差しを向けられると……複雑な気持ちになる。
原作の桂馬はエルシィ達の力を借りつつも、持ち前の頭脳とゲームの知識でピンチを切り抜けて来たが……
俺はひみつ道具以外に、自信を持てるだけの能力は無い。そのひみつ道具も、神様から与えられただけに過ぎない。
「……桂馬君?」
「……え?」
「大丈夫ですか? 今、少し悲しそうな顔をしていましたけど……」
「……何でも無い。超能力のことがあっさりバレてがっくりしてただけだ」
「……あ、あのっ」
「ん? お前は……結だったか。どうした?」
「えっと……」
「…………」
そういえば、原作の結は男装する前は物静かな性格だったっけな。正確には、本音を言えず溜め込んでしまうタイプか。
これって間違いなく母親のせいだよな……そのせいで駆け魂にスキマを狙われたわけだし。
「……太鼓」
「え?」
「太鼓……叩いて、みたいなぁ……」
「え~? そんなことでいいの~?」
「そうですわ! ケイちゃんなら、もっとすっごいことでも……」
「うらら。結ちゃんには結ちゃんのしたいことがあるんだから、そういうことを言っちゃダメ。美生ちゃんもね?」
「「は~い」」
「…………」
そうか。結はこの頃から音楽に憧れてたのか。原作でも部活を辞めたくなかったって言ってたし、よっぽど音楽が好きなんだな。そういうことなら……
「……よし。今から用意する」
「え……?」
普通の太鼓も出そうと思えば出せるが、ここはあえて『子供が喜びそうな太鼓』を出す。
俺はポケットから『イメージ実体機』を取り出し、背中に隠しながら起動する。この道具は頭で思い描いた物を実体化して目の前に出すというとんでもない効果を持つ代物だが、一度使うごとに高額の使用料がかかるらしい。
原作でも一体どこから金を取られるかは謎のままだったが、どうせ金の問題は『フエール銀行』で何とかなるので気にしないことにする。
俺は頭に『あるゲーム筐体』を思い浮かべる。恐らくこの世界にも存在するとは思うが、勝手に持ち出すのもどうかと思ったのでこの道具を選んだ。
「「「きゃっ!?」」」
「……!?」
「ほい。お子様から大人まで皆楽しめる太鼓ゲーム、いっちょあがり」
目の前に突然ドスンと現れた『太鼓の達人』の筐体。太鼓を叩く楽しさと、色々な音楽の両方を楽しむなら、これで遊ぶのが一番だと思ったからだ。
ちなみにゲームセンターの物とは違い、小銭を入れる必要は無い。頭で想像する時、その辺りもしっかり考えておいた。
『太鼓を叩いてスタート!』
「わぁ……!」
「何これ?」
「ゲーム……ですの?」
「目の前にゲームが……一体、どうやって……?」
結は目を輝かせて筐体を見ている。どうやら俺の考えは正解だったようで何よりだ。よく見るとうららと美生も興味を示している。香夜子はゲームそのものより、俺がゲームを出したことに疑問を抱いているようだが。
後は結がほど良くゲームを楽しんだ後、ボロを出さない内に俺は家に帰してもらって終了というわけだ。
え? 『どこでもドア』で帰れば良いだろって? 勝手にいなくなって美生や結が俺のことを親にペラペラ話したらヤバいし。
今は道具に興奮してそれどころではないが、美生や結が落ち着いたら念の為に釘を刺しておきたい。うららは香夜子や爺さんが何とか止めてくれる……と信じてる。
「ほら、結。そこにバチがあるから叩いてみな?」
「う、うん……えいっ」
『曲を選ぶドン!』
「あ……わぁ……!」
うんうん、良い感じに喜んでるな。そうそう、そのまま太鼓を楽しんで満足するんだ。そして俺を安堵の地、自宅へ帰してくれれば……
『難しさを選ぶドン!』
「次は美生ー!」
「うららですわー!」
「ゆ、結も……!」
「こ、コラ! いつまでやってるの!」
「…………」
うん。俺、またミスったみたい。まさか2時間ぶっ続けで楽しむとは思って無かった。途中で爺さんが部屋の様子を見に来てドン引きしてたよ。そりゃそうだよな。
宇宙空間の中で、美生がやたら成長してて、うららと結は何故かその場にあるアーケードゲームに夢中だもんな。
こっそり爺さんに『出来るだけ会議を長めてほしい』と頼むのは申し訳なかった。マジで。
「次は『むずかしい』で勝負よ!」
「……うん!」
「あー! 次はうららなのにー!」
……あぁ、早く家に帰りたい。
次こそ天理を登場させます。